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日本企業が潰れていく理由が自分自身にあると気づかない日本人

2019年7月時点の「世界時価総額ランキング」トップ50入りを果たした国内企業は44位のトヨタのみと、米中の後塵を拝し続ける日本。なぜ我が国はこのような状況に陥り、そしてそこから抜け出すことができずにいるのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では著者で世界的エンジニアでもある中島聡さんが、「当事者意識」をキーワードに据え考察しています。

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年8月20日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール中島聡なかじまさとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

当事者意識の話

とある日本の雑誌に、日本の若者・エンジニアを元気付ける連載を書くように頼まれています。先日noteで公開した「シリコン・バレーの空気」のように日本の大企業を批判した辛口の記事を書くのは得意ですが、元気付けるのは簡単ではありません。

そもそも「元気になる」とは何を指すのでしょうか?

私は「当事者意識を持って行動すること」だと思います。

日本のサラリーマンはよく、会社や上司の愚痴を言います。「うちの職場はブラックだ」「つまらない仕事しかさせてもらえない」「今している仕事の意味が分からない」「上司の頭が固い」などです。

しかし、愚痴が愚痴で終わっている限り何も変わりません。労働環境が劣悪ならば、会社に対してはっきりと文句を言えば良いし、上司がダメならその上の上司に直接掛け合えば良いと思うのですが、そんな行動を取る日本人は稀です。

そこには、「上司には逆らってはいけない」「自分が何をしても会社は変わらない」と言う暗黙の了解があり、「会社や上司に逆らう社員は、異端だ」と言う常識があるのだと思います。

しかし、本当にそれで良いのでしょうか?

私は、日本の大企業で働いている人と話す機会がしばしばありますが、特に茹でガエル状態の企業で働くエンジニアたちからは、「新しいことをさせてもらえない」「今、やっている仕事に意味を見出せない」と言う声を良く聞きます。

とある複合機(コピー、ファックス、プリンタ、スキャナなどの機能を持った機械)メーカーのエンジニアは、「社長は社員に向けては『これからはサービスの時代だ!』と掛け声をかけているにも関わらず、私に任された仕事は既存の複合機に誰も使わないような機能を追加する仕事。本当につまらない仕事だし、これでは会社はダメになってしまうと思う」と言うのです。

「これでは会社はダメになってしまうと思う」という危機感は素晴らしいと思うのですがその危機感が全く行動に結びついていないのです。「私に期待されているのは、上司から与えられた仕事を着実にこなすこと」と頭から決めつけてしまっているのです。

せっかく理系の大学を卒業し、世の中のこともそれなりに見えているのだから、本来ならば、彼自身が「こんな機能を複合機に追加したところで誰も使いません。もっと意味のあることをしましょう」と上司に食ってかかるべきなのに、それが出来ないのです。

そして、彼の上司も同じようなことを感じているのですが、自分の担当は複写機の開発なので、彼も何も言わずに、そのつまらない仕事を部下にアサインするのです。

さらに上の事業部長クラスになると、そもそも複写機ビジネスが先細りなのは自分自身が一番良く知っているにも関わらず、自分の仕事は「複写機ビジネスの売り上げを落とさないこと」なので、「もう複写機への投資は辞めて、新しいビジネスに投資しましょう」とは言えないのです。

社長クラスになると、これからはハードウェアではなくてサービスを売る会社に変わらなければならない、という漠然と認識は持っているものの、当面の売り上げや利益を維持するためには、複写機を売り続けなければならず、結局、大幅な投資戦略の変更は出来ず、新規事業開発部あたりを作って自己満足しているのです。

新規事業開発部のメンバーはメンバーで、特に何か作りたいものがあるわけでもないサラリーマンであるため、市場調査やフォーカス・グループ(ある製品ついて、特定の集団に意見を聞くこと)を通じて、理詰めで「何を作るべきか」を見つけ出そうとするため、なかなか「奇抜なアイデアがそこから生まれることはないのです。

こんな大企業の人たちと話していてつくづく感じるのは「当事者意識の欠如」です。それなりの危機感は持っているものの、誰も「(経営陣も含めて)自分の行動が会社の行く末に大きく左右するとは感じていないのです。

別の言い方をすれば、誰もが歯車の一つとして、自分に与えられた仕事をこなすことだけに一生懸命で、与えられた役割そのものが間違っているとかそもそも全体の設計が悪いから直そうとかはしないのです。

大企業が既存の市場や顧客のために思い切った方向転換が出来ないことは、(私がMicrosoftを辞めるきっかけを作ったビジネス書)『イノベーションのジレンマ』に書かれている通りで、それは米国の企業にも当てはまります。

では、日本と米国でどこが違うかというと、米国人の場合、自分に与えられた仕事に疑問を持つ場合は、堂々と文句を言う人が多いし上司に逆らってでも建設的な提案をします。そして、それが聞き入られない場合には、会社に見切りをつけて、優秀な人から先に辞めてしまうのです。

「長いものには巻かれろ」「お上には逆らうな」的な日本の文化もあるとは思いますが、終身雇用・年功序列を前提に作られた社会構造の中では、簡単には転職が出来ないという事情もあるとは思いますが、それが結果として、私のような米国生活が長い人から見ると「当事者意識に欠けた行動に見えるのだと思います。

image by: 2p2play / Shutterstock.com

※ 本記事は有料メルマガ『週刊 Life is beautiful』2019年8月20日号の一部抜粋です。

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