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快進撃の会員制スーパー「コストコ」に見え始めた、限界の兆し

日本上陸を果たした外資系スーパーの中にあって、「一人勝ち」の様相を呈する「コストコ」。熱狂的なファンが多いことでも知られていますが、なぜ日本の消費者にここまで受け入れられるに至ったのでしょうか。フリー・エディター&ライターでビジネス分野のジャーナリストとして活躍中の長浜淳之介さんが、さまざまな側面から分析・考察しています。

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名儀)など。

快進撃コストコが「成長の壁」にぶつかる日

海外から多くのスーパーが日本に上陸したが、撤退が相次ぎあまりうまくいっていない。そうした中で、1999年の日本上陸以来、1つの店舗も撤退することなく順調に拡大しているのがコストコホールセールである。

日本法人のコストコホールセールジャパン(本社・川崎市川崎区)は、日本全国に26の店舗を擁し年商は約4,800億円(「日経ビジネス」電子版 2018年11月30日付「コストコ進出20年、気づけばスーパー売上トップ10の実力」参照)に達しているという。会員制で年会費が個人4,400円(税抜)、法人3,850円(同)とハードルが高いのに驚くべきことだ。

米国のウォルマートは西友を買収して日本に進出したが、売却の噂が絶えない。フランスのカルフールや、英国のテスコといった、名だたる世界的なメガスーパーが、日本の商慣習と消費者心理を把握できずに撤退してしまった。

その一方で、コストコは買物のガイド本が発売されるほどの人気で、定期的に店を巡回しておすすめ商品をブログやユーチューブなどSNSで発信する、インフルエンサーも多数存在する。

メンバーシップカード1枚で、会員本人と大人2人18歳未満は人数の制限がなく入場できる。子だくさんのファミリーにはお得なシステムだが、少子化が進む日本の家庭に向いているかは疑問もある。なのにコストコの何が、ここまで消費者を引き付けるのだろうか。

コストコの起源は、1976年にカリフォルニア州サンディエゴにある飛行機の格納庫を改造してつくられた倉庫型の店で「プライスクラブ」と名乗っていた。83年には「コストコ」の最初の倉庫店がワシントン州シアトルにオープン。93年に「プライスクラブ」と「コストコ」が合併して、「プライスコストコ」となり、97年にコストコカンパニーに社名変更。99年にコストコホールセールにさらに社名を変更している。本社はシアトル郊外のワシントン州イアクサにある。

米国ではナスダックに上場しているが、日本法人は未上場である。世界の会員数は約9,540万人(18年12月14日現在)で、年商は1,384億ドル(18年度末)となっている。

店舗数は、全世界で774倉庫店(2019年7月1日現在)。内訳は、米国(プエルトリコを含む)が537、カナダ100、メキシコ39、英国28の順に多く、日本の26は国別で5番目である。

米国を中心とした、クルマ社会の北米のライフスタイルに寄り添った業態で、高い天井で商品をパレットで積み上げただけの広大な物流倉庫のような店内は、落とし気味の照明で、BGMも流れておらず、質実剛健で節約の塊のようなイメージを受ける。

元は小規模な商店の店主が、商品を安く仕入れるために考案された業態だが、一般消費者からすれば滅多に入ったことがない倉庫のような異世界に入り込む社会見学的な体験ができるうえに、積極的に売ろうとする姿勢がないので逆に良い商品を見つけ出して人に勧めたくなる心理が働くのだろう。

サイズがやたら大きかったり、分量がやたら多かったりするのも、非日常性を帯びている。実際に使うには、食品ならば小分けにして冷凍、冷蔵保存するなどのちょっとした手間がかかる。それを厭わない気持ちと時間の余裕がある人が使いこなせるだろう。

コストコの商品が果たして安いかどうかは見解の分かれるところだが、たとえば著名な中華調味料「味覇」(ウェイパー)が、一般のスーパーの3、4倍のサイズなのに、同じくらいの値段で売られているというコストコファンの報告をよく目にする。真剣に探せば年会費を取り戻せるほどの激安商品に、たどりつけるはずだ。この探す行為こそがコストコの醍醐味である。コストコの商品で人気が高い商品の1つ、さくらどりのむね肉は、国産品にもかかわらず、一般のスーパーで売られている輸入品並みの価格である。

実際にコストコの店舗に行けば、幕張倉庫店では出入口外にお勧めの商品が写真付きで紹介されている。メモしておけば、お得な商品を買い求められる確率が高まるのではないだろうか。

品揃えに関しては、各カテゴリーのトップまたはトップに匹敵するクオリティの2位の商品に厳選。1店舗の売場は1万㎡もありながら、商品数は約3,500品目とコンビニ並みに絞り込んでいる。少ない品目を大量に発注するから、メーカーから安く仕入れられるのだ。

試食販売と新刊雑誌の割引という強み

一方で、あまりスーパーで売られていないようなこだわりの商品が入荷することもある。元祖チーズタッカルビの「市場タッカルビ」の冷凍食品が売られていたとの情報もあり、決して安くはないが買う価値がある商品も陳列されている。それを探し当てられる目利き力のある人には、面白い店である。

コストコの楽しさとしてよく挙げられるのが、試食販売である。休日の日中に行くと、売場にずらりと販売員が並んでいて壮観ですらある。試食に並ぶ行列が長い商品もあり、人気の商品を幾つも食べ歩くのには入場者が殺到するグルメフェスに行くような忍耐が必要だ。

試食販売員は、例外もいないわけではないが、総じてフレンドリーだ。百貨店のデパ地下などでは、試食すれば必ず買わなければならないといった厳しいオーラを放つ販売員も珍しくないが、コストコにはまずいない。商品の調理法、保存法などを、丁寧に説明してくれ、商品知識が豊富で安心感がある。調理も肉や魚を焼いた時の火の通り具合が、ちょうどいい塩梅のことが多く、技能が高い。

しかも、往々にして試食の分量が半端なく多い。巻き寿司1本、パン1個などはざらにある。無料の食事と考えた方がいいかもしれない。ステーキ、チーズケーキ、サラダ、コーヒー等々、いろいろあるので、高い会費を払っても、月に1度ずつファミリーで通えば、1食分ずつくらいは十分に取り戻せる計算になる。子供たちは試食が大好きだ。屋台のような臨場感が気分を高揚させるのであろう。

ある意味、年会費を払えば何度も無料で立ち食いができる、飲食のサブスクリプションとも言えるビジネスモデルになっている。これも、コストコが人気の理由だろう。

コストコの試食は、クラブ・デモンストレーション・サービシスという、コストコ店内のマーケティングサービスに特化した会社が担っている。このようなパートナーに恵まれていたのも、コストコが発展し、日本でも定着できた要因の1つである。

コストコの強みとして、新刊の雑誌が割引になるサービスも好評だ。コストコに行くと多くのジャンルの雑誌が置かれている。雑誌だけを買うと割引されないが、他の商品と一緒に買うとレジで200円の割引が適用されるのだ。ただし、対象となる雑誌のみが割引になり、薬局、メガネ売場、フードコートなどといった個別のレジでは割引にならないので、よく注意する必要がある。

書店やアマゾンのような通販にもない、ポイント還元ではない、新刊の割引サービスである。ファッションや暮らしに関する婦人雑誌を買うのを楽しみに、コストコに足繁く通う女性客も多い。

安価でボリュームの多いフードコートもコストコの魅力の1つだ。千葉市の幕張倉庫店と、広島市の広島倉庫店では店の外にフードコートがあるのでコストコの会員証がなくても誰でも気軽に利用できる

幕張倉庫店はイオンモール幕張新都心という超巨大商業施設に隣接しており、イオンモール利用者もよくコストコのフードコートを使っている。平日でも常時行列ができるほどで、イオンモールのフードコートより人気があるのではないかと思えるほどだ。

ピザ、ホットドッグ、プルコギベイク、アサイーボール、チーズバーガー、スープ、サラダ、ソフトクリーム、スムージー、コーラやコーヒーなどの飲料などが売られているが、アメリカンなビッグサイズで提供される。全般に若者向けな濃い味付けのものが多いが、コストパフォーマンスが優れているのは明らか。ホットドッグはお代わり自由のソーダーが付いて180円(税込、以下同)だし、ピザは直径約45cmものサイズ(1,580円)で6分の1のスライス(300円)でも、空腹がかなり満たせるほどである。

コストコに行けば、商品が山積みになったカートを席の近くに置いて、フードコートで食事をする家族をよく見かけるが、子供たちはキャンプに出掛けた時のような表情ではしゃいでいることが多いように見受けられる。アメリカの消費文化が直輸入されているのでそれだけ非日常度が高いということなのだろう。

まとめると、消費者にしてみればコストコに行く行為は、買物というよりも宝探しに近く、試食が食べ放題の楽しみもあって北米の異文化に触れるレジャーとして成立している。そこが、安い、品揃えなどといった日常の利便だけで優劣を判断されて、日本人の嗜好をつかみ切れていない弱点が明るみに出てしまう、他の外資系スーパーとの違いになっている。

コストコが成長の壁にぶつかる日

順調に見える、日本のコストコの事業展開であるが、暗雲が広がる兆しもある。コストコでは、滋賀県栗東市に出店を計画し市と協議を進めてきたが地域住民の反対もあり断念を余儀なくされた。6月5日に栗東市役所が発表した。栗東市役所によれば「もとから車の交通量の多い生活道路に面した立地ですし、激しい渋滞が避けられないのなら仕方ないですね」とのこと。

出店を予定していた19haの土地は、田んぼが広がっており、農業を振興する市街化調整区域に入っていた。それを市街化区域に変更しなければ大規模な商業施設は建設できない。どこをまちにする市街化区域に組み入れるかは10年ごとに見直されるが、今回は地権者らの熱心な誘致活動もあり、市としては変更する準備を進めていたという。

ところが当該区域は、隣の守山市との市境にも近く、守山市の側も難色を示していた。調査の結果、コストコ出店により最大1.7倍に車の交通量が増えるというので、反対の声が大きくなった。コストコや地権者、栗東市では建設したくても、地域住民や隣接する自治体との調整がつかなければ出店できないということだ。

実際のところ、ロードサイドでも出店しやすい市街化区域は、日本全国もう既に他の店が出店してしまっている。市街化調整区域を市街化区域に変更しなければならないような、難しい土地しか残っていないから出店を加速したくてもできないのである。ここにコストコの成長の限界があるようだ。

一方で、地域の小規模スーパーでは定期的にコストコの人気商品を店内で販売するコストコフェアを開催する動きが広がっている。コストコに行きたくても高い会費に尻込みしていた人や、コストコの店舗まで遠く高速道路代が高くつくと感じている人に好評で、多くのケースでリピートされている。

東京都板橋区に本社がある「よしや」は板橋区を中心に12店を展開するが、2ヶ月に1度くらいのペースで、各店にてコストコフェアを開催している。コストコには法人会員として登録し、本部に開催日を連絡して商品を取りに行く。コストコの提携工場も一度には大量の商品をつくれないから、まとまった数を仕入れるなら、本部との連絡を密にしておかなければならない。別に法人として大量に発注したからといって、仕入れ代は安くならない

コストコから仕入れた商品は、1割から2割の利潤を乗せて店頭で売る。コストコも滋賀県栗東市のケースのように、出店を断られてしまうと、そうそうは店舗を増やせない。とすれば、地域に密着したローカルスーパー特に食品スーパーの販売力に期待していくしか、成長の芽はないだろう。

これからアマゾンをはじめとするネット通販もさらに台頭してくる。いつまでも現在のような店を構えているだけで顧客が集まってくる殿様商売を続けられるのか。その時に、ローカルスーパーに頭を下げて商品を売り歩く営業ができるのかどうか。コストコが成長の壁にぶつかる日も近いのかもしれない。

Photo by: 長浜淳之介

長浜淳之介

プロフィール:長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

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兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。

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