地域の健康を守る!異色のドラッグストア薬局/サンキュードラッグ/読んで分かる「カンブリア宮殿」

地域密着のドラッグストア、人気の秘密

コンビニを猛追するほど成長しているドラッグストア。その市場規模は7兆円を超える。一方で、大手のマツモトキヨシとスギ薬局の両社が、ココカラファインに対して同時に経営統合を申し入れ争奪戦になるというニュースも。ドラッグストアは戦国時代を迎えている。

そんな中、高齢者のハートをがっちり掴み、異色の戦略で伸びているチェーンがサンキュードラッグだ。

人気の秘密その1「こんな物まで置いてある」。

ドラッグストアだから、市販薬はもちろん調剤薬局もある。一方で食品の品ぞろえは、スーパー並みだ。特徴的なのが高齢者に嬉しい商品の数々。例えば杖。シックなものからカラフルなものまでさまざまな種類があり、値段も3000円台とお手頃だ。種類が豊富な買い物カートや、グラウンドゴルフのクラブなんてものまである。

人気の秘密その2「○○を誘致」。 

北九州市のサンキュードラッグ一枝店は、同じ敷地内に内科、耳鼻科・小児科、産婦人科のクリニック、さらに高齢者住宅まで誘致。医療モール化を進めている。診察を受けた後に薬をもらい、買い物までできるというわけだ。

これには医師にとってもメリットが。益田内科クリニックは以前、別のところで開業していたが、このモールに移ってから患者が2割ほど増えたという。

「今はかなり広範囲の方が来て頂けるようになった。宣伝効果の面でも良い場所で診療させてもらっていると思っています」(益田勝敏院長)

人気の秘密その3「超高密度出店」。

サンキュードラッグの73店舗のそのほとんどは、福岡県北九州市と山口県下関市に展開している。まるで都会のコンビニ並みに狭い地域に集中して店を出している。しかも半径500メートル、つまり1キロごとに1店舗という明確な基準がある。自宅近くにあるから、高齢者でも気軽に歩いて来られるのだ。

こうした戦略で、サンキュードラッグは年商230億円、従業員数1400人。右肩上がりで成長している。



ドラッグストアに管理栄養士~「地域のかかりつけ薬局」へ

そんなビジネスモデルを作り上げたのが社長の平野健二(60)。平野が目指すのは「地域のかかりつけ薬局」だ。

「会社の目的は利益を出すことではなくて、地域の役に立ち続けること。キーワードは役に立ち続ける、です」(平野)

地域の役に立ち続ける。その鍵となるのが店内のブースにいる女性たちだ。社員の浜崎千奈未は管理栄養士の資格を持っている。管理栄養士は国家資格で、通常は病院などに所属し、栄養指導や献立作りを行っている。ドラッグストアにいるのは珍しいが、サンキュードラッグには60人以上が在籍している。

「病院と違うのが、病気になる前の方にアプローチができるところだと思うので、病気にならない人を増やすことを目的にやっています」(浜崎)

彼女たちの活躍の場が「スマイルクラブ」という健康教室。会員制で、月額2700円で「食事」と「運動」をサポートしている。

半年前に入会した山口妙子さん(81)は甘いものが大好き。毎日ショートケーキを食べていたそうで、気がつくと体脂肪率が増え、37%を超えていた。そこで管理栄養士の浜崎は、体脂肪率を減らすことを目標に指導。まず、毎日の食事を記録してもらった。

その上で浜崎が教えたのは、野菜を先に食べることで、血糖値の上昇を抑える、という食事法。さらに、甘い物好きの山口さんに、おやつの代わりに砂糖を使っていない甘酒を勧めた。そして自宅でできる簡単な筋トレも指導。結果、半年で体脂肪は2%減少と、着実に成果が出ている。

活躍の場は店の中だけじゃない。入社3年目の姫野冴美も管理栄養士。姫野が一人暮らしの前田エツ子さん(87)のお宅を訪ねたのは、食事や栄養の指導をするため。この訪問栄養食事指導は介護保険が使える支援制度のひとつだ。

前田さんは大病をしてから食が細くなり、体重が減ってしまっていた。そこで姫野は台所に立って、リンゴとレモンに甘酒を加えた「リンゴのコンポート」の調理を始めた。

サンキュードラッグはあの手この手で地域の健康を守っている。



「人口減少」「高齢化」が原動力~異色のドラッグストアが生まれるまで

北九州市の人口減少と高齢化。これこそがサンキュードラッグ急成長の原動力だという。

平野店をのぞいてみると、客と店員の距離が近く、皆、親しげに話をしている。店が広くて、いろいろなものを売っているから、探すのも一苦労。だがここでは、店員がずっと付き合ってくれる。

サンキュードラッグが独特なのはここから。案内が終わると、店員が客に何かを手渡した。「ご相談ポイントカード」だ。店員に声掛けや相談をするともらえるカードで、1枚5ポイントで5円相当になる。だから客と店員の距離が、どんどん近くなっていくのだ。

「結構、声を掛けられない方がいるんですよ。この抵抗をなくすにはどうすればいいか。『本日はご相談いただいてありがとうございました。当社では相談して頂く事を喜びとしています。』で、お礼にポイントを。」(平野)

しかもこれには、もっと大事な意味がある。ちょっとした会話で、お客の健康状態がつかみやすくなるのだ。

サンキュードラッグの創業は1956年。平野の両親が、門司港近くの商店街に小さな薬局を開いたのが始まりだ。高度成長の時代、鉄の町・北九州は活気にあふれ、店も繁盛していった。当時の平野はこんな疑問を抱く子どもだった。

「小売業は、人が作ったものを仕入れてそれを仕入れた値段より高く売る。ひどいじゃないかと思ったんです。こんな悩みをもつ小学生って珍しいのかもしれませんが」(平野)

一橋大学を卒業した平野は1982年、アメリカに留学。ドラッグストアの先進国で経営学を学ぶ。1985年、帰国すると後継者としてサンキュードラッグに入社した。

しかし、80年代に入ると、北九州を支えていた鉄鋼業が斜陽産業に。それに合わせるように、人口減少と高齢化が急速に進んでいく。商店街はさびれ、大手のスーパーも撤退。サンキュードラッグも、利益が出ないジリ貧の状況だった。そこで人口の多い福岡に出店するが、大失敗。わずか3年で撤退する羽目になった。

地元・北九州でやっていくしかない。そんな覚悟を決めた平野はある日、年配の常連客から、こんな声を掛けられた。それは「これから俺のパンツは、どこで買えばいいんだよ」。この一言が転機となった。

「ふと気づいたら、買うところがどこにもないんですよ。若者は何か買いたいものがあれば車で郊外の大型店にいくが、高齢者はそれができない。それを私たちがカバーしていくと、人口減少の中でもやっていける」(平野)

平野は1996年、薬以外にいろんなものが置ける大型店に変えていくことを決断。食品から日用品まで何でも揃う、地元の人に便利な店づくりを始めた。

さらに喜んでもらうにはどうすればいいのか。それを模索していた平野は「都市部の高齢者は、生活の8割が半径400メートル以内で完結する」という国の資料を目にする。地方でも大都市並みの密度で出店すれば、毎日来てくれるのではないか。そこで打ち出したのが高密度出店戦略。「高齢者でも歩いて10分以内」を目安に次々と店を出していった。

「高齢者の85%以上は健常者なんです。歩いてこられる方は、歩いて来ていただくべきであって、そのかわり、歩いていける範囲に店をつくらなければいけない」(平野)

狙いはあたり、サンキュードラッグは、高齢者が毎日のように歩いて買い物にやって来る繁盛店となっていった。

平野はこんな取り組みも始めている。サンキュードラッグ石坪店。朝6時、開店前の店に入ってみると、品出しの作業が始まっていた。従業員は年配の方が多く、最年少が68歳。この店は高齢者をアルバイトで雇用。「早起き」というシニアの生活サイクルを活かして、開店前の品出しをしてもらっている。朝6時から9時までで、時給は880円からだ。

35歳の店長・二宮進太郎は「みなさん、本当にテキパキしてらっしゃる。普段お客様と接していても、元気な方が多いなと感じていたんですけど、本当にパワーを感じています」と、シニアの働きぶりに舌を巻く。



ドラッグストア戦国時代~大手に勝つ作戦とは?

千葉に画期的なカフェレストランがある。店内は女性客で大賑わい。実は「ヤックスドラッグ」千城台店というドラッグストアの中にある。しかも、ドラッグストアに勤める管理栄養士が、メニュー作りから調理まで行っているのだ。

「食べておいしいということだけではなくて、カロリー650キロ以内、塩分3グラム以下を意識しています」(管理栄養士・石川あずささん)

管理栄養士が作るヘルシーランチ「鶏のから揚げトマトみぞれだれ」(810円)。一見ごく普通の鶏のから揚げだが、カロリーを抑えるため、皮を取ってあるという。

そこに平野の姿が。ドラッグストアにレストランを併設するという新たな取り組みを視察に来たのだ。平野が注文した「キャベツハンバーグ定食」(864円)は、ひき肉にキャベツが入っており、こちらもカロリー控えめだ。

「おいしいですよ、本当に。自分でこれを作ろうと思っても作れない」(平野)

「ヤックスドラッグ」を展開する千葉薬品の八川昭仁専務は「1日病院に行って、薬局に寄って、疲れてお昼はもう作る気にならない、そんな方に寄っていただく」と言う。

今、サンキュードラッグを中心に、千葉薬品など地方に地盤を置くドラッグストア30社が連携。大手に対抗しようとしている。店舗数は合計1942。これは業界1位ウエルシアの1874店舗をしのぐ数字だ。

「やはり自分の会社だけじゃなくて、外の方々がどういうことをやってどういう数字が出ているのかがわかるわけです。自分たちだけじゃできないことを、30社が集まればできるということです」(八川専務)

大手と戦うためには、それなりの対抗策が必要だ。サンキュードラッグの取り組みの一つは「潜在需要発掘研究会」。参加しているのは白元アース、花王、大塚製薬……といった企業の担当者たち。この会議は、さまざまなメーカーに集まってもらい、客がまだ気づいていない商品の新たな価値とニーズを掘り起こそうというもの。月に一度のペースで行われている。

その会議がきっかけで売り上げが大幅にアップした商品があるという。例えば「歯につきにくいガム」。以前はガム売り場に置いていたが、売れ行きが今一つだった。

そこで、その価値を別の客に訴えるため、他の売り場にも置いてみたという。それは入れ歯ケアのコーナー。ガムを噛まなくなった入れ歯の人たちに、歯に付きにくいことをアピールしたのだ。これが大成功。こうした取り組みで大手に対抗しているのだ。

「都心はとにかくお客様がたくさんいて、たくさん売れるものをどれだけわかりやすく並べるかで勝負が決まりますが、我々はお客様が気づいていない物をこちらが見つけてあげて、『どうですか、これ便利になりますよ』と言ってあげないといけない。そこが根本的に違うところです」(平野)



~村上龍の編集後記~

平野さんは「ピンチはチャンス」という言葉が大嫌いらしい。ピンチはピンチで、9割がダメになり、追い風にできるのは1割だと。

追い風をつかんだサンキュードラッグの戦略は明快だ。1キロに1店舗という高密度出店。医院や高齢者施設の併設も狭小商圏がベースである。

「全国一律のサービス」は曲がり角を迎え、地域の特性が浮上しているのだろう。全国展開の考えは?という質問に、「さらさらありません」と答えた。

サンキュードラッグの躍進は、恐竜が衰退し、小さな哺乳類が地球の主役になっていく過程を連想させる。

<出演者略歴>

平野健二(ひらの・けんじ)1959年、福岡県生まれ。1981年、一橋大学経営学部卒業。1984年、サンフランシスコ州立大学でMBA取得。1985年、サンキュードラッグ入社。2003年、代表取締役社長就任。

(2019年6月20日にテレビ東京系列で放送した「カンブリア宮殿」を基に構成)