世界最大ヘッジファンド『ブリッジウォーター・アソシエイツ』のレイ・ダリオ氏は、3つの要因から長期的な経済の展望に対して悲観的です。この見方はどこまで妥当なのでしょうか?(江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて)
本記事は『江守哲の「投資の哲人」~ヘッジファンド投資戦略のすべて』2017年5月29日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:江守 哲(えもり てつ)
エモリキャピタルマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。
世界最大ヘッジファンドのCEOは世界経済の何に怯えているのか
レイ・ダリオ氏が抱く「3つの懸念」
著名ヘッジファンドマネージャーで、世界最大のヘッジファンド『ブリッジウォーター・アソシエイツ』を率いるレイ・ダリオ氏は、依然として長期的な経済の展望に対して悲観的なようです。
ブルームバーグのインタビューによると、ダリオ氏を不安に陥れている3つの要因は、「不穏なまでに穏やかに見える世界経済」「政治的・社会的対立の拡大」「生産性の低下」のようです。
懸念(1)「穏やかすぎる」世界経済
ダリオ氏は、経済が絶好調のペースに達しているにも関わらず、今後2年以内に生じうる主要リスクの気配がない点を懸念材料に挙げています。
ダリオ氏は、世界経済を動かす3大原動力を、「一般的な事業や短期的な債務サイクル」「長期的な債務サイクル」「生産性」と定義し、財政政策と金融政策がこれらをコントロールしていると見ているようです。
現時点では主要経済は短期債務サイクルの中盤にさしかかっており、経済成長率は平均的なことから、2008年の金融危機の直前のような兆候は見られず、全体的に安定しています。
しかし、長期的な債務サイクルに目を向けると、債務総額の膨張に加え、年金・医療・福祉といった非債務が経済を圧迫している事実が一気に浮上するとし、中央銀行にはこうした現状を修正する力はないとしています。
言われてみれば、確かにそのような指摘は正しいように思われます。
懸念(2)過去最悪規模の政治的、社会的な対立
ダリオ氏は、第2の不安要素として、「過去何十年間で最悪の規模にまで拡大した政治的、社会的対立」と上げています。
ダリオ氏はこうした確執が、経済状況と隣接関係にあると確信しているようです。
欧米におけるポピュリズムや移民問題、内部紛争、テロ、格差社会などは世界平和を揺るがす脅威であり、これらの懸念はますます強まっています。
これまでは、全般的な経済が好調であれば、世界情勢も安定しているというのが、従来のパターンでした。
しかし、ダリオ氏が懸念しているのは、過去に例を見ないアンバランス感であるといいます。
そのうえで、今後さらに対立が悪化すれば、ますます不均等な状態が深刻化すると見ているようです。
懸念(3)軒並み低迷している先進国の成長率
また、生産性の低下も、経済リスクとして挙げているようです。
先進国の実質GDP成長率は、長期間にわたり低迷しています。後発の発展途上国は10%を超える成長率を示していますが、先進国の成長率は1%台にとどまっています。
生産性の低下が経済成長に歯止めをかけているのは言うまでもないわけですが、このような現状を打破する政策は示されておらず、市場の期待も膨らみにくいと言えます。
またダリオ氏は、主要国の経済の行方に関する見解も示しています。
米国は短期債務サイクルの中期後半にさしかかっており、経済面ではある程度強い伸びが期待できるとしています。
しかし、債務規模は拡大し、金利も金融危機以前とは比較にならないほど低いままですし、トランプ政権による政治的・経済的影響も気になるとしています。
また、ダリオ氏が定義する長期債務サイクルの終盤を迎えているとされる欧州も、政治的基盤の変動が懸念されています。
長期間にわたる超低金利環境から脱出できず、経済面での強さを維持するドイツと、破たんの危機にさらされているギリシャといった加盟国間の格差が目立っています。
この点は今更ながら指摘する必要はないのですが、EUあるいはユーロ圏の存続の観点からは、解決がきわめて難しい問題ではあります。