これまで大手キャリアの猛反発により見送られ続けてきたSIMロックの即時解除ですが、20日に開かれた総務省の有識者会議で「解除の即義務化」の方針が示されたことにより、ついに実現する日が近づいてきたようです。ここに至るまで10年以上の時間を要し「今さら感」も拭えぬ一連の流れを、識者はどう見ているのでしょうか。ケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんが自身のメルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』で、「現実的な落とし所」等と併せて論じています。
高市総務相「SIMロック解除は早急な検討が必要」――12年続く不毛な議論は早急に終わらせ、通信の未来を描く会議にすべき
9月20日、iPhone11が発売され、NTTドコモが5Gプレサービスをローンチする中、総務省ではモバイル市場の競争環境に関する研究会(第18回)が開催された。テーマはSIMロック解除。冒頭、高市早苗総務相が「SIMロック解除は早急な検討が必要」と挨拶。総務省の有識者会議は10年間、何の進歩もせず、同じSIMロック解除の議論を続けている惨状に頭が痛くなってきた。
このタイミングでSIMロック解除が議論されているのは、当然のことながら、ソフトバンク「半額サポート+」ならびにKDDI「アップグレードプログラムDX」が、他社ユーザーが購入できるにも関わらず、100日間、SIMロックがかかっていることに由来する。
キャリアがSIMロックをかけたがるのは、契約後、不払いで持ち逃げされるリスクを避けたいというのがひとつの理由だ。KDDIは「過去の支払いに問題がない人でも未払いのリスクは存在する」といい、ソフトバンクも「SIMロックのある端末ですら、A社の人気機種では数年前ににかなりの額の盗難被害が出た。許容できるリスクではない」とした。もちろん、これはアップル・iPhoneのことだろう。過去には、キャリアショップが強盗に襲われ、大量のiPhoneが盗まれた事件が何度もあったほどだ。
一方、「SIMロックなど不要だ。我々がその根拠を数字で証明してみせる」と息巻いたのが楽天だ。楽天は「4年以上にわたり、SIMロックフリーで販売してきたが、不払い対策についても与信や債権管理で対応できる。SIMロックでの対策は不要だ」と言い切った。また、盗難も店舗のセキュリティを強化すれば回避できるとした。
ただ、楽天の主張には説得力が欠ける。なぜなら、楽天は新品のiPhoneを扱ったことがない。楽天のラインナップには、そもそも不払いや盗難をしてまでも持ち逃げし、転売したいと思えるスマホは皆無ではないか。iPhoneは、グローバルで流通するほどの商品力が高く、いまだになぜか、発売日には外国の転売目的の人たちが行列するほどの人気だ。
キャリアショップでSIMフリーのiPhoneを在庫しておけば、盗難のリスクはかなり高まるのではないか。そうした不正契約や盗難のリスクを考えると、最低限のSIMロックは必要なのかも知れない。
アメリカ・ベライゾンでは購入後、60日間が経過したら自動的にSIMロックが解除される仕組みが取り入れられている。今回の有識者会議では、「盗難のリクスを回避するというキャリアの都合にも関わらず、SIMロック解除をする際に手数料を請求するのはおかしい」という指摘があった。60日もしくは100日経過後に自動でSIMロック解除、しかも無料というのが現実的な落とし所ではないか。100日から60日に短縮し、自動に外れるのであれば、拘束性も弱まるし、有識者や総務省のメンツも保てる。
いい加減、SIMロックの議論はこのあたりで終止符を打ち、もっと建設的で、明るい未来の通信市場を描く有識者会議にすべきだ。
5G SA時代に登場する「ライトVMNO」と「フルVMNO」――仮想化基盤におけるMVNOとMNOの競争環境のあるべき姿とは
この10年、些末で不毛な議論を延年と繰り返してきた有識者会議であったが、9月20日の会合ではとても勉強になる話が聞けて、本当に良かった。もちろん、有識者サイドから出てきた話ではなく、一般社団法人テレコムサービス協会MVNO委員会からのプレゼンが最高だったのだ。
テーマは「5G時代における二種指定制度に係る課題に関する意見」。5GのSA(スタンドアローン)時代には仮想通信事業者には2つの方向性が考えられるとしたのだ。
3Gや4Gまでは、MVNOはMNOと接続点(POI)でつながっており、そこで接続料が発生していた。5G SA時代にはコアネットワークが仮想化されることでネットワークスライシングが可能となり、MVNOとMNOの関係性や競争環境が変わってくる。そのため、5G時代に想定される新しい仮想通信事業者のあり方が示されたのだ。
ひとつは「ライトVMNO」。MNOの仮想基盤を活用することで、MNOと同等の高いサービス自由度を有し、QoSによる高い付加価値を実現するタイプの仮想通信事業者だ。
もうひとつが「フルVMNO」。MNOから独立した仮想基盤を有し、MNOや他の無線網を活用しつつ、すべてのレイヤでMNOに依存しない独自の付加価値を可能とするタイプの仮想通信事業者のことをいう。
詳細は今後、総務省のサイトで公開される配布資料を参考にしてほしいが、いずれにしても「仮想通信事業者が5G時代の仮想基盤でMNOとどのように競争していくか」という、MVNOのあるべき未来の姿が語られていてとても興味深かった。
ただ、残念だったのが、有識者たちの反応だ。プレゼン終了後、開口一番「わからないことだらけ」と切り捨てられてしまった。普段、意気揚々と上から目線でキャリアを追い詰める有識者もだんまりだったりと、プレゼンの内容がさっぱり理解できていないようだった。
本来であれば、5G SA時代の競争環境をいまから整備しておくというのは、総務省がやるべきことだろう。これこそ通信分野における競争政策ではないか。しかし、MVNOがその未来の姿を提案し、競争ルール作りのお願いをしているにもかかわらず、全く興味すら示そうともしないのには呆れてしまった。
自分たちが理解できるSIMロックや接続料に対しては高圧的に規制を作るのに対し、日本の将来における通信政策を描く議論に関してはまともに参加すらできていない。このままでは、日本のモバイル業界は世界から大きく取り残されてしまうのではないだろうか。そんな危機感を抱いてしまった。
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