紫式部が1008年に世に出し、それから1,000年を超える時を経た今も広く読み継がれている『源氏物語』。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では東洋思想家の境野勝悟さんが、日本語の並びや文章リズムの素晴らしさに加えて、『源氏物語』が描く時代を超越した「真実の愛」を紹介しています。
世界が認めた古典文学『源氏物語』 境野勝悟(東洋思想家)
平安時代中期に紫式部が著した『源氏物語』。世界的にも高い評価を受けている古典文学の最高峰の作品の魅力を、境野さんが紐解きました。
『源氏物語』の何が素晴らしいかといえば、まず一つには日本語の音の並び、文章のリズムが非常にいい。『徒然草』『方丈記』の文章も素晴らしいですが、『源氏物語』は断トツでしょう。小説家の三島由紀夫は、「『源氏物語』以上の文学は書けない」と言ったそうですが、その気持ちも分かります。
もう一つの魅力は、時代を超越した真実の愛を描いていることです。『源氏物語』を読むと、人間の情、男女の愛というのはここまで尊いものかと教えられます。
ただ、物語に出てくる女性の和歌や言葉の真意が、男性の私には十分理解できないことがよくありました。そういう時には、「こう思いますがどうですか?」と奥様方に聞くのですが、ほとんど「それは違うわ」という返事が返ってくるのです。それで私は、物事の感じ方や愛のあり方は、男女でこんなにも違うのかと驚きました。
「男女平等」を教えられてきた現代人は、ともすれば、男女は何もかも一緒だと考えてしまいがちですが、やはり、法的に同権ではあっても、同質ではないのです。ここが理解できないと、よりよい人間関係、人生もつくれません。
そして『源氏物語』の登場人物たちは、その男女の違いを知り尽くした上で、理解し合い、お互いの愛の生活、あるいは人生を充実させていく。主人公の光源氏も、付き合った女性たちの心を深く理解し、皆を幸せにしています。
ちなみに、源氏が若い頃に付き合った女性は、ほとんど全員年上です。男女関係が大らかだった時代には、男は年上の女性とたくさん付き合うことで、恋愛のみならず、人情の機微や人生を教えてもらったのです。それは女性も同じことでした。とにかく、多様な人との心通った交流の中で自分の人格や教養を完成させていった。
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