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進まぬ復旧。停電被害に苦しむ千葉に大混乱を招いた政治家の実名

台風15号による甚大な被害を受けた関東地方。千葉県では停電復旧が思うように進まず、多くの方が不自由な生活を強いられています。何がここまでの大きな被害を招き、そして何が復旧を阻害しているのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で、新聞各紙の報道内容を詳細に分析・検証しています。

千葉県の台風停電被害を新聞各紙はどう伝えたか

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「がん患者 支える自治体」
《読売》…「北公船 水産庁船を威嚇」
《毎日》…「ヤフー、ネット通販強化」
《東京》…「南房総 断水、電話不通…疲れた」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「停電復旧 見通し暗転」
《読売》…「長期停電 見通し甘く」
《毎日》…「英語民間試験できる?」
《東京》…「日韓仲裁 機能不全も」

プロフィール

まだ停電・断水が続いている地域も多いので申し訳ない気がしますが、各紙、前面復旧が遅れていることについて色々なことを書いていますので、1つずつ拾っていくことにしましょう。

■全面復旧見通しの後ろ倒し■《朝日》
■台風の勢力強大化に備えて■《読売》
■情報発信の中身■《毎日》
■知恵を絞れ■《東京》

全面復旧見通しの後ろ倒し

朝日】は、2面の解説記事「時時刻刻」で、台風被害からの全面復旧が遅れている問題の分析を行っている。見出しは「停電復旧 見通し暗転」「東電の甘い目算に苦言次々」「千葉なお26万戸」「想定外の強風 電柱損傷」「倒木除去に協定 ドローンで被害把握」。

リードに示された問題点は、「全面復旧についての東電の見通しが後ろ倒しになっている」ことと「老朽設備が被害を拡大させた可能性」の2点。

東電は当初10日の段階で、11日中の全面復旧の見通しを示していたが先延ばしを発表、その理由として「設備の損害状況が把握できなかった」とした。少なくとも結果として、当初に楽観的な見通しが示されたわけで、自治体は「全ての関係者が準備できるような情報発信、意識を持ってほしい」(熊谷俊人千葉市長)と言っている。

「老朽設備」が被害を拡大した可能性について。この問題は東電福島第一原発事故と関係がある。「賠償費用などを捻出する必要がある東電は、送配電事業の合理化で利益を確保していて、送配電設備への投資額は1991年は約9,000億円だったが、昨年は約3,000億円まで減った」という。東電は「新規を除いた維持費用は1,500億円程度で減っていない」と言っているらしいが、《朝日》は「電線の地中化が先行する東京都内は今回の台風でも停電が圧倒的に少なかった」という。

老朽施設云々については《朝日》と東電の主張がかみ合っていない。「送配電事業の合理化」の全体像がどんなものなのか(6,000億円の合理化で何をカットしたのか)、維持費用は本当に減っていないのか、さらに「電線の地中化」は千葉県内での計画に原発賠償が原因となって遅れが出ていると言えるのかなど取材と分析が必要で、それがなければ、何を批判しどんな教訓と課題が引き出せるのか、これではハッキリしない。

台風の勢力強大化に備えて

読売】は3面の解説記事「スキャナー」でやはり復旧見通しの甘さについて分析記事を置いている。見出しには「長期停電 見通し甘く」「復旧作業量 東電の想定外」「配電網 広範囲で損傷」「電力9社応援派遣2,500人」とある。

リードは、配電線が各地で損傷したことなどから想定外の長期停電となったこと。通信各社や医療機関では、非常用電源の電池切れや故障なども頻発。「地球温暖化により台風の勢力が強まることが予想される中、想定を超える災害にどう対応するか。新たな課題が浮かび上がっている」とする。

具体的に《読売》が「新たな課題」としているのは、鉄塔の設計基準。経産省の「電気設備技術基準」に基づき、電力各社の鉄塔は10分間の平均風速が秒速40メートルの風に耐えられるよう設計されているが、今回2基の鉄塔が倒れた千葉県・君津市では最大で12.8メートル、県内最大だった千葉市中央区でも35.9メートルと設計基準を下回っていた。実際の風は観測地点よりも強かったかもしれず、また沖縄電力だけは台風に備えて自社独自の設計基準を秒速60メートルとしていることをみれば、全国的に基準を沖縄並みに厳しくする必要があると《読売》は言いたいようだ。

情報発信の中身

毎日】は29面社会面に、避難生活を送る千葉県民の取材記事とともに、東電の判断の甘さを指摘する記事を掲載。見出しには「東電判断甘く混乱」とある。

今回、東電が情報発信を急いだのは、経産省から早期の情報発信を求められたからだったという。世耕経産大臣(当時)は、停電直後から「ツイッターなどで積極的に情報発信を続けるように」との指示を出していて、東電はそれにしたがった形だという。

経産省が見通し公表を急がせた背景には、昨年の大規模停電(9月、関西で台風21号の影響によって延べ220万戸が停電した)の教訓があり、このとき、「関西電力は当初地域ごとの復旧見通しを示さず」、世耕氏によれば「非常に消費者のフラストレーションにつながった」と見ていたらしい。

これは妙な話。世耕氏はおそらく「見通しが判然とせず曖昧であってもとにかく発信し続けろ」と言った覚えはないと抗弁するだろうし、仮に大臣からそのような指示があったとしても、「分からないうちは出せません」と東電側が拒否すればいい。有用かつ必要な情報は、「正確な情報」のみだから、大臣が何と言おうと、分からないものは分からないはず。メドも立たない間、分からないうちは、ただ「分からないという情報を出し続ける必要があったことになる。

通常の故障や事故で停電になっているのではない、尋常ならざる事態が生じているという状況認識がなぜ早期に得られなかったのか、この点こそ、十分な検証が必要だろう。

知恵を絞れ

東京】は5面掲載の社説で、激甚化する自然災害への備えを説いている。タイトルは「長引く停電」「まさかの備え より強く」。

停電が広範囲に及んでいることについて、「強風で送電鉄塔2基が根元から折れ、電柱も多数損傷していることなどが原因だ。倒木を除去するなど復旧以前の作業にも想定より時間がかかっている」とする。

東電の見通しの甘さを批判しつつ、「温暖化で脅威を増す自然災害に負けない街をつくるため多面的な検証が求められる」として、最初に指摘するのは「電柱や送電鉄塔などの耐風性の基準の強化。さらに、コストを抑える工夫をして「無電柱化」を進めるよう提案もしている。また、「各電力会社の送配電施設などの仕様共通化」をすれば、災害発生時の救援がしやすくなるだろうと。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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