阿曽山大噴火が裁判所で見た、ウイスキー2本、日本酒ビン半分

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裁判傍聴芸人として名高い阿曽山大噴火による連載『裁判妙ちきりん』第34回!
法廷でしか味わう事のできない裁判のリアルをお届けします!
罪名 電汽車往来危険、威力業務妨害、窃盗
被告人 21歳の無職の男性
事件は3つ。1つ目は去年の12月20日午前1時37分。

被告人と共犯者が板橋区内のマンションの駐輪場から自転車1台を盗んだ件。
2つ目はその日の午前2時26分。
東武東上線の線路上に、被告人が自転車を投げ入れて放置した件。
3つ目は、始発電車に放置した自転車を衝突させて、同日の午前5時7分から18分までの11分間、電車を緊急停止させて業務の妨害をした件。
内容も罪名もちょっと珍しくて、さらに被告人はネパール人で、日本語がうまくないということで、ネパール語通訳が入っているのもちょっと珍しい。

検察官の冒頭陳述によると、被告人はネパールで生まれ、大学を中退して2017年に来日したという。

犯行を一緒に行った共犯者もネパール人男性で、一緒に暮らしていたとのこと。

犯行前夜、2人は自宅で飲酒。

かなり酔っ払った二人は酔いをさます目的で練馬駅の方にある公園に行こうと外出。

しかし、歩くのに疲れてしまい、被告人が自転車で行こうと提案したという。

2人で探したところ鍵のかかっていない自転車を発見したので、その自転車を持ち去って、線路の上を走ってスマホで動画撮影をしていたらしい。

そして、そのまま自転車を線路の上に置きっぱなし。

防犯カメラの映像が証拠となって、2人の犯行が発覚したというのが事件の流れです。

ネパールから遠い異国の地にやってきた若者2人が、終電も終わって静かな線路の上を盗んだ自転車で疾走する……なんか自主制作の青春映画のワンシーンのよう。

自転車がモチーフやキーとなる名作映画はたくさんありますからね。

そして、被告人質問。まずは弁護人から。

実際は、質問と答えの間に逐一ネパール語の通訳が入ってるんだけど、その辺は省略で。

弁護人

「この日の前日、どこで誰と酒を飲んでましたか?」

被告人

「S(法廷では実名)と一緒に自分たちの部屋で飲んでました」

弁護人

「時間帯は?」

被告人

「夜9時から12時です」

弁護人

「お酒の種類と量は?」

被告人

「ウイスキーがボトル2本、日本酒がボトル半分」

日本酒をボトルとはなかなか言わないけど、通訳の妙ですかね。ウイスキーのボトルもいろいろあるけど、2人で3時間で飲んだ量としてはかなりのものでしょうね。

弁護人

「外出したのはなぜですか?」

被告人

「リフレッシュしようと、練馬のほうの公園に行こうと思いました」

弁護人

「途中で自転車を盗んだのは何故ですか?」

被告人

「公園行くのに楽かなぁと思ってです」

弁護人

「結局、公園に行きましたか?」

被告人

「行ってません」

弁護人

「公園に行くために盗んだのに、自転車は線路の上に乗り捨ててますよね。何故ですか?」

被告人

「とても酔っていたので、自分でもわけがわからずやってしまいました」

弁護人

「こういうことをやるために外出したんでないですか?」

被告人

「違います」

弁護人

「自転車を乗り捨てるにしても、道端じゃなく線路の上なのは何故なんですか?」

被告人

「気づいたら線路にいたからだと思います」

意図的に線路上に自転車を放置して迷惑かけてやろうってわけじゃなく、泥酔して、なぜこんなことをしたのか自分でもわからないって感じです。

ここで弁護人は質問の方向性を変えます。

弁護人

「あなたは日本に来て、どれくらいですか?」

被告人

「1年半くらい、16ヶ月です」

弁護人

「ネパールでは電車に乗るって普通のことなんですか?」

被告人

「いいえ、乗ったことありませんでした」

後で調べてみたら、ネパールは首都であるカトマンズですら鉄道が走っていない国。

ってか、お隣インドとの国境付近を越境するルートで50キロ程度走ってるのが、国内唯一の鉄道みたいです。

よく、インドの列車で屋根の上にも人が乗ってる写真や映像を見ることがあるけど、この鉄道の映像が使われていることも多いようですね。

ちなみに今は、中国からネパールにそしてインドからネパールに延びる計画があるようですよ。

要するに知識としてじゃなく体感として電車というものがよくわかっていなかったというアピールなんでしょう。

弁護人

「日本に来てはじめて乗ったと?」

被告人

「そうです」

弁護人

「でも日本に来て16ヶ月。電車は何回も乗ってたんだから、こんなことしたら迷惑かかるってわかってましたよね」

被告人

「はい。電車の会社、乗っていた人々に迷惑かけました」

弁護人

「東武鉄道からの被害請求はすべて支払ってますね」

被告人

「はい。Sと折半なんですけど、実家から送ってもらって払いました」

電車を止めると数百万、数千万請求されるって噂として聞くじゃないですか。それを支払ったとなると、余程お金持ちの実家かなぁと思ったら、

弁護人

「請求額が11万6818円。それを2人で支払ったと」

被告人

「はい」

金額的にそんなもんなの?って印象。始発で被害が少なかったのも理由かもしれませんね。

何百万とかだと思ってたんでちょっと驚き。

ただ、ネパールは月収2~3万が平均らしいので、実家としても大変だったとは思うけど。

次は検察官から。

検察官

「ネパールでは電車に乗ったことないって話だったけど、線路上に障害物を置いたら脱線とか危険な行為ってわかってましたよね?」

被告人

「はい」

検察官

「わかっていたのにやったのは酒のせい?」

被告人

「そうです」

検察官

「じゃあ、今後お酒はどうしますか?」

被告人

「一生飲みません」

21歳にして、死ぬまでアルコール飲まない宣言です。

それくらいの決意なのかもしれないけど、そんなにあっさり言われても。

かといって、検察官も深く追求するわけでもなくスルーして質問終了。

最後は裁判官から。

裁判官

「あなたの在留期間は?」

被告人

「4月25日までです」

裁判官

「その後はどうするつもりですか?」

被告人

「日本語学校が除籍になってて、延長できないのでネパールに帰ります」

と、今後のことだけを確認して質問終了でした。

この後、検察官が懲役2年6ヶ月を求刑。

弁護人は執行猶予が相当と弁論したところで、裁判官が次回期日のすりあわせです。

裁判官

「次回の判決の期日ですけど、被告人の在留期間もあるので4月25日までにやりましょう。4月24日はどうですか?」

弁護人

「差し支えです。別の法廷が入ってて」

裁判官

「では、4月25日はいかがでしょう」

通訳人

「あ、その日は難しいですね」

裁判官

「そうですか、26日は法廷の空きが無いし……、その前も無理……と」

何度も手元のスケジュール帳を見ながら、

裁判官

「うーーん、連休明けですね。5月8日でどうでしょう」

検察官

「お受けします」

弁護人

「お受けします」

通訳人

「お受けします」

と、判決は5月8日に決定。新元号またぎか。
──もしこの裁判がフィクションだったとして。私は被告人の言葉に対して―――
あのときの乗客だったら、酔っ払いの仕業かよって思うだろうなぁ。
ま、3月27日に実際に行われた裁判なのだが

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