MAG2 NEWS MENU

元国税が暴露。日本企業の内部留保が増えると社員の給料が減る訳

これまでもたびたび日本の税制の不備や景気浮揚策等を訴え続けてきた、元国税調査官で作家の大村大次郎さん。大村さんは今回も自身のメルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』で、日本企業の「内部留保金」にフォーカスし、カネを貯め込む企業が、いかにこの国の景気と庶民の生活を苦しめているかを暴露しています。

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年9月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール大村大次郎おおむらおおじろう
大阪府出身。10年間の国税局勤務の後、経理事務所などを経て経営コンサルタント、フリーライターに。主な著書に「あらゆる領収書は経費で落とせる」(中央公論新社)「悪の会計学」(双葉社)がある。

なぜ企業の内部留保金が増えると不景気になるのか?

今回は、内部留保金のお話です。昨今、日本企業の内部留保金が多すぎるというような話がよくあります。内部留保金というのは、ざっくり言えば、企業の利益から税金と配当を差し引いた残額のことです。現在、日本の企業は460兆円以上の内部留保金を持っています。実に、日本の1年分のGDPに近い金額です。

この日本企業の内部留保金について、「日本企業はお金をたくさんため込んでいるのだから、消費税を上げる前に企業のお金を社会に還元するべき」と主張する人もいます。その一方で「内部留保金は設備投資なども含まれるので必ずしも企業の預貯金ではない。また将来のリスクに備えるものでもあり企業にとっては必要なものだ」と主張する経済評論家などもいます。一体どっちが正しいのでしょうか?

一般論的に言えば、「内部留保金は設備投資なども含まれるので必ずしも企業の預貯金ではない。また将来のリスクに備えるものでもあり、企業にとっては必要なものだ」という主張は決して間違ったものではありません

内部留保金というのは、現金預金として貯め置かれるだけじゃなく、設備投資をしたときの資産も内部留保金に換算されています。だから、内部留保金イコール企業の預貯金ではない、というのは間違いではありません。また将来のリスクに備えるために、企業の預貯金は必要と言うのも、正論といえば正論です。

が、日本企業の場合、その理論通りには行っていないのです。というのも日本企業の内部留保金は、設備投資にはあまり使われず、現金預金などの金融資産として残っているものが多すぎるのです。日本企業が保有している手持ち資金(現金預金など)も200兆円以上あります。つまりは、内部留保金の半分近くは預貯金として企業に留め置かれているのです。

これは、経済規模から見れば断トツの世界一であり、これほど企業がお金を貯め込んでいる国はほかにないのです。アメリカの手元資金は日本の1.5倍ありますが、アメリカの経済規模は日本の4倍です。だから経済規模に換算すると、日本の企業はアメリカ企業の2.5倍の手元資金を持っていることになるのです。つまり世界一の経済大国であるアメリカ企業の2.5倍の預貯金を日本企業は持っているのです。いくら将来のリスクに備えると言っても、アメリカ企業の2.5倍もの預貯金を貯め込んでいるというのは、絶対に多すぎなのです。

「内部留保金が増えた理由」が大きな問題

また日本企業の場合、内部留保金が増えた理由にも大きな問題があります。社員の給料も上がり、世間の景気もよくなっている上で、企業が内部留保金を増やしているならば、別に問題はないでしょう。

しかし、このメルマガで何度の紹介してきたように、この20年間、日本のサラリーマンの給料は下がり続けています。そして、この20年間でサラリーマンの給料が下がっているのは、先進国ではほぼ日本だけなのです。日本経済新聞2019年3月19日の「ニッポンの賃金(上)」によると、1997年を100とした場合、2017年の先進諸国の賃金は以下のようになっています。

アメリカ:176
イギリス:187
フランス:166
ドイツ :155
日本  :91

このように日本の賃金状況は、先進国の中では異常ともいえるような状態なのです。日本企業の内部留保金が積みあがったのは、この賃下げが大きな要因の一つなのです。つまり、本来ならば、サラリーマンが受け取るべきお金を企業が内部にため込んでいるという状態なのです。

企業がこれだけの金を貯めこむということは、自分の首を絞めていることでもあります。企業が社員に給料を支払ったり、設備投資をしたりすれば、それは誰かの収入になるわけですので、社会全体の消費につながります。消費というのは、すなわち企業の売上になるのですから、企業の業績もよくなるのです。

しかし企業の預貯金が200兆円以上もあるということは、社会のお金の流れがそこでせき止められていることになります。日本のGDPの4割にも及ぶお金が、滞留しているのです。特に、日本企業の場合、社員の給料をケチった上での「貯め込み」なので、より深刻な影響がでます。当然、消費も減りますしこれで景気がよくなるはずはないのです。

サラリーマンの給料が減れば、国民の購買力は減り、内需は縮小します。それがデフレにつながっているのです。当たり前といえば当たり前の話です。これに反論できる経済評論家がいたら、ぜひ反論していただきたいものです。

トヨタは国内市場を25%も落としている

企業が内部留保金を増やし過ぎれば、自分の首を絞めるということについては、トヨタなどがいい例です。

現在、トヨタは日本企業で最大の20兆円にも及ぶ内部留保金を持っています。その一方で、トヨタはバブル崩壊以降、従業員の賃金をケチりにケチってきました。特に2000年代は、史上最高収益を連発していたにもかかわらず、ベースアップをほとんどしませんでした。トヨタは、日本のリーディングカンパニーです。トヨタが賃金をケチれば、それは日本中の企業に波及します。バブル崩壊以降の日本企業はトヨタを追随し、業績がよくてもベースアップをほとんどしないというケースが続出しました。

その結果、日本経済はどうなったでしょうか?消費は冷え込み、日本の国内市場は急激に縮小したのです。

平成2年にはトヨタの国内自動車販売は200万台を超えていました。が、現在は150万台前後です。平成の間に実に国内市場が25%も縮小しているわけです。

そしてトヨタは、国内市場が縮小するばかりなので、必然的に海外に販路を求めなければならなくなりました。しかし、海外で商売をするというのは、非常にリスクが大きいものです。トヨタの現在の主な販売先はアメリカです。が、アメリカが日本車の進出を快く思っていないことは、周知のとおりです。アメリカは何かにつけて日本車に厳しくあたります。トヨタも何度も巨額の罰金を科せられました。エアバックのタカタなどは、不自然な事故の責任を押し付けられ、経営破たんしてしまいました。もし、日本経済が今の状況を変えないならば、日本経済全体がタカタのようになるかもしれません。

日本の景気の悪循環

通常の景気循環というのは次のようになっています。

「企業の利益が増える」
     ↓
「企業が従業員の給料をきちんと払う」
     ↓
「国民の消費が増える」
     ↓
「企業の利益が増える」

しかし、日本の場合は、次のようになっているのです。

「企業の利益が増える」
       ↓
「企業は従業員の給料をけちる」
       ↓
「国民の消費が落ち込み国内市場が縮小」
       ↓
「企業は無理して輸出を増やそうとする」
       ↓
「ますます賃金が減りさらに国内市場が縮小」

この日本の陥っている悪循環の原因は単純です。「企業がお金を貯め込みすぎ」「企業が給料をケチりすぎ」なのです。これを改善すれば、この悪循環は解消するわけです。日本の大企業の経営陣の方々、ぜひこの単純な事実に気づいていただきたいものです。今の日本企業は欧米並みに賃金を上げるくらいの体力は十二分に持っているのです。(メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』より一部抜粋)

image by: MAHATHIR MOHD YASIN / Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『大村大次郎の本音で役に立つ税金情報』2019年9月16日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

初月無料購読ですぐ読める! 9月配信済みバックナンバー

※2019年9月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、7月分のメルマガがすべてすぐに届きます。

こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー

初月無料の定期購読手続きを完了後各月バックナンバーをお求めください。

2019年8月分

※1ヶ月分324円(税込)で購入できます。

大村大次郎この著者の記事一覧

元国税調査官で著書60冊以上の大村大次郎が、ギリギリまで節税する方法を伝授する有料メルマガ。自営業、経営者にオススメ。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 大村大次郎の本音で役に立つ税金情報 』

【著者】 大村大次郎 【月額】 初月無料!¥330(税込)/月 【発行周期】 毎月 1日・16日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け