ゴーストライター事件から学ばない無理キャラ設定 銭湯絵師というコスプレ

日本にわずかしかいないと言われる銭湯絵師(公衆浴場に風景を描く職人)になった芸大現役大学院生兼モデルの女性が、作品パクリ疑惑で批判を浴びています。キャッチー要素の塊のような属性の一方、肝心の作品がフェイクだとしたら、いくらプロモーション費用を投じても成果にならないというあの事件を忘れたのでしょうか?そう、5年程前に大きな注目を浴びたゴーストライター事件です。

1.銭湯絵師って?

銭湯といえば風呂の向こうに描かれる富士山と松原。なぜどこに行っても富士山なのかはわかりませんが、昭和の時代は、私も毎日銭湯に通っていました。しかしそんな銭湯そのものが廃れ、もはや日本には銭湯画を描ける職人さんもほとんどいなくなったそうです。そんな中に現役東京芸大大学院生で、しかも現役モデルも務めるという女性が弟子入りしたのでした。

芸大院生、モデル、銭湯と、ギャップ盛り含めたすべての要素がキャッチーで刺さります。大手PR会社の仕事もバンバン入り、注目を高めているさ中、ライブペインティングという観衆の前で絵を描くイベントで事件は起こりました。そこで描かれた虎の絵は、有名作家の絵にうり二つ。その比較も今ではネット上でたくさん見かけることができますが、素人の私が見てもそっくりというか、同じにしか見えません。

こうして一気に注目度が上がった結果、その方のインスタグラムで見られる過去の作品までパクり疑惑が持ち上がり、大炎上することとなりました。本人も「世間を騒がせた」という謝罪をツイッターに上げたことで、「謝罪するとこは騒がせたことじゃなくて、パクったことだろ!」とさらなる批判を呼び、燃料投下にしかなりませんでした。CMキャンペーンの一環だったライブペインティングの記録からは削除され、またその存在基盤だった銭湯絵師の師匠からは師弟関係解消となったそうです。

2.ゴーストライター事件

5年ほど前、現代のベートーベンと呼ばれる、聴覚障害を持つ作曲家が注目を集めました。しかしその作曲は実は本人作ではなく、ゴーストライターによるものであり、そのゴーストライターだった方が記者会見まで開くこととなり、大騒動になりました。

不遇な天才作曲家は一夜にしてペテン師呼ばわりとなりました。一方、逆にゴーストライターだった男性はその正直な告白と、確かに不器用ゆえに誠実そうな人柄から逆に脚光を浴び、ゴーストから表舞台に出るようになるという皮肉な結果となりました。

まさかの顛末を迎えるまで、音楽家でありながら聴覚障害を持つという悲劇の存在は、NHKの番組でも取り上げられ、クラシックとしては異例のCD売り上げとなっていたようです。キャッチーの塊のようなプロフィールが、大きく売り出しに貢献したことは間違いないでしょう。

3.盛った無理キャラ

バラエティ番組「アメトーーク」発祥の家電芸人や甲子園芸人といった、本業プラスアルファのキャラ設定は、今や芸能界では普通のこととなりました。アイドルが歌やビジュアル以外に鉄道オタクやらスポーツオタク、激辛嗜好など、さまざまなキャラ付けをするのももはや普通です。

芸能界が一斉にキャラ付けをやり始めたため、もはや普通の趣味では誰も注目をしなくなり、どんどんその専門分野?はインフレしてきています。高校野球の結果を丸暗記したり、Jリーグではなくマイナーチームのファンを自称したり、他に人がいない分野に手を広げています。

そうです。銭湯絵師とは、正に「他にない」キャラとしてうってつけでした。本来銭湯の絵を描いているのは画家や芸術家ではなく職人さんであり、下町ではそうした職人さんが普通に生活していました。職人ですから酒飲んであばれたり、なぜだか商店街を怒鳴り散らしながら歩くおじさんが普通だったのです、向島は。(よく考えたら私の父も職人だった)

そこに東京芸大大学院生であり、モデルというビジュアルを持った若い美人さんが入ってくれば、そりゃもうキャラとしては完璧です。

後出しじゃんけんのようで非常に心苦しいのですが、実は私は美術大学でもキャリアデザイン科目を教えており、実際に作品作りをする美大生たちをたくさん見ています。作品作りに集中する姿は、芸術家でも職人でも、本当に崇高なものだと感動します。しかしそれだけ集中していれば、姿形などかまってはいられません。職人のおっさんたち同様、作業中の美大生などまあ、汚れなど気にしていられないのが当然だと思います。

ところが、銭湯絵師兼モデルさんは、確かにペンキのついたTシャツやズボンで作業しているのですが、美しいのです。美人さんだからというより、汚れにリアリティがないのです。そう、ヨゴレのコスプレというのがいちばんしっくりくる、美しい汚れっぷりです。

4.悪いのは

もうさあ、こういうのは無理な時代なんですよ。

「盛る」こと自体、プロモーションそのものだと思いますけど、それは現実があってのこと。ゴーストライターや銭湯画のような、本質そのものを後付けするのはいくら何でも無理でしょう。現在のネット社会では、今回の事件やSTAP細胞事件のように、世界中が検証を行います。この程度でバレるウソ、いや「盛り」が通用する訳ないじゃないですか。

今回の事件、批判がすべて真実であるなら、危機管理がなさ過ぎで、PRやセールスプロモーションがあまりにお粗末すぎると思います。私は当人より、そのプロモーションを考えた人間を非難したい。

まだ20代前半ですべての負債を背負ってしまったなんて、怒りというよりかわいそうな気になってきました。だってあんな美しい人が人をだます訳ないですもん・・・・・

オイ!思いっきりプロモの手のひらに乗るのは私のような者だったのですね。

「ここは地球だったのか!」(チャールトン・ヘストン)