先日閣議決定された「自殺対策白書」によると、全体の自殺死亡率は統計開始以来最も低い数値となったものの、未成年に目を向けると過去最悪を記録、20代までを加えた若者世代の死因のトップも自殺と、異常としか言いようのない状態となっています。いったい何が日本の若者たちを自死へと追い詰めているのでしょうか。健康社会学者の河合薫さんが、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で考察しています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年7月17日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
日本の若者はなぜ自殺するのか?
2019年版「自殺対策白書」が閣議決定されました。18年の自殺者数は2万840人で、前年から481人減り、37年ぶりに2万1,000人を下回りました。
自殺死亡率(人口10万にあたり)は、1978年に統計を取り始めて以来、最も低い16.5で、自殺対策の効果が垣間見れる結果となりました。
ただ、19歳以下の未成年の自殺者数は前年より32人増え599人。自殺死亡率は2.8で統計開始以来最悪でした。
若者の自殺率の高さはこれまでにも問題視されてきました。15~19歳の未成年者に加え、20代の死因のトップはすべて「自殺」。「若いんだから病気にはならない。自殺が一位って普通でしょ?」という意見もありますが、これは大きな間違いです。
以下に示すとおり、欧米の主要国の同年代の若者はいずれも事故死の方が多く、日本だけが事故死の3倍以上もの若者が自殺しているのです。
【「自殺」と「事故」の比率】
日本 17.8:6.9
フランス 8.3:12.7
カナダ 11.3:20.4
米国 13.3:35.1
このような状況を鑑み、今回の白書では過去10年の統計によって原因を分析。その結果、
- 小中学生の自殺の原因は「親子関係の不和」「家族からのしつけ・叱責」
- 高校生、大学生は「学業不振」「進路に関する悩み」「うつ病」
などが目立っていたそうです。
…なんとも。言葉がありません。
生きるためにこの世に誕生した“子”が、自ら命を絶たなければならない社会は“異常”としかいいようがありません。
自殺は個人の問題ではなく、社会の問題です。これまで行ってきた研究でも確かに性格傾向と精神疾患との関連は認められています。しかしながら、それはあくまでもリスク要因でしかありません。多数あるリスク要因のひとつです。
だって、人は「生きるため」に生まれてくるわけで。だからこそ誰が教えずとも必死に立ち上がり、歩こうとする。
赤ちゃんには生まれてから数時間で母親を見つめたり、表情を真似るようになるなど、身近な人と関わりを持とうとするのも本能です。
未熟な肉体で生まれてくる人間は、誰かの世話なくして生きていくことができません。そこで赤ちゃんはにっこり笑うことで、「私は生きています。私が健康で生きられるように手助けしてください」と他者とコミュニケーションをとるのです。“3カ月微笑”と呼ばれるこの仕草こそが、赤ちゃんが最初に身に付ける「社会性」なのです。