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JR「計画運休」の大失敗。台風直撃で露呈した低スキル首都・東京

週明けの首都圏を大混乱に陥れた、台風15号に対するJR東日本の「計画運休」。様々な悪条件が重なったとはいえ、なぜここまでの「大失敗」となってしまったのでしょうか。米国在住の作家で鉄道事情に詳しい冷泉彰彦さんが、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』でその原因を分析するとともに、どうすればこのような事態を回避できたのかについて考察しています。

台風15号における計画運休失敗、その原因は?

結論から申し上げますと、今回9月8日に関東地方に上陸した台風15号に関して行われた、JR東日本の計画運休は失敗でした。これだけ多数の駅で入場制限に追い込まれ、その場合に駅の外で長蛇の列が半日近く発生し、台風一過のフェーン現象による猛暑の中、過酷な状況に乗客を放置したというのは失敗以外の何物でもありません

この問題に関しては、休業や自宅勤務を決断できなかった各事業所、事前に休校を決定できなかった学校等への批判もあると思います。確かにその通りであって、勿論、個別にはそうした事業所や学校には危機管理能力の上で重大な疑問を感じざるを得ません。

そうではあるのですが、今回はJR東日本に猛省を求めたいと思います。多くの友人、尊敬する鉄道人が在籍する企業であり、心苦しいのですが、今後の同社のためにあえて苦言を申し上げたいと思います。

どうすれば良かったのか?

一見すると問題は2つあるように見えます。

1つは発表のタイミングです。いわゆる「計画運休」については、何でも国交省のガイドラインがあるそうで、24時間以内、できれば48時間以内に告知せよとか、各事業者別に「タイムライン」を作れとかいうのがあるのですが、それに従っていればいいというものではありません。

今回の「前日に、翌朝8時までの運休を予告」というのは、明らかに失敗だったわけですが、その一つとしてはこの発表のタイミングの問題があったと思います。前日では遅すぎたのです。

2つ目の問題は運転再開の見通しです。当初は8時の予定で、確かに台風はもう過ぎていましたが、予測を超えて発達して上陸したために、暴風被害が尋常ではなかったわけです。そのために、鉄道としては飛来物や倒木、更には電化設備や駅舎等の構造物の安全確認には膨大な労力を取られることになりました。その結果として、ズルズルと運転再開時刻は遅れて行き混乱が拡大したのでした。

報道の中には「首都圏の大規模な計画運休は昨年9月以来。昨年と同様、台風通過後のスムーズな再開やダイヤの正常化が課題となった(共同通信)」などというハッキリ言って無責任な表現も見られましたが、とにかく最大瞬間風速45メートル秒などというのは大変な威力であり、JR東日本のような広域鉄道ネットワークにおいて安全確認に時間がかかった点については批判すべきではないと思います。

ということは、「前日」ではなく24時間前あるいは48時間前に予告していれば良かったのでしょうか?あるいはもっと台風の勢力を厳密に評価して、8時の運転再開予定などという楽観的な判断ではなく、もっと「厳しめに」発表していれば良かったのでしょうか?

この2つの問題に関しては、実はそのような問いの立て方自体が間違っているのです。

問題は、この計画運休というのは「相手のある話」だということです。相手とは、個々人の通勤・通学の利用者ではありません。そうではなくて、通勤する人の向かう事業所通学する人の向かう学校です。

そこで考えるべきことは非常にシンプルです。9月9日の月曜日に、8時ないし9時から5時などを勤務時間とする多くの事業所、そして同じく8時台に生徒や学生を集めて15時以降に下校させる学校に対して、決断を容易にさせるということです。

要するに9月9日の月曜日を休業または自宅勤務、あるいは休校とさせるのかしないのかという判断を促すように、計画運休を発表すべきでした。つまり、利用者の側から逆算して発表するのです。

もっと言えば、「計画運休」というのは「計画的に鉄道が運休する」だけでなく、社会全体が鉄道運休に備えて計画的に行動するためのもの、そのような理解、発想が必要です。

この発想であれば、今回の計画運休の発表は24時間前でも、48時間前でもダメです。9月9日の出勤時刻・登校時刻にかかるような輸送障害を予想しているのであれば、その発表は「9月6日の金曜日その午後イチがタイムリミットであったはずです。

反対にこのタイムリミットまでに決断して発表ができれば、多くの事業所と学校は、平日の定時の時間内に余裕を持って意思決定会議を行って9月9日の月曜日の休業が決定できたはずです。

同じように、運転開始時刻を午前8時としたのも不適切だと思います。迷惑を最低限にしたいし、その努力をすれば理解されるだろうという気持ちが判断の裏にはあったのでしょうが、甘いと言わざるを得ません。「午前8時」というのは、「多少の遅刻を許容すれば会社にも学校にも行ける時間という極めて曖昧な時刻です。そんな発表をすれば会社も学校も、そして利用者個人も、「頑張って行こうということになりかねない中途半端な時間だからです。

ですから、結論としては、今後同じような曜日に同じようなコースが予想される台風が接近したとしたら、前週の金曜日の午後イチに月曜日は12時まで運休といった発表をすべきだと思います。

勿論、リスクは伴います。今回の15号の場合、6日の金曜日の時点では上陸の地点は東海から関東の幅広いエリアの可能性があり、絞り込みはできていませんでした。また9日の12時などという大胆な運休をして、仮に被害が軽微であった場合には批判が来るのは明らかです。

それでいいのです。空振りになっても、それで猛暑の中、津田沼駅などで大行列をさせるという個人にとっても社会にとっても無駄な不幸を回避できればそれでいいのです。

成田が陸の孤島になったという大問題もありますが、これも鉄道と空港運営会社の協議、更には世界中のキャリアとの協議という問題があり、もっともっと早めに運休が具体的に決定できれば対策の方法もあると思います。

最近、計画運休では実績のある関西の鉄道関係者に話を伺うことがあったのですが、その方は「首都圏は輸送量が桁違いであるし、ネットワーク上の問題として山手線に過剰な負荷があるとか、相互直通が多すぎて大変だという条件の悪さ」があるとしながらも、関東でも「ホンモノの計画運休が理解を得るようになってほしい」と真剣に語っておられました。

とにかく「緻密に計画して、前倒しで発表することでリスクを最小化する」ということが「できない」というのは文明のレベルが未発達であるということです。「実際に台風が来ないと判断できない」とか「空振りになると批判が出る」というのはとにかく社会として幼稚なのです。

ですから、これはJR東日本さんだけの問題ではなく、東京という都会がいかに幼稚で低スキルの街なのかということなのですが、とにかく今回の失態を教訓として、ホンモノの計画運休を定着させていっていただきたいと思います。

クソ真面目に「できるだけ精度の高い判断をして、利用者の不便を最小化したい」という発想ではダメなのです。そうではなくて前倒しの判断と発表で相手つまり利用者サイドの判断をし易くするこれが計画運休のキモです。「月曜日の休業・休校を判断させる」というところから逆算して決定、発表する、そのような発想の転換を強く求めたいと思います。

image by: LO Kin-hei / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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