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ネットは大荒れ。いじめ裁判で埼玉県川口市が放ったトンデモ発言

埼玉県川口市の中学校でいじめを受けていた生徒が市を訴えていた裁判で、川口市サイドが「いじめ防止対策推進法に欠陥がある」と主張し話題となっています。実は川口市では、いじめ異常事態が続発しているとするのは、現役探偵でこれまで数多くのいじめ事件を解決に導いてきた阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で、川口市の異常な現状を記しています。

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川口いじめトンデモ対応問題

川口市で高校1年生の男子生徒が、中学時代に受けたいじめと学校の対応を苦に自殺した。

男子生徒は、いじめを伝える手紙を何度も中学校側に出していたが、その対応はしていなかった。

また、生徒側に伝えもせず、いじめの重大事態として調査委員会を設置していたという。これは、いじめ対応のガイドライン文部科学省に違反している。

埼玉県川口市においては、いじめ問題において異常というべき事態が連続して発生している。

2017年5月、女子中学生がいじめを苦に自殺をしている。

前述の男子生徒の自殺は、2019年9月に起きた事件である。

また、中学時代にいじめや体罰によって不登校になったとして、現在も裁判で争われている事件もある。

この裁判は、川口市側のとんでもない対応がいくつも飛び出してきており、報道にあたる記者の間でも、あまりに多くのトンデモ対応が出てくるため、どこを報じていいのか混乱するほどの事態になっているが、2019年9月18日、さらにすごい主張が飛び出してきた。

川口市は「いじめ防止対策推進法に欠陥」と主張

各報道によれば、川口市側は、いじめ防止対策推進法第2条の定義の中で「いじめ行為の対象となった児童等(生徒)が心身に苦痛を感じているもの」というところに、このように主張している。

苦痛を受けたと声高に避難する者が被害者となり、精神力や社会適応能力の高さなどから相手を非難しない者が加害者にされる…(いじめ防止対策推進法は)法律として整合性を欠き、教育現場に与える弊害を看過しがたい欠陥がある。

なんと国会で2013年に成立したいじめ防止対策推進法を間違っていると真っ向から批判し、だから、「法律が間違っている」から「川口市の対応がこれに沿っていなくても問題はない」と裁判で主張したのだ。

前代未聞のトンデモ主張に、川口市は法治国家なのか、法治国家の中にある市なのかということでネットも大荒れの状態になっている。

この「川口いじめ訴訟」では、その他にも、開示すべき記録を開示しなかったり、法廷で卒業証書を渡そうとするなど、事件に慣れている記者の間でも、毎回が驚きの連続になる裁判として注目されていたが、まさか、法を守るのが当然の地域行政が、法を批判し、さらに守らないのは当然だと主張したことは、驚きを呆れをはるかに超えるところに向かっている。

川口市のいじめ防止対策方針

上の写真は、川口市の「いじめ防止等のための基本的な方針」の一部分である。

ここでは、いじめ防止対策推進法にある「いじめの定義」をしっかりと記載している。

つまり、川口市は、いじめの定義を表面上は基本的な方針の中核としつつ、その実、こんなもの法の欠陥だから守らなくていいと今回の裁判で主張したことになる。

冒頭、高校1年生の男子生徒がいじめを苦に自殺をしたという事件の遺書は、そのものズバリであり、「川口市は学校も教育委員会も嘘つき」なのだ。

大人にできること

私は講演会や寄稿文などで、ざっくりと「今大人にできることはなんですか?」をテーマにしてくださいと頼まれることが多くある。直接、反応がわかる講演会では、多くの参加者である大人が、今のいじめの状況をどうにかしたいと考えていることがわかる。

そして、現場畑の私の意見に一部のインテリ層に、こう噛みつかれることがある。

「いじめ防止対策推進法によれば、その事例は適切ではないのではないか?」
「文科省のガイドラインでは、その学校の対応は違反ということになるが」

つまり、「法やガイドラインがある以上、そこを学校や教育委員会が守るは当然というのが大前提にある疑問だ。

知識や暗記が得意なインテリ層の方は、ここを信頼のもとにしているし、これだけの法やガイドラインがあるのに(守っているのが大前提)、こんなに重篤な事件が頻発するのか不思議なのだ。

簡単に言えば、川口市側の反応は多かれ少なかれ、多くの自治体で感じる空気であり、実務上、法やガイドライン違反があることが前提なのだ。

つまり、今大人にできること、特に直接的な保護者ではない大人にできることは、学校や行政がいじめに関する法律や文科省が定めたガイドラインに違反がないかを徹底的にチェックしその違反がある場合は徹底的に是正することなのだ。

さらに言えば、いじめ防止対策推進法には国の責務もある。

国の責務
第5条 国は、第三条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、いじめの防止等のための対策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
いじめ防止対策推進法

第3条基本理念
第3条 いじめの防止等のための対策は、いじめが全ての児童等に関係する問題であることに鑑み、児童等が安心して学習その他の活動に取り組むことができるよう、学校の内外を問わずいじめが行われなくなるようにすることを旨として行われなければならない。

 

2 いじめの防止等のための対策は、全ての児童等がいじめを行わず、及び他の児童等に対して行われるいじめを認識しながらこれを放置することがないようにするため、いじめが児童等の心身に及ぼす影響その他のいじめの問題に関する児童等の理解を深めることを旨として行われなければならない。

 

3 いじめの防止等のための対策は、いじめを受けた児童等の生命及び心身を保護することが特に重要であることを認識しつつ、国、地方公共団体、学校、地域住民、家庭その他の関係者の連携の下、いじめの問題を克服することを目指して行われなければならない。

こうした議論が活発になると、教育界側は必ず、学校教員の働き過ぎ問題を出してくる。

これは問題のすり替えに他ならないが、現実的な問題でもある。

つまり、教員が足りないのだ。足りないのに、いじめの対応をせよ、新たな教育政策を実施せよ、国は言ってくるという現場教員の本音だ。

一方で、教員を増やすにあたっては予算がいるであろう。予算を増やす前に、今無駄なものはないかを見出し、業務を改善するのは当然だろうし、民間企業では当然行なっていることのはずだ。

そうした環境を作り出すために、何をすべきかこそが、大人世代のできることになるのではないかとも思うのだ。予算を決めるのが政治であるのなら、選挙権のある大人は政策に注目すればよい。民主主義では、その一票で社会が変わるのではないか。

ただし、すでに法で決まったものを守らないというのは、ダメなので、そこは大人が子供たちを守るためにも、徹底してチェックし、是正するべきだろう。

川口市は特にだ。川口市がいじめ防止対策推進法を守らず、子供達が自殺をし、居直って、法の欠陥を指摘するようなことはあってはならないはずだ。

編集後記

いじめの定義については、「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査における定義」というのが昭和61年に定められてから存在しています。

当初は、「『いじめ』とは、『1.自分より弱い者に対して一方的に、2.身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、3.相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする」というものでした。その後、この定義では、いじめ自殺などを止めるには足りないという事で、平成6年に定義が変わり、平成18年に再度変わって、いじめ防止対策推進法のいじめの定義につながります。

現在の定義は、「『いじめ』とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」となっています。

この変遷の理由は、いじめを広義に捉えることによって最悪の事態を防ごうというのが大きな理由です。そして、いじめ自殺の教訓によって変わっています。

ところが、平成30年には総務省がいじめ自死事件などを中心に調べ、このいじめの定義を限定解釈し、いじめをいじめではないとした事などが自死などの大きな要因になっていると、文科省や法務省に異例の勧告を出す事態になっています。そこに来て、この令和の時代に、一地域行政が居直って、いじめの定義を裁判で批判するというところまでになってしまっているのです。

ここでわかることは、いじめについては、本来信頼すべき法やガイドラインが機能していないのです。そして、教訓は活かされていないということです。

残念ながら、各校や教育においていじめ対策を語るときは、全てにおいて、本来機能しているはずのものすら疑ってから考えないと適切な対策は講じることも危険なのです。

ここまで来て、法改正においては、法を守らぬ教職員などは処罰すると言う規定で激論があったばかりですが、思うに、守らぬ行政機関の担当者も処罰した方が良いのではないかと思えてしまいます。

映画『翔んで埼玉』は面白かったのに、こちらの「トンデモ埼玉川口市」は面白くもクソもありませんね。

ただ、私はこの「川口いじめ訴訟」の報道を見て、やはりこんなもんかと思ってしまいました。

ちなみに、私はこの被害保護者さんとはあるイベントで結構な時間、お話させてもらっています。

同様に、効果がないことを知りながらもやったという実績を作るために行動する学校や教育委員会や定義なども実は知らない担当者など、何もしない組織も見てきました。

やっぱりこんなもんかこれが私の正直な感想です。私の目標は、私がいじめ問題にか関わらずになるほど、いじめ問題が収束していくことですが、当分続くのだろうな、こんな基本的なところで、と思うしかありません。

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image by: Shutterstock.com

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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
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