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狙うは政権交代。勢いづく山本太郎「れいわ新選組」衆院選の勝算

21日投開票の参議院選挙で、大方の予想を上回る大躍進を遂げたれいわ新選組。党代表である山本太郎氏は落選となったものの、元全国紙社会部記者の新 恭さんによればそれは「想定内」であったといいます。「政権を狙いにいっている」と言って憚らない山本氏ですが、今後れいわ新選組が「与党」となる日は来るのでしょうか。新さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で検証・考察しています。

参院選の真の勝者は山本太郎「れいわ新選組」か

橋下徹氏にいわせると今回の参院選は自民党の「圧勝」なのだそうである。安倍首相も、憲法改正の議論を求める民意が今回の結果に示されたと胸を張る。

果たしてそうだろうか。50%にも満たない投票率。有権者の半数以上が政治に期待していないことを示す勝者なき選挙ではなかったか。

快進撃を見せたのは、山本太郎氏の「れいわ新選組」くらいだ。直感のなせるわざか、緻密な予測と計算にもとづくものか、100%に近い完璧さで結果を出した

キワモノ扱いされ、諸派としてテレビに放映されることもなかった政治団体は、2つの議席を獲得し政党交付金の配分にあずかるれっきとした政党になったのである。

山本氏ら落選した8人の候補者たちはこの新しい政党をプラットホームとして、政権選択につながる衆議院選に打って出ることができる

「れいわ新選組」が奇抜な選挙作戦を選んだ理由は、今なら多くの人の目に明らかだろう。

山本氏は確実に当選したはずの東京選挙区から比例区に移り、優先当選の「特定枠」に難病ALS患者、舩後靖彦氏と重度障害者、木村英子氏をあてた。

集票の要である山本氏は「特定枠」の二人が当選したうえ、さらなる大量票を積み上げなければ、当選できない。落選確率が極めて高いことがわかったうえでの候補者擁立だった。山本氏まで当選させるには300万票が必要と叫び続け少なくとも政党要件を満たす得票率全国で2%)をめざした。

この6年間で鍛えられ、磨き上げられた山本氏の類まれな弁舌とマイクパフォーマンスは道行く人々の足を止め、耳目を引き、大量の熱気を発散させた。

選挙の結果、れいわ新選組は比例で約228万票を獲得得票率4.55%となり、政党要件である2%をはるかに上回った。

特定枠の二人が当選、99万2,200をこえる個人名の票を集めた山本太郎氏は落選したがむろんこれは想定内である。

落選しても、山本氏は参議院に登院できるだろう。党の代表であるとともに舩後氏、木村氏の介助者となればいいのだ。

木村氏は脳性まひで、首から下を自由に動かせない。当選後、「国会が重度障害者を入れてくれるのか、どれだけ合理的な配慮が整うのか。乗り越えなければならない壁だ」(朝日新聞より)と語った。

舩後氏は目や口の筋肉のわずかな動きと文字盤で介助者に意思を伝える。現在のところ、介助者の同行についての規則は国会にないが、必要性が明らかな介助者を認めないとなると大変な問題になる

障害のある議員の苦労や意見、彼らに寄り添う山本代表のコメント、受け入れ体制の整備を急ぐ国会の風景。そうしたことが報道番組やワイドショーで取り上げられるなら、障害者問題について国民が認識を深めるきっかけになる

政党代表としての山本氏はメディアの取材を受ける機会も増えるだろう。国会議員でなくても、前議員のバッジで登院のさいの手続きは省ける。テレビで党首たちの討論会があれば参加することもできる。

そして、最大の勝負どころは近いうちにやってくる。衆議院選挙だ。山本氏は次期衆院選について「政権選択なので、立候補者100人ぐらいの規模でやらなければいけない」と報道陣に述べたという。必ずしも大風呂敷とはいえない

「れいわ新選組」にはすでに4億円をこえる寄付金が集まっている。政党要件も満たし、これからは政党交付金も入ってくる。準備は整いつつある。

テレビ東京の選挙特番で池上彰氏から「落選し党の代表が国会に乗り込まなくて、これからどうしていくのでしょうか」と質問されたさい、山本氏はこう答えた。

「国会議員でなくてもやれることにベストを尽くせる。この後にも衆院選、3年後の参院選があるので、トライする場面も巡ってくる。政権を狙いにいっていますから

山本氏の本気度に疑う余地はない。問題は政策だ。たとえば「消費税廃止」「奨学金チャラ」。ぜひ掲げ続けてほしいが、その場合、覚悟せねばならないのは、財源をめぐる批判だ。

財務省筋や御用学者、エコノミストらから「財政健全化に反するトンデモ政策」とか「左翼ポピュリズム」などとレッテルをはられるだろう。

山本氏の主張は、ほんとうに必要な分野への政府の支出が足りないということだ。財源は、大会社や大金持ちへの累進課税を強化することで捻出すると選挙期間中、言い続けてきた。もちろん、それは本当だろう。

一方、いま話題のMMT理論による政府支出推進の考え方がベースにあるのも確かだ。これは、税金収入をもとに政府支出をして予算を均衡させるというのではなく、必要な政府支出を優先するもので、家計や企業会計に慣れきった頭では誤解しやすい。MMTからみれば、消費増税などは愚の骨頂だ。

この理論の提唱者の一人で、このほど来日したニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が経済評論家、三橋貴明氏との対談で語った内容のうち、最も基本的で重要と思われる部分を以下のようにまとめてみた。

「我々の金を政府が支出するという考えに慣れてしまっている。実はその逆で、我々は政府の金を稼いで生計を立てなければならない。民間企業とか家計とは違う。貨幣の発行者である政府にお金が無くなるということはない。政府は税の徴収より前に、お金を使わなくてはならない。お金を循環させてから初めて課税する。MMTは順序替えだ。まず政府が支出するのです」

「政府がお金を作り出すことは無制限にできるが、実体経済において制約はある。“インフレ制約”が存在する。需要が急騰して供給能力を超えてはならない。経済全体の均衡が大事で、政府予算の均衡は必要ない税はインフレにならないよう引き算し調整するためにある」

与野党ともにMMTを勉強する議員が増えていると聞く。「政府が借金した分民間の預金が増える」。ケルトン教授の言うことに論理矛盾はない。

ただし野放図な財政運営でも大丈夫と誤解して“インフレ制約”を無視するようなことがあると、ハイパーインフレに陥ってしまうだろう。

MMT論者は、政府債務がGDPの240%になってもインフレになっていない日本がMMTの考え方の正しさを証明していると指摘する。裏を返せば、世界のどこにもMMTを政策として採用し成功しているモデルはないということでもある。

円の通貨としての信用性は、円で税金を払えることで担保される。政府支出で円が大量発行されても、需要増に供給が対応できれば問題ない。理屈ではそうだが、想定外の副作用があるのかどうか、やってみなければわからない

それでも、MMTはトンデモ理論として無視すべきではないと思う。課税が先だという従来の考え方は“天動説”で、政府支出が先だとするMMTは地動説かもしれないのだ。

山本氏は2%のインフレ率までなら国債発行で財源はまかなえると主張する。公務員を増やし、真の国土強靭化にも財政を投入するという。小泉・竹中改革以来の新自由主義路線に真っ向から対決する姿勢だ。

それを可能とする論拠の柱が、MMTだとするなら、国民が誤解しないよう、しっかり説明を尽くす必要がある。

image by: MAG2 NEWS

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