水産庁によると、日本人の魚の摂取量は以前と比してかなり減少しており、水産業界は現在、相当厳しい状況に直面しているとのこと。しかし、そんな逆境のなか、魚を食べない若年層をターゲットに絞り込んだ鮮魚店が話題となっています。今回の無料メルマガ『MBAが教える企業分析』では著者でMBAホルダー・青山烈士さんが、そんな企業の戦略と戦術を詳細に分析・解説しています。
顧客を育てていく
人気の魚屋を展開している企業を分析します。
● 株式会社フーディソンが運営する魚屋「sakana bacca(サカナバッカ)」
戦略ショートストーリー
30代以上の一人暮らしではない女性をターゲットに「ITを活用した独自の水産流通のプラットフォーム」に支えられた「鮮度が高い、美味しい」等の強みで差別化しています。
魚を丸一匹並べる陳列やスタッフとの会話を通して、魚に関心を持ってもらい、魚との新たな出会いや美味しさを体感できることが、顧客の支持につながっています。
■分析のポイント
顧客を育てていく
水産庁が公表しているデータ(平成29年度 水産白書)によると
食用魚介類の1人1年当たりの消費量は、平成13(2001)年の40.2kgをピークに減少しており、平成28(2016)年度には、前年より1.1kg少ない24.6kgとなりました。
とあります。大幅に減っていますね。さらに、水産庁が公表しているデータ(同上)を見てみると
年齢階層別の魚介類摂取量をみてみると、若い層ほど摂取量が少なく、特に40代以下の世代の摂取量は50代以上の世代と比べて顕著に少なくなっています。ただし、近年では、50~60代の摂取量も減少傾向にあります。平成28年の
- 20代の1日当たり摂取量が約50g
- 60代の1日当たり摂取量が約80g
この状況をみる限りでは水産業界が置かれている状況は非常に厳しいですね。魚をよく食べるシニア層が魚を食べなくなり、そもそも、若い層は魚を食べないという、まさにダブルパンチを受けているような状況です。
また、消費者が魚を食べなくなることで、魚屋が減り、スーパーの魚売り場も減っていき、そうなると若い世代が魚と接する機会も減るでしょうから、若い世代の頭の中に食卓に魚を並べるという選択肢が減っていくことになります。
このような形で、消費者が魚からどんどん離れていく負のスパイラルに陥っているようにみえます。若い世代の時短ニーズの高まりも、この負のスパイラルに一層拍車をかけるでしょう。
この状況を打破するには大きく二つの方向性が考えられます。ひとつがシニア層に再び魚を食べてもらう。もうひとつが、若い層に魚を食べてもらう。
どちらも難しさはありますが、水産業界を長期的に見た場合、優先すべきは「若い層」に魚を食べてもらうことでしょう。なぜなら、いまの若い層が食べないならその次の世代も食べないことにつながりますから、業界としては「じり貧」になっていくことが目に見えていますからね。
だからこそ、「サカナバッカ」は若い層を顧客ターゲットにしていると思われます。若い層は、いままであまり魚を食べていない層ですから、まずは、魚に関心を持ってもらう必要があります。
ですから、「サカナバッカ」は店舗デザインに非常にこだわっていますし、魚を知る機会を提供する店づくりをしているわけです。これらは、魚好きな「顧客を育てていく」活動と言えるでしょう。非常に地道な活動だと思いますが、負のスパイラルを断ち切るには「顧客を育てていく」しかないとも思います。
縮小傾向にある業界に参入するという判断は相当な覚悟がないとできないことだと思いますが、新たに構築した水産流通のプラットフォームや魚好きな顧客を地道に育てていく店舗作りから、その覚悟が伝わってきます。
今後も「サカナバッカ」の動向に注目していきたいです。