【書評】日本人には判らない、中国人が財布を持たなくなった理由

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以前掲載の「ここ2年、上海に起きた『進化』が日本を完全に周回遅れにしている」などでもお伝えしているとおり、中国で爆発的に普及しているスマホ決済。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げているのは、そんな中国を昨年取材で訪れたという著者による一冊。かの地でここまでスマホ決済が普及した訳、そしてそれがもたらした意外な効用等も記されています。

shibata20180216-sなぜ中国人は財布を持たないのか
中島恵・著 日本経済新聞出版社

中島恵『なぜ中国人は財布を持たないのか』を読んだ。著者は17年春から夏にかけて中国各地を取材して歩いたが、どこに行ってもシェア自転車とスマホ決済の波に圧倒された。そして、出会った中国人は口を揃えて「現金は不要、スマホ決済のほうが圧倒的に便利だ」と言う。

中国ではウィーチャットペイの利用者が約8億3,000万人、アリペイは約4億人で、両方使いも多い。この二つが、スマホ決済として最も幅広く利用されている。決済できる範囲は公共料金はもとより、ありとあらゆる場面で、都市部はもちろん内陸部の農村まで広がっている。スマホで決済できない支払いは、ほとんどないといっていい。16年のスマホ決済は日本円にして600兆円だという。

利用方法はいたって簡単。殆どの店にQRコードがあるから、スマホをかざして読み取り、金額をスマホに入力するだけ。すぐに完了し、残高から引き落とされる。中国の大都市では財布なしの生活が日常化しており、銀行に行くのはスマホが使えない老人だけで、しかも銀行が混んでいるのは年金支給日のみだ。

著者は日本に住む中国人の友人に、自分の体験を興奮気味に、日本は遅れていて恥ずかしかったと語ると「あれは行き過ぎ、このままでは中国はどうなるのか、安心して現金が使える日本社会のほうが、よほど落ち着いていてうらやましい」と返される。中国ではスマホ自体がインフラになってしまったのだ。

インフラであるスマホを使わなければ、中国では生きていけない。スマホありきで世の中が動いている。高齢者たちもスマホを駆使しなければならない。スマホができなければ情報に乗り遅れるだけでなく、社会から脱落してしまう。中国人が一日中スマホをいじっているのは、生きていくために必死だからだ。

中国人の友人は言う。「日本社会は日本人が想像している以上に安心、安全。日本人自身は意識していないでしょうが、日本は社会と人とが信頼しあえる相互信頼社会』なんです。おいしい空気とおいしい水があるだけじゃなくて、これは日本の財産。今は中国の華やかなIT革命に目を奪われ、一部の人が『日本は完全に遅れをとってしまったのでは……』と心配しているだけです」

中国は不便な環境だったからこそ、逆にスマホが飛躍的に普及し、ある面で日本を飛び越えた。経済用語で「リープフロッグ(カエル跳び)現象」「後発者利益」と呼ぶ。先進国が歩んだ進化の過程を、後進国が一気に飛び越えてしまう現象だ。今の日本と中国は、置かれている状況が違うのだから心配無用だろう。

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