7月7日、イランがウラン濃縮度を上げると宣言した行為は明らかな「イラン核合意」に対する違反行為ですが、報道の一部を切り取り一国だけを糾弾する流れに異を唱えるのは、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さん。北野さんは今回、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、国際規範を守っていたイランが米国の過度な制裁によって窮地となり、中東情勢が一触即発の状態に陥っている現状を詳しく解説しています。
イラン情勢がかなりヤバくなってきました
イラン情勢がヤバくなってきました。イラン問題とは、いうまでもなく「イランが核兵器製造を目指しているかも」という問題です。北朝鮮とは違い、イランに核兵器はありません。それどころか、イランは、一度も「核兵器保有を目指す」と公言したことすらありません。これ、主にアメリカが主張していることです。
2015年7月、いわゆる「イラン核合意」が成立しました。参加したのは、アメリカとイランだけではなかった。他に、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国。何が決められたのか?
- 低濃縮ウランの保有量を300キロに制限
- プルトニウム生産に適した重水炉で使う重水の保有量を130トンに制限
- ウラン濃縮率の上限を3.67%に制限
- 兵器級プルトニウムを生産しないようアラク重水炉の設計変更
- 遠心分離機を約1万9000基から6104基へ大幅削減 >
イランは、「核合意を守っている」ことを証明するために(これも北とは違い)国際原子力機関(IAEA)の査察を認めています。IAEAは、イランが合意を順守していることを認めた。それで2016年1月、対イラン制裁が解除されたのです。
はっきりいって、「イラン核合意」は、オバマさんの「偉大な成果」といえるものです。イランは核兵器をつくることができない。しかし、原油を輸出することができるようになり、経済的に楽になった。それに、合意を守っているかぎり、アメリカからの攻撃を恐れることもない。
皆ハッピーだったのです。
ところがトランプさんは2018年5月、「イラン核合意からの離脱」を宣言。なぜ、こんなことをしたのでしょうか?イランはIAEAの査察を認めており、合意の下で核兵器製造は不可能です。考えられる理由は二つあります。一つは、イランがイスラエルの脅威であること。オバマさんは、決して「親イスラエル」ではありませんでした。しかし、トランプさんは、ネタニヤフさんの親友。イヴァンカさんの夫クシュナーさんは、ユダヤ人。それでイヴァンカさんもユダヤ教徒になっている。つまり、イランからイスラエルを守るために、核合意離脱した可能性がある。
もう一つは、「ドル基軸通貨体制防衛」。イランは、ドル以外(たとえば中国には人民元で)の通貨で原油を売っています。2000年、イラクのフセインは、原油の決済通貨をドルからユーロにかえた。それでアメリカに殺された。アメリカが反イランなのは、これが原因なのかもしれない。
合意を離脱したトランプさん。対イラン制裁を復活させました。イランにとって一番しんどいのは、「原油輸出を禁じられたこと」。といっても、これは国連安保理の制裁ではなく、アメリカによる「独自制裁」です。ですから、アメリカは、イランが原油輸出することを禁じることはできない。
では、どうしたか?イランから原油を買っている国々に、「イラン産原油を買うと制裁するぞ!」と脅したのです。イランは、ひどい状況に置かれました。イランはアメリカが離脱した後も、合意内容を守っていました。
イランは「核合意を順守」、IAEAが報告書
日経新聞2019/2/23 4:23
【ジュネーブ=細川倫太郎】国際原子力機関(IAEA)は22日、イランが米欧など6カ国と結んだ核合意を引き続き「順守している」との報告書をまとめた。米国はイランに対する経済制裁を強めているが、イランは合意維持を支持する欧州各国と連携し、米国に対抗する姿勢を見せている。IAEAは2015年のイラン核合意に基づき年4回の理事会ごとに報告書を作成し、関係国に配布している。今回の報告書でもこれまでと同じく濃縮ウランや重水の貯蔵量について、核合意で定めた制限値を下回っていると指摘した。
つまり、イランは、核合意の内容をすべて守っているが、主な外貨獲得源である石油の輸出はできない状態。最悪ですね。じり貧になってきたイランは、「このままの状態をつづけることはできない」と判断。ついに、「合意の一部」を破り始めました。
イラン・ウラン濃縮5% 合意違反拡大 新措置を警告 欧州に支援要
毎日新聞 7/7(日)20:22配信
イランは7日、国内に貯蔵する低濃縮ウランを2015年に主要6カ国(米英仏独露中)と結んだ核合意で定める濃縮度3.67%を超えて、当面は5%前後まで濃縮すると発表した。1日には低濃縮ウラン貯蔵量の上限300キロ(六フッ化ウラン換算)超えも認めており、合意違反がさらに拡大することになる。