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赤字の安楽亭と安定の牛角を脅かす、焼き肉屋チェーン新たな刺客

安定の牛角、勢いを増す焼肉きんぐ等、現在活況を呈している焼き肉業界ですが、中には売上減に苦しむチェーンも存在します。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、焼き肉業界の全体図を解説するとともに、「安楽亭」が低迷する理由について考察しています。

爆増中の「焼肉きんぐ」にあって、赤字の「安楽亭」に無いものとは?

1人焼き肉店焼肉ライク」に注目が集まり、にわかに焼き肉業界に注目が集まっている。

2018年8月に東京・新橋に1号店がオープンした焼肉ライクは、現在国内では東京の繁華街を中心に10店舗を展開する。今後5年で300店体制を目指すという。いま最も勢いのある焼き肉店といえるだろう。「焼き肉のファーストフード店」をコンセプトに、1席につき1つのロースターがつき、1人でも気軽に行ける焼肉店を目指した。これが受け、東京で焼き肉ブームに火をつけることに成功した。

焼き肉は活況を呈している。日本フードサービス協会によると、「焼き肉」の外食売上高(全店ベース)は、7月こそ長雨が続くなど天候不順の影響で前年を下回ったが、6月までは31カ月連続で前年を上回っていた。18年は前年比5.6%増と大きく伸びている。外食全体の伸び率が2.3%にとどまったので、焼き肉の伸びのほどがわかるだろう。

業界を引っ張るのは、全国に600店超を展開する「牛角」だ。レインズインターナショナルが運営する。同社は1996年1月に直営の「焼肉市場 七輪」をオープンし、外食事業を始めた。翌97年10月に「焼肉市場 七輪」を「炭火焼肉酒家 牛角」に名称変更。11月に牛角のフランチャイズ1号店を開いた。牛角は海外でも積極的に展開している。

牛角は創業当時、業績は思わしくなかったという。そこで、店に対するクレームを言ってくれた客にお礼として飲食代を300円割引する施策を打ち出し、それをもとに問題点を改善していったところ、業績は上向くようになったという。カルビ1皿を490円という手ごろな価格で提供したこともあり、家族客や友人グループの取り込みに成功した。

牛角は店の雰囲気を重要視している。内装は従来の焼き肉店のイメージを覆すおしゃれな造りにし、居心地の良い雰囲気の演出に努めた。駅前や繁華街に店が多いのも特徴だ。こうしたことが功を奏し、若いカップル客の取り込みにも成功した。焼肉デートで使われることもしばしばだ。高級焼き肉店「叙々苑」のように肩肘張らずに気軽に利用できる焼き肉店として人気を博すようになった。

レインズは牛角のほかに「しゃぶしゃぶ温野菜」や居酒屋「土間土間」などの飲食店を展開する。子会社を含む同社の19年3月期業績は、売上高が前期比4%増の837億円、営業利益は14%増の69億円だった。レインズは12年10月に外食大手のコロワイドに買収されて子会社となり、15年1月に完全子会社となった。レインズはコロワイドの中でも中核となる企業グループで、特に利益面での貢献が大きい。牛角はコロワイドの中でも中核ブランドだ。

焼き肉チェーンでは牛角が圧倒的な強さを誇るが、近年は「焼肉きんぐ」が勢力を伸ばし、牛角の地位を脅かしている

焼肉きんぐは現在全国に約220店を展開。物語コーポレーションが運営する。同社はおでん店が祖業で、焼き肉店は1995年に「焼肉一番カルビ」を開いたのが始まりだ。焼肉きんぐを開いたのはその11年後の2007年となる。同社は他に「丸源ラーメン」や「お好み焼本舗」などの飲食店を展開する。

焼肉きんぐはファミリー層が多い郊外ロードサイドを主戦場とし、「食べ放題を武器に成長を果たした。店舗の外装や看板には屋号の他に「食べ放題」の文字を大きく表示し、集客を図っている。

もっとも、焼き肉の食べ放題は焼肉きんぐが先駆けではないし、珍しいものでもなかった。ただ、従来は客が肉を取りに行ってテーブルに持ち帰って食べる「ビュッフェ方式が一般的だった。そういった店では肉の品質が低下しやすく、客に手間をかけさせてしまうという問題を抱えていた。

そこで焼肉きんぐは客が着席したまま店員に注文し、店員が肉をテーブルまで届ける「テーブルオーダーバイキング方式」を導入したほか、スピード提供を実現するため、早々にタッチパネルを使った注文システムを導入した。こうしたことが功を奏し、人気を博すようになった。店舗数は今も増加傾向にあり、成長途上にある。

物語コーポレーションの焼肉きんぐを主体とした焼き肉部門の既存店売上高は堅調に推移する。19年6月期は前期比2.2%増と2年連続でプラスとなった。

同社の業績は焼肉きんぐがけん引し好調だ。19年6月期連結決算は、売上高が前期比13%増の589億円、営業利益は17%増の39億円だった。

「安楽亭」が赤字に苦しむ理由

牛角が存在感を示し、焼肉きんぐや焼肉ライクが勢いを増すなか、存在感が低下し、業績低迷で苦しむ焼き肉チェーンがある。「安楽亭」だ。

安楽亭は現在全国に約180店を展開する。1963年に焼肉店の安楽亭が創業。78年に法人の安楽亭を設立した。85年に伊藤忠商事と資本提携して出店を加速し、店舗網を拡大してきた。郊外ロードサイド中心に出店を重ね家族連れで気軽に利用できる焼き肉店として人気を博した。2000年には東証2部に上場を果たしている。安楽亭は他に高価格の焼き肉店「七輪房」などの飲食店を展開する。

安楽亭は90年代に存在感を発揮し業績は好調だったが、00年代に入ってからは低迷するようになった。競争が激化したほか、ユッケによる食中毒事故や放射性物質を含んだエサを食べた牛の肉の流通問題など消費者の牛肉に対するイメージ低下で客足が遠のくようになり、売上高は減少傾向が続くようになった。

01年3月期に360億円あった連結売上高は、19年3月期には163億円前期比4%減)まで低下した。この18年で半分以下になった。19年3月期の営業利益は前期比47%減の1億8500万円だった。最終損益は1億300万円の赤字(前の期は1億4,900万円の黒字)に陥った。

安楽亭は低迷している。一方で、取って代わるかのように焼肉きんぐが台頭した。両者はどちらも郊外ロードサイドを主戦場とし価格帯や商品の品質も同程度で競合度は高い。似通った両者だが、焼肉きんぐに勢いがある一方で安楽亭の勢いは衰えた。それはなぜか。

安楽亭は創業が1963年と古く老朽化した店舗も多いことから「昔ながらの焼き肉チェーン」とのイメージが強い。一方、焼肉きんぐは誕生したのが2007年と新しいため、消費者に「どのような焼き肉店なのだろう」と興味を掻き立てることができる立場にある。こうした新旧の違いが大きく影響しているだろう。

もう1つ大きいと思われるのが「屋号」だ。焼肉きんぐは「焼き肉の王様」という意味を表すが、単純ながら「王様」と表現することで肉の品質を高められているように思える。いずれにせよ、焼肉きんぐは屋号に問題はなさそうだ。一方、安楽亭は屋号に焼肉の文字がないことが競争上不利になっており、屋号に問題を抱えていると筆者は考える。

安楽亭を焼き肉チェーンと知っている人に対しては問題ないが、そうではない人に対しては集客上大きな問題がある。後者の人は「安楽亭」だけを見聞きして、安楽亭が焼き肉チェーンと理解することは難しく記憶することも難しいだろう。

そういった人が例えば車を運転していて、どこか焼き肉店で食事しようと考えた場合に、安楽亭は焼き肉店と理解されずにスルーされやすいのではないか。もちろん、看板などにおいて「安楽亭」の文字の付近に「焼肉」の文字や肉の写真が付いてはいるだろうが、それでも「安楽亭」の文字しか認識されないケースは少なくないだろう。「安楽亭」という屋号は焼き肉店と理解されやすいとはいえない

一方、焼肉きんぐは屋号に「焼肉」の文字が入っているので、誰が見聞きしても焼肉きんぐを焼き肉店とすぐに理解できる。消費者が焼き肉を食べたいと思った際に、焼肉きんぐは想起されやすいだろう。「焼肉ライク」が屋号に「焼肉」の文字を入れたのもこうした理由からだと考えられる。

安楽亭が厳しい状況に立たされるようになったのは、これらの理由が大きいだろう。焼肉きんぐが台頭していることもあり、抜本的な対策を講じる必要がありそうだ。

郊外ロードサイドでは焼肉きんぐと安楽亭が、繁華街では焼肉ライクと牛角が覇権を争う構図となっている。どちらも新旧の対決だ。店舗数では焼肉きんぐが牛角を猛追する。焼き肉チェーン同士の戦いは激しさを増しており、今後の行方に注目が集まる。

店舗経営コンサルタントの視線で企業を鋭く分析!
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佐藤昌司のブログ「商売ショーバイ」

image by: Shutterstock.com

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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