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三原じゅん子「初入閣の夢」が儚くも散った、政界の冷酷な現実

11日に発足した、第4次安倍再改造内閣。小泉進次郎氏の環境相起用というサプライズに耳目が集まっていますが、「初入閣に向け調整中」とされた三原じゅん子氏は涙を飲む結果となりました。なぜ三原氏の入閣は見送られたのでしょうか。元全国紙社会部記者の新 恭さんが自身のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、その背景を探っています。

恥を知りなさいの三原じゅん子入閣ならず、あの論議再燃を避けたか?

いささか大時代の小説風に言うなら、三原じゅん子参院議員は悔し涙で枕をぬらしているのではないだろうか。

当選2回にして初入閣。メディアにそういう下馬評も散見された。三原氏もひそかに期待し、日増しに胸の鼓動は高まっていたにちがいない。

手応えはあった。今年6月24日のことである。参議院本会議に提出された安倍首相問責決議案に反対の立場で三原議員が芝居がかった調子で激烈な演説をぶっていた。

「安倍内閣の下、この春、中小企業で働く皆様の賃金はしっかりと上がりました。賃上げ率は、この20年間で最高水準です。民主党政権時代はどうだったか。賃金を増やすどころか、企業自体の倒産が今よりも4割以上多かった。連鎖倒産という言葉が日本中を覆っていました。まさに悪夢だったのであります。…民主党政権の負の遺産の尻拭いをしてきた安倍総理に、感謝こそすれ、問責決議案を提出するなど、愚か者の所業とのそしりは免れません。野党の皆さん、恥を知りなさい

野党に憎まれても構わない。身を呈して安倍首相を守ったつもりだった。その瞬間の安倍首相がどんな表情を浮かべたかを見ることはできなかったが、あとで同僚議員に絶賛された。

自分でも、安倍首相に気に入られている出世コースに乗っているという自覚はあった。だから、今回の内閣改造で、官邸に呼び込まれる自身の姿を想像もしただろう。

だが、論功など一切ない入閣待機組の老人たちが猟官運動の成果で続々と選ばれる一方、三原議員が閣僚の船に乗ることはついに叶わなかった

さてこの「恥を知りなさい」演説、突っ張り役を得意とした女優時代をしのぐ迫力だったために、傲慢イメージが際立ってしまったが、実は、突っ込みどころ満載の論議だった。

いやしくも三原氏は参院議員であって、内閣の一員ではない。冷静に内閣の進める政策や閣僚らの政治行動を外側からチェックするのが仕事である。とりわけ参院議員にはそうした姿勢が強く求められる。

そのうえ事実認識が誤っている。2012年と比較すると、2017年の実質賃金は4.1%も下がっている。第2次安倍政権下で、国民はそのぶん「貧困化」したといえる。

中小企業の賃上げ率がこの20年で最高の水準と言うが、それは連合の調査であり、あくまでその傘下の労組を対象とした調査に過ぎない。大多数の中小零細企業は賃上げする余力などなく大企業との賃金格差が広がっているのだ。

倒産件数は民主党政権が2009年に誕生し「中小企業金融円滑化法」が施行されてから減少を続け、10年連続で前年を下回っている。異次元金融緩和で金融機関が取り立てをゆるめやすいということはあるが、あくまで民主党政権時代から倒産件数の減少が始まったのであり、三原議員は勘違いも甚だしい。むしろ、そんなゆるい環境のなかでも「返済猶予倒産」が増えている点に日本経済の問題点を見出すべきである。もし、三原議員が大臣になったら、野党の攻撃の格好のマトとなるところだった

三原議員の、時代がかっていて、感情過多で、不正確な議論は今に始まったことではない。

2015年3月16日の参院予算委員会でもそうだった。三原議員はアマゾンなど多国籍企業の租税回避問題をめぐり、戦前戦中にタイムスリップしたかのごとく「八紘一宇」という言葉で、論陣を張ってみせたのである。

「八紘一宇というのは、初代神武天皇が即位の折に、掩八紘而為宇(あめのしたおおひていえとなさむ)とおっしゃったことに由来する言葉です。現在の国際秩序は弱肉強食。強い国はびこって弱い民族を虐げている。世界中で一番強い国が、弱い国、弱い民族のために働いてやる制度ができたとき、初めて世界は平和になるということです。この八紘一宇という根本原理の中に現在のグローバル資本主義の中で日本がどう立ち振る舞うべきかというのが示されているのだと私は思えてならないんです」

実は日本書紀の記述「掩八紘而為宇」をもとに「八紘一宇」を造語したのは宗教家田中智学である。日蓮信仰と皇国史観を合体させ、在家仏教団体「国柱会」を1914(大正3)年につくった。「八紘一宇」は宗教思想のなかから生まれたのである。

満州事変の首謀者、石原莞爾もメンバーの一人で、その講演を記録した「最終戦争論・戦争史大観」には「八紘一宇」が戦前どのような意味で使われていたかが明確にされている

「悠久の昔から東方道義の道統を伝持遊ばされた天皇が、間もなく東亜連盟の盟主、次いで世界の天皇と仰がれることは、われわれの堅い信仰であります。…最終戦争はいつ来るか。…最後の大決勝戦で世界の人口は半分になるかも知れないが、世界は政治的に一つになる。…この大事業を貫くものは…日本国体の精神による信仰の統一であります。…そこで真の世界の統一、即ち八紘一宇が初めて実現するであろうと考える次第であります」

石原はこの講演で、いずれ原子力爆弾がつくられる可能性にも言及している。大量破壊兵器による戦争が最終戦争で、それを耐えてこそ人類に平和が訪れると言う。そしてその最終決戦は、「力に頼る西洋覇道主義と天皇の大御心を信じる東方道義」との戦いとなると予言した。

石原はのちの対米決戦について「油が欲しいからとて戦争を始める奴があるか」と反対し、東条英機と対立したといわれるが、少なくとも昭和15年5月の講演時点では大陸における関東軍の暴走満州国建国日中戦争を正当化し、欧米との戦争を視野に入れていたということだろう。そのすべてを「八紘一宇の実現のための聖戦」と位置づけたのである。

いまだに女優、タレントのイメージが色濃い三原議員に対し、「八紘一宇」の意味が分かっていないのではないかという批判がある一方、「天皇のお心」の尊さをこの質疑でくり返し強調していたとして「確信犯」とする宗教学者、島田裕巳氏のような見方もある。

ただ、個人の思想はともあれ、「八紘一宇という根本原理の中に現在のグローバル資本主義の中で日本がどう立ち振る舞うべきかが示されている」などと、現代の政治の舞台に、日蓮主義を源流とし戦意高揚の国体思想に使われた言葉を持ち込むのはいかがなものであろうか。

この三原発言について、2015年4月16日の参院文教委員会で神本美恵子議員が下村博文・文科大臣にこう質問した。

「政治家が使う政治的な言語というのは、それが語られた歴史的な文脈の中で理解すべきだ。八紘一宇に対する認識は下村大臣も同じなのか

さすがに保守色の強い下村大臣も三原発言を肯定するわけにはいかないようで「趣旨はともかく、定義としては戦前の軍国主義の象徴のような言葉としてイメージされていますから、これは、使うのは適切でないと考えております」と答えた。

ジャーナリスト、安積明子氏のインタビューに対し、三原氏は発言の意図をこのように話した。

「私とて、この言葉が戦前に国威発揚のために使われたことは存じております。そしてあの戦争が日本の歴史に悲劇をもたらしたことも十分に理解しているつもりです。…そもそも『八紘一宇』の本来の意味は…『世界のすみずみまでもひとつの家族のように仲良く暮らしていける国にしていこうではないか』という建国の理念です。私はこの言葉に本来の意味を吹き込み、古来より日本が持っていた『和』の美徳をもういちど蘇らせたい」

戦争にのぞんで国威発揚するために使われた言葉であることを承知しながら、その本来の意味は世界が仲良くということだと勝手に解釈して、国会で滔々と論陣をはった三原氏の度胸は驚嘆すべきである。

もし大臣になっていたとしたら、この発言に対する認識があらためて問われるところだった。

「恥を知りなさい」は安倍首相をむやみにかばい、ほめたたえ、「八紘一宇」は安倍首相の歴史に対する挑戦を三原氏なりに支援するつもりで、あえて国会を舞台に吐き出したセリフなのだろう。

しかし、三原氏の思いが強いほど、国会乗り切りに血道を上げる安倍首相と側近たちには危ない存在に映る。そして、入閣の夢ははかなく散ったのだ。

政治の冷酷な現実を受け止め、三原氏は過去の亡霊のごとき、来し方の発言ひとつひとつを振り返り、深く静かに噛みしめてみてはどうか。

image by: 三原じゅん子 - Home | Facebook

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