戦争などもっての外。現時点で最良な北方領土問題を解決する方法

kitano20190515
 

2島先行返還による日ロ平和合意への勢いをすっかり失ってしまった「北方領土問題」。丸山穂高衆院議員が元島民に対して口にした「北方領土戦争奪還論」が再交渉の妨げにもなりかねないとの報道もありますが、この先日本政府はどのような方針を立て進むべきなのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、日本が「米ロ中との国際関係の中で生き残る為の鉄則」を改めて記しています。

北方領土、なぜロシアは譲歩しないのか?

北方領土交渉、予想通りというか、なかなか難しいようです。

ラブロフ氏「北方領土、大戦の結果」強調 日露隔たり鮮明 外相会談

毎日新聞 5/10(金)23:35配信

 

【モスクワ大前仁】河野太郎外相は10日、北方領土問題を含む平和条約交渉を巡り、モスクワでラブロフ露外相と会談した。日本側は当初プーチン露大統領が6月末に訪日する際に平和条約交渉の「大筋合意」を目指していたが、歴史認識や安全保障問題などで隔たりが大きいため、合意を見送る方針。

「歴史認識や安全保障問題などで隔たりが大きいため合意を見送る」そうです。

もう少し具体的に。

なぜ日ロの「歴史認識」はここまで違う?

ラブロフ氏は会談後の共同記者発表で「第2次世界大戦の結果を全面的に認めるべきだ」と述べ、北方領土はロシアが第2次大戦の結果として合法的に手に入れたという歴史認識を受け入れるよう改めて迫ったことを明らかにした。
(同上)

一つ目の「隔たり」は「歴史認識」です。日本は、「ロシアは、北方4島を【不法占拠】している」という認識。ロシアは、「第2次大戦の結果、【合法的】に手に入れた」としています。

日本側からは、当然以下のような反発がでるでしょう。

  • ソ連は、日本がポツダム宣言を受諾した後、北方4島を占領したではないか!
  • ソ連は、1945年4月に日ソ中立条約破棄を宣言したが、その後1年、つまり1946年4月まで条約は有効なはずではないか!

まことにもっともであります。しかし、ロシア側には、この日本の主張を認められない事情があります。リアリズム神ミアシャイマーさん的にいえば、「ナショナリスト的な神話」。

ソ連は、2,200万人の犠牲を出し、第2次大戦に勝利した。もちろん、戦った主な相手はナチスドイツです。ソ連政府は、この戦争を「大祖国戦争と呼び神話化」しました。上記のような「不都合な真実」は、「完全スルー」された。だから、ロシア国民は上の二つの事実を知りません。さらに、「シベリア抑留も知りません。これも、「不都合な真実」で「ナショナリスト的神話」にあわないので「スルー」されたのです。

私たちは、「では今からでも認めるべきではないか!」と思うでしょう?そんなに簡単ではないのです。なんといっても、戦後70年以上も、「ソ連は絶対善だった」ということで、つづけてきた。

これ、ソ連―ロシアだけではありません。アメリカだって同じことです。アメリカだって、「日米戦で、アメリカは絶対善日本は絶対悪だ」という「神話」をつづけてきた。いまさら、「アメリカは、空爆で日本の民間人を90万人虐殺した」とか、「原爆投下は、人類空前絶後の大虐殺だ!」などと認めるはずがない。ロシアも事情は同じ。

これ、日本は、「ロシアは、歴史認識を改めよ!」などと「正論をいうべきではありません。なぜでしょうか?戦勝国側のいわゆる東京裁判史観」をもっているのは、ロシア一国だけではないからです。

この史観、アメリカ、ロシア、中国、韓国、さらにイギリス、フランスなども共有しています。もし日本がロシアに、「歴史観の変更を求めれば、ロシアは中国、韓国に接近し、「日本で、歴史修正主義が台頭している!」「日本で軍国主義が再び台頭している!」と大騒ぎになるでしょう。

覚えていますか?2013年、中国は、「日本は右傾化している!」「日本は軍国主義化している!」「日本で歴史修正主義が力を増している!」と大々的にプロパガンダしていた。そして、オバマさんも、このプロパガンダにやられていました。

だから日本は、ロシアとの不毛な歴史認識論争に突入するべきではない。それを一番喜ぶのはもちろん習近平です。

では、「歴史認識問題はどうすればいいのでしょうか?簡単なことで、「触れなければいい」のです。河野さんは、ラブロフさんに、「日ソ共同宣言の時のように歴史認識には触れないでいきましょう」と提案する。もしラブロフさんが、「いや、ここは絶対譲れない」といえば、そもそも返す気がないということです。

print
いま読まれてます

  • 戦争などもっての外。現時点で最良な北方領土問題を解決する方法
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け