政府の言い訳に怒るか、それとも自分の幸福か?~武田邦彦集中講座 少子高齢化の危機(5)

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◆年金は使ってしまえ!「厚生年金保険制度回顧録」に記された驚きの真実

「老後は年金」というのが今では普通ですが、少し前までは「老後は子供に面倒を見てもらう」のが当たり前でした。家族制度もありますが、定年が55歳、その後の雇用で約60歳で引退したのですが、現在の年金制度が整った1961年(その前にも軍人恩給などがあったが)の平均寿命は男性65歳、女性70歳でしたから、当時、中心となって働いていた男性にとってみると、退職後5年しか時間がなかったのです。だから退職後の男性は本当に「老後の一時期」を年金で過ごすことができればそれでよかったのです。

つまり、「子供に面倒を見てもらう」ということでも、「年金で生活する」としても、男性は5年、女性は10年程度でしたから、何とかなったわけです。子供との関係も今より少しは密だったので、おばあさんおひとりになれば子供の家庭に一緒に住むのも普通のことでした。

だから、年金を作ったとき、国民もあまり負担する気がなく、管轄していた厚生省(現厚労省)も不真面目でした。厚生省が不真面目だったことは、厚労省の花澤年金課長が「厚生年金保険制度回顧録」に書いていた次の文章を読むとよくわかります。

「・・・それで、いよいよこの法律ができるということになった時、すぐに考えたのは、この膨大な資金の運用ですね。これをどうするか。これをいちばん考えましたね。この資金があれば一流の銀行だってかなわない。今でもそうでしょう。何十兆円もあるから、一流の銀行だってかなわない。これを厚生年金保険基金とか財団とかいうものを作ってその理事長というのは、日銀の総裁ぐらいの力がある。そうすると、厚生省の連中がOBになった時の勤め口に困らない。

何千人だって大丈夫だと。金融業界を牛耳るくらいの力があるから、これは必ず厚生大臣が握るようにしなくてはいけない。この資金を握ること、それからその次に、年金を支給するには二十年もかかるのだから、その間何もしないで待っているという馬鹿馬鹿しいことを言っていたら間に合わない。

・・・大営団みたいなものを作って、政府の保険については全部委託を受ける。そして年金保険の掛金を直接持ってきて運営すれば、年金を払うのは先のことだから、今のうちどんどん使ってしまっても構わない。使ってしまったら先行困るのではないかという声もあったけれども、そんなことは問題ではない。貨幣価値が変わるから、昔三銭で買えたものが今五十円だというのと同じようなことで早いうちに使ってしまったほうが得する。

二十年先まで大事に持っていても資産価値が下がってしまう。だからどんどん運用して活用したほうがいい。何しろ集まる金が雪ダルマみたいにどんどん大きくなって、『将来みんなに支払う時に金が払えなくなったら賦課式にしてしまえばいいのだから、それまでの間にせっせと使ってしまえ。 』」

「どうせ年金なんか、積み立てておいても価値が下がるから意味がない」ということは、このシリーズの前回に解説しましたが、それは事実だから仕方がないにしても、「天下り先はいくらでもできる」とか、「それまでの間にせっせと使ってしまえ」というのはどうでしょうか?あまりにも乱暴で年金の積立金を支払う国民を馬鹿にした話です。

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