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吉野家の憂鬱。すきやき重バカ売れ後に待ち受ける消費増税の罠

60億円の赤字となった2019年2月期から一転、今期の吉野家の業績が好調です。今回の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』では著者で店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが、その「勝因」を分析するとともに、消費増税後に同社が失速する可能性について指摘しています。

吉野家、「すきやき重」バカ売れで8月売上高14%増。ヒット連発で業績好調

吉野家が絶好調だ。8月の既存店売上高は前年同月比13.9%増と大きく伸びた。すき家(3.5%増)と松屋(6.1%増)を大きく上回る伸びを実現している。

吉野家が8月に好調だったのは、同月14日から全国の店舗で販売を始めたサーロインを使った「特選 すきやき重が好調だったことが大きい。同商品は牛肉のサーロインの部位を使用し、みそ汁などを付けて860円で販売。全国展開する牛肉を使った商品では最も高額という。約50万食の数量限定で、吉野家としては初の取り扱いとなる。

同商品はあまりの人気に、発売初日に多くの店舗で品切れが起きた。吉野家はお詫びを表明し、翌15日以降は午前11時からの販売とし、当日分の食材がなくなり次第その日の販売を終了するとした。人気はその後も衰えず、高額商品にもかかわらず、発売からわずか12日間で約50万食をほぼ完売した。

こうして8月はすきやき重特需で沸いたわけだが、好調だったのはこの月だけではない。今期はどの月も好調で、2019年上半期(3~8月)の既存店売上高は前年同期比6.9%増と大きく伸び、いずれの月も前年を上回った。前期(19年2月期)が0.8%増にとどまったことを考えると今期の好調のほどがわかるだろう。

吉野家の業績は好調だ。7月9日に発表した20年2月期第1四半期(19年3~5月)連結決算は、売上高が前年同期比6.0%増の527億円、営業損益は10億4,400万円の黒字(前年同期は1億7,800万円の赤字)だった。最終損益は10億9,700万円の黒字(同3億8,800万円の赤字)だ。

今期とは異なり19年2月期は業績低迷で苦しんだ。売上高は前期比2.0%増の2,023億円と増収だったものの、営業利益は97.4%減の1億400万円と激減。最終損益は60億円の赤字(前の期は14億9,100万円の黒字)に陥った。最終赤字は6年ぶり。

19年2月期は人件費や原材料費などのコストがかさんだほか、商品投入でミスを犯して既存店売上高が想定を下回ってしまい、利益を押し下げた。

18年は鍋商品「牛すき鍋膳で誤算が生じた。前年より40円高い690円で販売したことが響いたほか、すき家が「牛すき鍋定食」を前年より2週間早い11月中旬に売り出し、松屋が「牛鍋膳」を10月上旬から販売して鍋商品市場に参戦、吉野家の「牛すき鍋膳」が埋没してしまったのだ。また、17年冬に販売した人気メニューの「豚スタミナ丼を18年は見送ったことも影響した。

こうして19年2月期は既存店売上高が計画に届かず決算は不調に終わったわけだが、今期に入ってからは打って変わって好調に推移する。

まず、3月に28年ぶりとなる牛丼の新サイズを導入したことが功を奏した。大盛よりも量が多い「超特盛」(780円)と、並盛よりも量が少ない「小盛」(360円)の2種類を新たに追加。どちらも想定を超える売れ行きで、発売開始から1カ月で超特盛は販売数100万食、小盛は60万食を超えたという。

5月にはRIZAPと組んで開発したコメ抜き牛丼ライザップ牛サラダ」(540円)を発売。コメの代わりにサラダを敷き詰め、その上に牛肉や鶏肉、ブロッコリーなどを載せた商品で、「高たんぱく低糖質」をうたい、健康志向の消費者の取り込みを図った。これがヒットし、発売開始から74日で販売数100万食を突破したという。

19年3~5月期決算が好調だったのは、牛丼の新サイズとライザップ牛サラダの好調で既存店売上高が好調に推移したことが寄与したためだ。どちらの商品も単価が高いことから、3~5月の既存店客単価は前年と比べて各月5%超の大きな伸びを示し、売上高を大きく伸ばすことに成功した。

避けられぬ吉野家「牛丼並盛」の競争力低下

このように吉野家では客単価が大きく上昇している。牛丼の新サイズとライザップ牛サラダを売り出したほか、5月からサイドメニューを値上げし、8月に高単価のすきやき重を販売した結果、3~8月の客単価は前年同期比4.2%増と大きく伸ばすことに成功した。客数も2.6%増と好調だった。

新たな商品を投入したことで客単価を伸ばすことに成功したが、それに加えて新たな顧客層を掘り起こせたことも見逃せない。

超特盛は食べ盛りの若年男性層、小盛は女性やシニア層の取り込みに成功した。ライザップ牛サラダは女性や健康志向の男性に人気を博した。一方、すきやき重は日ごろから吉野家を利用している客から支持され、リピート頻度の向上につながったという。

子どもの取り込みにも力を入れた。4月27日~5月6日に小学生以下の子ども向けに牛丼や定食、カレーなど全38種類が190円引きとなるキャンペーンを展開。7月20日~9月1日には同じく小学生以下の子ども向けに牛丼並盛が半額、それ以外のサイズの牛丼や定食、カレーなど全50種類が190円引きとなるキャンペーンを実施した。吉野家は18年の夏休みから子ども向けの割引を展開しているが、好評だったことから今年は規模を拡大して実施した。こうして子どものほか、同行する家族の需要の取り込みを図っている。

こうしたヒット商品や新たな顧客層の取り込みで吉野家の業績は好調だ。だが、今後の行方は予断を許さない。というのも、10月の消費増税後に失速する可能性があるためだ。

競合の「すき家松屋」は消費増税に伴う軽減税率の導入で主力の「牛丼牛めしの並盛の税込み価格を維持し実質的に値下げするという。

一方、吉野家は本体価格を据え置き持ち帰りと店内の税込み価格を別にする方針だ。軽減税率では持ち帰りと店内飲食の税率がそれぞれ8%、10%になる。吉野家は店内飲食の場合だけ値上げとなり、牛丼並盛の税込み価格は7円高い387円となる。

すき家は牛丼並盛の税込み価格を350円に据え置くため、店内飲食の場合の吉野家牛丼並盛との価格差は30円から37円に拡大する。松屋の牛めし並盛(320円)と吉野家牛丼並盛との差は60円から67円に、首都圏で販売する「プレミアム牛めし並盛」(380円)は同額から7円差に拡大する。

たかが7円、されど7円、どのように転ぶかはわからないが、吉野家は消費増税時の値上げにより価格の高さが敬遠されて顧客離れが起きないとも限らない

いずれにせよ、吉野家の牛丼並盛の競争力低下が避けられないので、好調な業績を維持するには、ライザップ牛サラダやすきやき重に続くヒット商品を生み出すことが欠かせない。吉野家は商品開発力が改めて問われそうだ。

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佐藤昌司のブログ「商売ショーバイ」

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東京MXテレビ『バラいろダンディ』に出演、東洋経済オンライン『マクドナルドができていない「基本中の基本」』を寄稿、テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!スペシャル「並ぶ場所にはワケがある!行列からニッポンが見えるSP」』を監修した、店舗経営コンサルタント・佐藤昌司が発行するメルマガです。店舗経営や商売、ビジネスなどに役立つ情報を配信しています。

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【著者】 佐藤昌司 【発行周期】 ほぼ日刊

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