中野明のストリートで哲学を語ってみた

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中野明のストリートで哲学を語ってみた
2019年8月5日
創刊号
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　みなさん、こんにちは。ノンフィクション作家の中野明です。
　今回は、まぐまぐさんからのお誘いがあり、メルマガを発行する運びとなりました。「テツガク」をテーマとした、一見重ためながら、実はとても軽いノリのメルマガを目指したいと思いますので、ぜひともお付き合いください。

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▼目次▼

1. 巻頭言・哲ガクのミチ
2. 哲ガクル・カフェ
　レストランの店頭には、なぜ、椅子が並べてあるのか
3. ボキャブラリーの増強剤
　今週のキーワード「コミットメント」
4. テツガク人の書棚
　梶井厚志『戦略的思考の技術』（2002年、中公新書）
5. 書斎の音楽
　Underworld + Hunter/Game
6. 編集後記

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1. 巻頭言・哲ガクのミチ

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　みなさん、再びですが、こんにちは。ノンフィクション作家の中野明です。

　私はパソコンやインターネットにふれてから随分時間が経ちますが、いまだかつてメルマガというものを発行したことがありませんでした。メルマガは読者の方と、かなりダイレクトにコミュニケーションできるメディアだと思うので、今回始めるメルマガが、一体どんな展開になるのか私自身もちょっと楽しみにしています。

　さて、当メルマガのテーマは「哲学──テツガク」です。実は私は文学部哲学科の出身でして、大学入学当時は将来哲学者になってやろうと、はりきっていたものです。しかし厳しい現実を前に、その夢は早くも1回生の前期で崩れ去りましたが・・・。

　こうして哲学に落ちこぼれた私ですが、その後、哲学から距離を置いたわけではありません。当時から現在までは、私は継続して哲学を実践してきたと自負しています。ちなみに、当メルマガは哲学を実践することを「哲ガクル」と表現しますが、要するに私はその後も継続して哲ガクってきたわけです。

　そもそも「哲学」といえば、どこか固くて難しいイメージが先行しますよね。でも、それは偏見だと思います。当メルマガの解説にも書きましたが、「哲学」とは「モノゴトの背景にある考え方」です。そして、「哲ガクル」とは、「モノゴトの背景にある考え方を探求すること」にほかなりません。

　私たちの身の回りにあるささいなモノゴトにも、その背景には意外な考え方があるものです。しかし、忙しさにかまかけて、普段私たちは、そんな哲学を考えたりしないものです。

　当メルマガでは、そのような普段気づかない「考え方＝哲学」を明らかにして、世界を見る目を広げることを狙いにしました。創刊号のメインコラム「哲ガクル・カフェ」のテーマは、「レストランの店頭には、なぜ、椅子が並べてあるのか」です。「店頭の椅子」に秘められた哲学を私と一緒に考えてみてください。


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2. 哲ガクル・カフェ

レストランの店頭には、なぜ、椅子が並べてあるのか

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　レストランの店頭に椅子が並べてある風景は、いまやまったく珍しいものではなくなりました。特に飲食店街にある店の場合、店頭に椅子を並べていない店舗のほうが少ないかもしれません。

　この店頭の椅子を「哲ガクル」と、少なくとも2つの意味があることがわかります。ひとつは機能的な意味、そしてもうひとつはシグナリングとしての意味です。

▼椅子がもつ2つの意味▼
　たとえば昼間や夜間に、来客が多くて店舗が満席になった場合、あふれたお客さんが、店頭の椅子に座って待っていられるようにする。これがこの椅子のもつ機能的な意味です。また、立って待つより、座って待つほうが楽ですから、この椅子は混雑時にお客を取り逃がさないための機能も有していると言えます。

　しかしながら、深慮遠謀を働かせるレストランのマネージャならば、単に機能的な意味合いで、店頭に椅子を並べているわけではないはずです。

　たとえば閑散時の飲食店街を歩いているとします。仮に、両隣のレストランがあって、一方は店頭に椅子が並べてあり、他方は並べていないとします。あなたならどう考えますか。

「この椅子の並べてある店、よく流行っているのかな」

　このように考えるのではないでしょうか。

　つまり「店頭に椅子が並べてある」「ということは、混雑時には座れないほど賑わうんだ」と、想像しても決して不思議ではありません。要するに店頭に椅子を並べることが、「うちの店は流行ってるよ」というメッセージを、道行く人々に発信しているわけです。これがシグナリングとしての椅子の意味です。

　そもそもシグナリングとは、自らの属性を表明することで、これによりシグナルを送った相手に、自分にとって都合の良い行動を起こさせるよう促すことを指します。

　店頭前の椅子の場合、これによって「流行っている店」というシグナルを発信し、それを見た客に来店を促すという意図が隠されています。店舗にとって、客が来店するということは、まさに「自分にとって都合の良い行動」にほかなりません。

▼身の回りはシグナリングだらけ▼
　普段は気がつかないものの、注意して見ると、私たちの周囲には多種多様のシグナリングが存在します。しかも、意外なものがシグナリングの役目を果たしています。いくつか例を挙げましょう。

　たとえば、通信販売を考えてみてください。通販業者の中には、「返品保証」をコミットメント（「3. ボキャブラリーの増強剤」参照）しているところがよくあります。

　品質に不安があれば、「返品保証」などとはうたわないでしょう。つまりこの通販業者はこの「返品保証」という一文で、「品質には自信がある」「安心してお買い物できる」ということを、消費者に対してシグナリングしているわけです。

　また、同様の手法に「お試し期間」があります。これは化粧品や健康食品、パソコンソフトなど、一定期間使ってみないことには、その効果がよくわからない製品によく利用される手法です。

　このお試し期間は、「気に入れば買ってください」という、販売者の心の深さをシグナリングしていることになります。また、品質に対する自信というシグナルも含んでいると考えてよいでしょう。

　ちなみに、当メルマガは初回月が無料になっています。つまりこれって、「気に入れば買ってください」という筆者の心の深さ（？）、それに「当メルマガの品質に対する自信」を、皆さんにシグナリングしているわけです（汗）。

　いずれにしても、こんな所にもシグナリングが潜んでいたというわけです。みなさんも、身近にあるシグナリングを哲ガクってみてください。

→メモ：シグナリング
　自らの属性を表明して、相手が自分にとって都合の良い行動を起こすように促すこと。


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3. ボキャブラリーの増強剤

今週のキーワード「コミットメント」

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　このコーナーは、メインコラム「2. 哲ガクル・カフェ」で紹介した内容と関わりの深いキーワードを取り上げて解説します。今回は「コミットメント」です。

　コミットメントという言葉、プライベートジムで著名な企業が使用して、一躍有名になった感があります。さて、皆さんはこの言葉をどのように用いていますか。実はこの言葉、シグナリングとも実に深い関係があります。

▼将来の行動の表明▼
　かつての大学受験生は、自分の部屋に「○×大学絶対合格」なんて書いた紙を壁に貼っていたものです（私は貼りませんでしたが）。この「○×大学絶対合格」のように、自分の将来の行動を表明し、実行することを約束したものをコミットメントと呼びます。

　そして、コミットメントを表明することを「コミットする」と言います。将来に対する意思表示の一種ですね。

　コミットメントにはそれこそ多様な種類があります。酔っ払うと毎回、「オレは将来絶対社長になるぞ〜」と連発する人がいたとしたら、これもコミットメントのひとつになります。あるいは、デスクトップの壁紙に「禁煙」と書くのも、やはりコミットメントの一種です。

　仕事でもコミットメントは頻繁に用いられています。「弊社では納期厳守をモットーにしています」というセールストークもコミットメントです。そして、コミットメントを明らかにすることで、相手に将来における自分の行動を信用させ、それに応じた行動をとらせることが可能になります。

　このような意味でコミットメントは、「自らの属性を表明して、相手が自分にとって都合の良い行動を起こすように促す」ことであるシグナリングと、とても深い関わりがあることがわかります。

　いわば、コミットメントもシグナリングの一種であり、特に将来の行動について語っているのが、その特徴と言えるでしょう。

→メモ：コミットメント
　自分の将来の行動を表明し、実行することを約束したもの


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4. テツガク人の書棚

梶井厚志『戦略的思考の技術』（2002年、中公新書）

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　このコーナーは、メインコラム「2. 哲ガクル・カフェ」や今週のキーワード「3. ボキャブラリーの増強剤」で解説した内容と関わりの深い図書を、私の本棚から選んで紹介します。今回は梶井厚志さんの『戦略的思考の技術』（2002年、中公新書）です。

　著者の梶井さんは京都大学経済研究所の教授で、ミクロ経済学やゲーム理論を専門にされています。私がこの本を手にとったのはゲーム理論に関する著作を執筆する際の参考資料として読んだと記憶しています。2010年頃のことでしょうか。

　この本が記憶に残ったのは、梶井さんの文章の上手さです。大学教授、経済学という言葉から、容易に「難しい本」という印象をもってしまいますが、とんでもない。梶井さんのシンプルで明快な文章は、非常に読みやすく理解しやすいものです。また、ミクロ経済学者だけあって、身近なテーマを扱っていて、そこに意外な経済学的知見を見出しているところも、本書の面白さの秘密だと思います。

　この本の中で、今回当メルマガで取り上げた「シグナリング」と「コミットメント」に関する一文が、それぞれ1章になっています。このコミットメントの章で梶井さんは、「自分を縛ることに意味がある」（P94）と、コミットメントの重要性を述べています。

　将来の行動を一度宣言したら、人はそれを実現するために努力します。なぜなら、宣言したのに実現しなかったら、回りの人からの信用を失うからです。そのためコミットメントは、モチベーションを高めるのにとても有効です。

　ただし実現不可能なことをコミットして、お手上げ状態になるのには要注意です（これをホールドアップといいます）。コミットメントには「有言実行」の精神で対応するのが基本中の基本というわけですね。

　今回の「シグナリング」と「コミットメント」に興味をもたれた方は、一度、梶井さんの本も手にとってみてはいかかでしょうか。なお、姉妹書に梶井厚志『故事成語でわかる経済学のキーワード』（2006年、中公新書）があります。

梶井厚志『戦略的思考の技術』（2002年、中公新書）
https://amzn.to/2JyqTYv　

梶井厚志『故事成語でわかる経済学のキーワード』（2006年、中公新書）
https://amzn.to/2S4c9EP　


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5. 書斎の音楽

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　私は音楽が生活の一部になっていまして、執筆中は音楽をかけっぱなし、出かけるときもiPhoneが欠かせません。利用しているのはもちろんAppleMusicです。このコーナーでは、今週、仕事をしながら聞いて、印象に残った曲を紹介します。多くはテクノ・ミュージックで、ほとんど新譜のラインナップになります。では、お楽しみください。

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artist: Underworld
title: DRIFT Episode 4: SPACE
https://music.apple.com/jp/album/drift-episode-4-space/1469539061
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　ビッグビート時代から考えるともはや大御所、カール・ハイドとリック・スミスのUnderworldの新譜です。昨年から開始したプロジェクト「DRIFT」シリーズの第4弾でタイトルは「SPACE」です。

　私は「うるさい曲」は苦手なんですが、ビートが効いている曲は好きです。今回の「SPACE」も、うるさくなくかつビートも効いていると思いきや、Underworldが最近得意とするサイレントなサウンドもあり、かけっぱなしで仕事するには向いています。カール・ハイドの甘い声、健在です。

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artist: Hunter/Game
title: Silence Remixes
https://music.apple.com/jp/album/silence-remixes-ep/1468259586
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　イタリアはミラノ出身のテクノ・デュオ。2010年から活動を始め、Last Night on EarthやKompakt、Get Physical Musicなど有名どころのレーベルから音源を発表してきました。今回はJust Thisからのリリースで、先頃出たLP「Silence」のリミックス版です。

　LP「Silence」で注目していた「Dead Soul」をRadio Slaveが、「Evolution」をVessels（この人のことはよく知らない）がリミックスしています。特にRadio Slaveによる「Dead Soul」の透明感あるエレクトリック・サウンドには清涼感があふれています。全体を通じて抑え気味、でもビートは効いているサウンドは、哲ガクルのにもいいかもです。


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6. 編集後記

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　さて、「中野明のストリートで哲学を語ってみた」の創刊号、いかがでしたでしょうか。最初の試みとしては、このような感じなのかなぁ、と書き手側としては納得しています。

　しかしこれはあくまで書き手側の話でして、内容に対する読者の方々のご意見やご感想をお待ちしています。また、当メルマガで取り上げてほしいと思うテーマやご質問などがございましたら、下記、メルアド宛てにご一報ください。

te2gaku@pcatwork.com

　全部にお応えするのは難しいかもしれませんが、誠心誠意対応していきたいと思います。

　では、当メルマガの購読、お待ちしております。

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中野明のストリートで哲学を語ってみた
2019年8月5日
創刊号
Akira Nakano, Copyright Control, 2019

■ 質問・ご意見：te2gaku@pcatwork.com
■ Webサイト：http://www.pcatwork.com/
■ 問い合わせ: te2gaku@pcatwork.com
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