NEWSを疑え!

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  • 安全保障・危機管理の能力がつく
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小川さんが日本初の軍事アナリストとして独立なさったきっかけを教えてください。

週刊誌の記者を足かけ9年やっていたのですが、当時、週刊誌の記者というのは基本的にはフリーだったのです。決まった雑誌の編集部の仕事を専属的にやっているけど、休めば収入はゼロの世界。だから、出版社の同い年の編集者よりも年収で2割~3割多く稼げないとしんどい。ということは、常にトップ記事を担当できなければ稼げない、ということになります。

さらに当時の週刊誌は、締め切り前の3日間が勝負だった。その間、ほとんど仮眠もなしの完全徹夜というのが日常だった。そんな状態でトップを走っていられるのは、体力的にも35歳くらいが限界ですから、それまでに独立しようという流れがあったのです。

もうひとつ、担当していたノンフィクション作家の柳田邦男さんから「35歳までに一冊本を書かないと、気力、体力の問題からなかなか書けなくなるよ」と言われていたので、ひとつの目標にしていたということもあります。「どういう方向に独立したらいいのか」と、考えていました。同僚には大宅ノンフィクション賞をとって独立したり、編集プロダクションを作った人間もいます。

私の場合は、専門分野を絞ったほうがいいと思っていました。もともと不器用ですし、文章がうまいわけでもない。しかし、軍事問題に関しては当時の防衛庁の記者クラブにいる新聞記者にレクチャーするくらいの基礎知識が備わっていたのです。

また、取材する立場で言うと、“軍事評論家”という肩書の人は何人もいたのですが、人格識見とも優れた方は限られていた。つまり、大部分は相当ひどかったのです。だから、「これなら俺でもメシを食えるな」という動機不純な部分が頭をもたげてきて(笑)。

最初から“軍事アナリスト”を名乗ったのは、今にすれば正しかったと思います。

実は、先進国のレベルで言うと、世界的にも軍事評論家という立場はないのですよ。というのは、軍事は国家・国民の安全の問題ですよね。国が亡びるか繁栄するか、国民が生きるか死ぬかのテーマを扱うわけですから、評論・批評の対象ではない。どんなに優れたものでも評論・批評は感想ですから。それに対して、軍事はあくまで分析の対象なのです。だから、先進国ではみんな“評論家”ではなくて“アナリスト”。

ところが、日本ではそんなことも知らずに軍事を語ってきている。だから、もうちょっと科学的なものの見方、考え方ができるようにならないと、平和国家なんて言えない、平和を実現できないとの思いをこめて、軍事アナリストでやっています。

なるほど。では小川さん、最近、中国が空母を作ったり、艦船の活動が活発化したりときな臭いですが、彼らの真の狙いはどこにあるのでしょうか?

小川和久さん

別に中国は世界を制覇できるなんて考えてはいません。ウクライナが投げ出した中古空母を改修しているのも、自国の安全と繁栄を実現しようとする動きの一環なのです。これはどこの国でもやっている。アメリカ政府の報告書などは、警戒する一方で、「中国はどんどん洗練されてきている」と評価さえしているほどです。

一方の日本人は、中国海軍の艦隊が幅350キロもある宮古水道の真ん中を通っただけで、ぶったまげている。中国は、日本に対して敵意はありませんよ、という態度を見せながら通っているのに、何を驚くのですか、と思ってしまいます。ちょっと前にも尖閣諸島の近くに中国の漁業監視船が来て、領海侵犯しましたが、あれは日本でいうと水産庁の船ですからね。それを「中国の軍艦が来た!」というようなトーンでニュースが流れている。

たしかに中国は空母を作ったり、ステルス戦闘機を開発したりしていますが、それでもアメリカに比べると20年以上は遅れています。これは中国の軍部も認めている話です。

日本は軍事を見るツボを知らないから、「中国が空母を持とうとしている!」と騒ぐわけですが、目的通りに空母を動かすにはどういう体制を組まなければならないか、どれだけお金がかかるか、軍事常識があれば本当のところがわかるはずです。

空母機動部隊(打撃群)を有事即応の状態におこうとすれば、それを3つは持っていなければならない。機動部隊というのは、空母をイージス艦など5~9隻ぐらいで守って行動する単位です。1つは定期点検に入るし、1つは教育訓練に使わなければならないからです。そんな空母機動部隊で南シナ海を席巻しようとすれば、機動部隊を4つぐらいは同時に有事即応の状態に置かなければ、アメリカに対抗できない。そのためには、教育訓練に使う分をやり繰りするにしても、空母を8隻は持たないといけない。そのために、どれだけお金がかかるか。

それから、どんなに中国が近代的な兵器をそろえようとも、データ中継のためのネットワークの整備が遅れています。たとえばデータ中継用の人工衛星ですが、アメリカは30個以上持っていますが、中国は2つしかない。それではせっかくの兵器も動かない。そういうところをきちんと見ないとダメです。日本人はそうした知識が足りません。

では日本としては、中国の動きにどのような対策を取ればいいのでしょうか。

日中は国境を接した隣国ですからね。お互いに引越できない関係ですから、相手を安全な状態にして、経済の面でおいしく食べる工夫をするというのが、まともな国なら考える基本的なあり方です。それができなかったら、日本は三流の国、子どもじみた国、ということになります。

アメリカなどは、その辺がはっきりしています。中国を経済的には成功させておいしく食べようという。その中で、軍事的には安全な状態にしていこうという戦略を、1990年代に入るころからずっとやっています。時々、中国の軍事的脅威を煽って、日本人をあわてさせたりしますけどね(笑)。

このように、軍事問題だけでなく、物事の見方にはツボがあるわけです、世界のどこに行っても通用するツボがね。このツボさえ押さえておけば、ビジネスマンとしても成功できます。日本のビジネスマンって、外国に出ていって安全保障がからむ話になったら、からっきしダメなのです。それは受験勉強の勝ち組を揃えたキャリア官僚も同じです。ツボを知らないから、外国人と渡り合えない。メルマガ『NEWSを疑え!』では、このツボを伝えていきたいと思っています。

ズバリ聞きます。中国や北朝鮮が攻め込んできたとして、現在の自衛隊の兵力で日本を守ることはできますか?やはりアメリカ軍の力を借りないと無理ですか?

中国も北朝鮮も日本に攻め込む能力はゼロです。本物の軍事専門家なら、そんなことは常識以前の問題です。もちろん、油断したり、侮ったりしてはいけませんが。

意外に日本国民が知らないのは、日本の防衛力の構造についてです。日本の安全は自衛隊だけで守る構造ではありません。自衛隊があって、アメリカとの同盟関係があって、その2つの柱で成り立っているのです。自衛隊はまんべんなく軍事力を備えた自立した構造の軍事力ではない。対潜水艦能力は世界で2番目、防空能力は世界で3番目か4番目で、そこでほとんど防衛予算を食われてしまう。それ以外のところは、アメリカとの同盟関係で守るという構造です。

アメリカは日本に84ケ所の基地を置いていて、さらに自衛隊の基地の中で米軍が使っていいとなっている日米共同使用施設を含めた合計134ケ所が米軍基地といっても構わない。日本列島から地球の半分の範囲に軍事力を展開する形です。だからアメリカにとって日本列島は、たったひとつしかない戦略的根拠地なのです。ということは、日本列島に手を出したらアメリカの逆鱗に触れる。場合によっては核兵器で反撃される。それを中国も北朝鮮もわかっているから、まず手を出しません。それが日本にとっての抑止力になっているのです。

しかも日本は、在日米軍経費を年間7100億円も出しています。このうち1800億円ほどがいわゆる「思いやり予算」です。さっき話した日本の防衛力の構造も、税金の使い道のちゃんとした読み方を日本の学校が教えていれば、わかるはずなのです。秘密でもなんでもないのですから。ところが日本の場合、東大に行ってもそんなことは教わらないから、防衛官僚だって知らないわけですよ。

ではテロについてお聞きします。日本が国際的なテロの標的になる可能性はどれくらいあるのでしょうか?

テロの可能性は常にある、警戒しないとダメですね。たとえばアルカイダなどイスラム原理主義過激派のテロリストたちは、とにかくどれだけ目立つかを目指してテロをやる。それによって世界中からシンパとお金を集めて、14世紀のようなイスラム社会を実現しようと途方もない考えを持っている。だから、普通では考えられないような大殺戮でもやってのける。ひとつの事件で何百人が死ぬと、大方の人は「ひどい」と眉をひそめ、それを肯定することはありません。しかし、ひどいテロであるほどに「よくやった」と賞賛する人間が、実は世界中に何百万人もいるわけです。そこからテロ要員も金も手に入れることができるという寸法です。

その意味では、テロリストにとって日本はターゲットとして費用対効果がいい国といえます。世界トップレベルの経済国家ですが、テロ対策のレベルは高くない。ここで事件を起こせば、世界に対する宣伝効果は絶大です。だから私が、福島第一原発の事故が起きた時に「すぐに水素爆発で吹き飛んだ建屋に蓋をしろ」と言ったのは、テロ対策の点からだったのです。

原発の構造が、人工衛星の画像や航空写真ですべて出てしまったのですよ。構造図も公表された。テロリストにしたら、危険を冒して情報を収集する必要などないわけです。そんな状態で入り込まれて、格納容器などにプラスチック爆弾でもセットされ、吹き飛ばされたら、地球規模の放射能汚染です。普通なら壊れない格納容器でも、地震で損傷している可能性がありますからね。世界中の支持者から賞賛されたいテロリストが出てきても不思議ではありませんでした。テロリストは被曝を恐れませんから、平気で入ってきますよ。

それだけの情報を常に持たれていると、ストレスも多いと思うのですが、解消法などあったら教えてください。

車を運転していると気分転換になりますね。僕、お酒が飲めないし、ゴルフなどの趣味もない。それでも、若いころから車を運転するのは好きでした。別にすごい車に乗りたいなんて気持ちは一切ないのですが、疲れない車で走っていると楽しいのです。

だから、都心はいつも自分の車で移動しています。たまにタクシーに乗ると、「なんだ、この運転手さん、道を知らないな」なんて思ったりして(笑)。

そんな小川さんが出されるメルマガ、どんなものしたいとお考えですか?

物事を見るツボについて、現実に起きている出来事を通じてしっかり伝えていきたいですね。コラムの部分は、いまでも日本の官僚や外国の軍人が読んでくれていますが、より深く専門性の高いものにしていきたいと思っています。

どんな人に読んでほしいですか?

冒頭のストラテジック・アイ(Q&A)は、家庭の主婦をはじめとする女性に読んでもらいたいですね。僕は、女性にわかるような説明ができなければプロじゃないと思っていますので。読んでくれた女性たちが軍事に関心を持ち、知識を備え、理解できるようになれば、平和を実現していく日本の能力が上がるのは間違いありません。

実を言えば、女性は恋人や旦那さんよりも情報量を備えている。講演の主催者さんなんかは、「女が軍事?」なんて言うのですが、旦那さんよりも知識があるのです。というのも、旦那さんは会社の仕事に忙殺されて新聞もろくに読んでいないけれど、奥さんは家事やりながら耳からニュース聞いていたりするからなのです。

あと、ビジネスマンには読んでもらいたい。一流のビジネスマンになり、ビジネスで世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は絶対に知らなければなりません。

小川和久さん

最後に読者の方にメッセージをお願いします。

とにかく1年間、読んでみてください(最敬礼)。

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小川和久さんプロフィール

1945年熊本県生まれ。陸上自衛隊生徒教育隊・航空学校修了。同志社大学神学部中退。地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。外交・安全保障・危機管理(防災、テロ対策、重要インフラ防護など)の分野で政府の政策立案に関わり、国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、日本紛争予防センター理事、総務省消防庁消防審議会委員、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。小渕内閣では野中官房長官とドクター・ヘリを実現させた。著書多数。

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