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文在寅政権の「南北統一思考」の先に見えるバラ色とは真逆の未来

修復の糸口が見えない日韓関係に加え、法相に任命したチョ・グク氏に関係する疑惑など、問題山積みの文在寅政権について、「南北統一思考」の先鋭化が気になると警戒するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、民族統一を果たしたドイツやベトナムとは違う朝鮮半島独自の事情を説明し、どういう形態であれ統一には大きな困難が伴い、その先に待っているのは「地獄」かもしれないと、注意を呼びかけています。

南北統一の先の気になる火種

ギクシャクする日韓関係や自国内の政権基盤を揺るがす問題が多発する中、韓国の文在寅政権の「南北統一思考」が先鋭化している印象があります。

文在寅大統領は、日本統治からの解放を祝う8月15日の「光復節」の式典で、「光復100周年を迎える2045年までには、平和と統一を実現した『ワン・コリア』として世界の中でそびえ立てるよう、(自分の任期中の2022年までに)その基盤をしっかりと整えることを約束する」とぶち上げました。

そして、文在寅大統領の側近でブレーンの立場にある文正仁特別補佐官は9月8日、ロシアの国営タス通信に対して、その「統一へ向けてのロードマップ」にあたる構想を次のように示しました。「韓国と北朝鮮が10~15年の間に欧州連合(EU)のような経済連合を組むことは可能」。

確かに韓国と北朝鮮は、昨年9月の南北首脳会談でも「2032年のオリンピックの共同開催に向けて立候補する」と表明しています。これはすなわち、2032年までに「安全な国家」に生まれ変わった北朝鮮と、連邦とまでは行かないにせよ、共存共栄する方向が生まれている可能性を示唆しています。

この方向は、韓国、北朝鮮との懸案に決着をつけ、良好な関係が実現するのであれば、日本にとっても望ましい道筋ではあります。しかし、文在寅大統領がいう「ワン・コリア」の実現には大きな困難が伴うだろうというのが私の見方です。

東西ドイツの統一は、互いに戦うこともなく、米ソ冷戦の中で分断されたということもあり、両国民から歓迎されましたが、外国人の目ではわからない問題がひそんでいたのです。

統一直前、東西ドイツを歩く機会があったのですが、東ドイツの人々の多くが社会主義体制の中で勤労意欲などの点で「ドイツ人らしさ」を失っており、西ドイツ人から「こいつらはドイツ人じゃなくなったとまで蔑まれているのに驚かされました。

この問題は当然、地域的な経済格差としても影を落とすことになります。東ドイツ人の失業率は高まり、そこに西ドイツに多い外国人労働者の問題がのしかかってきます。仕事を奪われたという被害者意識もあって、移民排斥などを前面に出したネオナチの台頭につながり、深刻な社会問題となっています。

ベトナムにも似たような問題があります。南ベトナム政府を倒し、米国を追い出した北ベトナム側が、解放された南ベトナム側を、あたかも米国に代わる支配者のような顔で統治しているのです。 南ベトナム側では、3層の支配階級が一般国民の上に存在しています。1番上は、北ベトナムから来ているベトナム共産党の指導部、2番目がベトナム共産党の南ベトナム出身の幹部、そして3番目が南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)として命がけで戦った南ベトナム人です。それぞれの勢力の力関係によって統治の構造も決まるということですね。 そこで南北朝鮮ですが、北朝鮮が韓国を支配するとか、韓国が北朝鮮を飲み込むという一般論では済まない問題を抱えています。 それは朝鮮戦争で同じ民族が殺し合ったという記憶が生きているからです。南北統一を喜ぶ人々がいる一方、このさい親兄弟の仇をとってやろうという人々もあまた存在しています。韓国側には拉致被害者の家族が何万人もいます。いざ統一となっても、いつ殺し合いが始まるかわかったものではありません。くすぶり続ける火種です。下手をすると、再び南北分断の悲劇が待っているかもしれないのです。 ドイツやベトナムと比べ、朝鮮半島の統一の先に見えるのはバラ色の景色ではなく、もしかしたら「地獄」かもしれないことも、隣国日本としては視野に収めておく必要があると思います。(小川和久)

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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