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キリンビール「本麒麟」大ヒットの秘密に学ぶ、企業文化の変え方

キリンビールの「本麒麟」のヒットの裏には、中途入社した執行役員の企業文化に捕らわれない戦略があったようです。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは、日経新聞の記事を紐解き、ビール業界の課題と老舗企業を蝕む「大企業病」を克服する方法を示します。大企業に限らず、硬直化した組織を変革しヒットを生むために必要なものとは?

ヒット商品を生むには社員を変えろ!キリンビールに学べ

キリンビールが面白い試みをやっているそうです。日経新聞8月14日の記事によると、キリンホールディングスの磯崎社長は、4月の入社式で新入社員を前に、「これからは外部から中途採用した人材が、5割になっても構わない」と言ったそうです。

現在のキリンホールディングスでは、中途採用人員が全人員の1割にも満たないそうなので、相当強く意味があるメッセージだと言えます。なぜ、磯崎社長はこのような発言をしたのでしょうか?

ビールの市場の特徴

ビールの業界は典型的な寡占市場です。最近でこそ、ヤッホーブルーイングなどが頑張っていますが、アサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4社の、メジャープレイヤーが長年市場でシェアを取り合ってきました。

市場の伸びが鈍化した寡占市場では、1社からヒット商品が出ると、競合が似たような商品を出して追いかける、というパターンがよくあります。1980年代後半に、アサヒビールが、スーパードライを出して大ヒットしたときに、他社が次々と自社のドライを出したような状況になることが、よくみられます。

本麒麟のヒットまでは、キリンビールもそうだったのでしょう。ビール好きの私も、売り場にいっていざ買おうとすると、メーカーが違うだけで、同じような種類のビールばかり。そうなると、自然と値段が安いものを買ってしまいます。

このメルマガで何度も書いているように、目に見える点、素材や価格などの商品の属性だけで勝負していると、最終的には「じゃあ、安い方にしておこう」となるのが、消費者心理です。これが、商品カテゴリーのコモディティ化による、値引き合戦の引き金です。企業側としては、値段の安さではないところで、勝負をしていきたいところです。

ヒットを生めなくなる企業文化

このような市場の中、キリンビールでは、第3のビール「本麒麟」を大ヒットさせました。最近のビール(系飲料含む)には珍しく、ブランドのメインカラーは赤

「本麒麟」というブランド名も、自社のフラッグシップ(旗艦)ブランドを示しているようです。まるで、以前資生堂が社運をかけて自社のイメージの花である、椿からとったシャンプーの「TSUBAKI」のようです。

一番重要なのは、ビールなのでもちろん「味」です。赤い缶とネーミングのイメージもあいまって、本格的なビールの味に近い、と感じて、なかなか美味しいので、私も好きでよく飲みます。

このヒットを仕掛けたのが、4年前に、プロクター&ギャンブル(P&G)社から入社した、山形さんという常務執行役員の方だそうです。記事によると、山形氏が入社した時、社内には、「ヒット商品が欲しいあまり、新商品を乱発することで、売り上げを上げようとした傾向」があったそうです。

ちなみに、この場合の新商品というのは、「XXビール ライト」などの既存のヒット商品のサブ・ブランドだったり、期間限定、季節限定、地域限定などといった、長期的視野でブランドを育てる視点とは異なる商品だと推測できます。

そこで、山形氏がとった行動は、短期的視野での開発ではなく、商品開発に一貫性のある戦略立案を求めたそうです。たとえば、製品そのものに関して、ビールは飲料なので、中心になるのは、ビールそのものの味です。その味を「本格的なもの」に近づけようとしたそうです。

また、パッケージのデザインに関して、伝説の生き物である麒麟のデザインを使うことに、反対する社員の意見が多かったそうです。しかし、山形氏は、「多くの消費者が長年飲み続けるブランドの要素」としての麒麟のデザインが必要で、育てていくべきだ、と主張しました。

山形氏は、このように、自社のこれまでの成功や業界の常識ではなく、お客さま目線で本麒麟を開発し、市場導入させ、ヒットに結びつけたと言えます。

本麒麟のヒットは何によって生まれたのか?

では、本麒麟のヒットを生んだ要因は何だったのでしょうか?まずは、先述の山形氏のリーダーシップによる、組織を動かしての一連の製品開発と市場導入にあります。

歴史のある会社の企業文化としては、「なにも大きな冒険をしなくていいんじゃないですか」と、チャレンジ精神がだんだんとなくなり、事なかれ主義になりがちです。

私も会社員時代に経験したことがあるのですが、どうしても企業の図体が大きくなると、お客さま本位というよりも、「うちの会社ありき」の企業風土になることが多々あります。いわゆる大企業病と言うやつですね。

お客様への新しい価値を生む「イノベーション」は、画期的なアイディアが出発点になります。この画期的なアイディアを出せなくなる大きな要因は、企業が組織として「思考停止」に陥るからです。考えが前に進まなくなってしまうのです。

組織を思考停止に陥らせる、2つの罠があります。1つは、「こうに決まっている」という“固定観念”、もう1つは「うちの会社はこれで成功してきたから!」という、“過去の成功体験”です。

特に、組織の中の上長である課長や部長が、新人たちの、過去に例がない、奇抜なアイディアを受け入れることなく、「そんなのダメに決まっている」、「うちではやったことがない」と、バッサリ切り捨てるようなことになると、若い社員たちは萎縮し、アイディアを口に出すことさえも嫌になってしまいます。会社や事業の規模が大きくなったり、軌道に乗り、手を打たないでいると発生する「大企業病」です。

キリンビールでは、磯崎社長、山形氏は、こういった社内の問題点を、「根本から変える」「構造そのものを変える」という大きな外科手術のような改革をとりました。これくらいやらないと、変わらない、ということですよね。

ヒット商品を出すのは小手先ではできない

では、私たちはキリンビールの事例から、何を学ぶべきでしょうか?

ヒット商品を出すには、固定観念や、過去の成功体験にとらわれないことが重要です。しかし、この2つからの脱却こそが一番難しいのも事実です。多くの企業が、苦しんでいるのもよくわかります。

企業の文化や風土は、社員の「心の中」にあるものなので、一朝一夕で変えることができません。「明日から変えようね」と、社員全員に通達しても、すぐに変わるのは難しいのです。

先ほど、大企業病といいましたが、大企業病は「大企業だけがかかる病い」ではありません。どんな企業でもかか可能性がある病気なのです。思考が硬直してしまう大企業病は、中堅企業、中小企業はもちろん、企業の中に存在する事業部や、運営する店舗にも見受けられます。

この本麒麟のヒットは、キリン社内での「人」の変革から生まれたと言えます。一番変えにくい人そのもの、そして人の意識は、何によって変えることができるのでしょうか?それは、組織のトップである社長です。組織のメンタリティを変えるには、トップが変わらなければなりません。上に立つ人、すなわち社長や店長が変わらないと、社員は変わらないのです。

次のステップとして、キリンの山形氏のようなプロのリーダーが、経営者の思いを、経営者のサポートを受けつつ、組織に浸透させることが必要です。

もう1点、このキリンの事例から学ぶことができるのは、顧客視点に立ったことです。物と情報が溢れている今、顧客が欲しいものは無い、と言っても過言でないくらいです。そんな中で選ばれ、買ってもらうには、顧客が今欲しいものとわかっているものを、提供していてはいけません

提供すべきは、顧客が今は知らないけれど、教えてもらったら欲しくなる、潜在的なニーズを提供しなければなりません。顧客は、会社の都合などどうでもよく、自分の欲求を満たしてくれるものを選びます。

顧客の一歩先を読み取らなければ潜在的なニーズを見つけ出し、提供できません。そのためには、常に顧客を観察し、顧客満足を超えた、顧客歓喜を探す工夫が必要です。

簡単なことではありませんが、キリンのような大企業はもちろん、中小企業の経営者やお店の店長さんに至るまで、マネジメントをする人は、

と自問自答することで、まずは、自社の企業文化が顧客視点に立っているか、をチェックすることから始めるといいでしょう。

image by: mrtravelbunny / Shutterstock.com

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