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見事なすり替え。大手紙「少子化の原因は終身雇用」の違和感

これまでも、「ここにも『非正規』の影。性交渉経験なし25%報道が炙り出すもの」等で、「少子化と騒ぎ立ててはいるものの、全くといっていいほど実効性のある政策は取られていない」とたびたび日本社会に対して苦言を呈してきた、健康社会学者の河合薫さん。今回も河合さんは自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、10月7日に新聞が報じた少子化関連の記事内容に異を唱えるとともに、「子供を生みたい社会」を作ることに成功した沖縄県の試みを紹介しています。

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年10月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

少子化の原因は終身雇用だって?

出生数90万人割れへ―推計より2年早く――。

これは7日月曜日、日経新聞の一面にデカデカと記された衝撃的な見出しです。といっても「90万人の深刻さがピンとこない方も多いと思いますので、ワンポイント知識から。

統計のある1899年以降、出生数が最も多かったのが1947~49年の「第一次ベビーブーム260万人台が3年間続き元経済企画庁長官の故・堺屋太一氏が「団塊の世代」と名付けました。

その後、第二次ベビーブームの「団塊ジュニア世代」(71~74年生まれ)を最後に出生数は徐々に減少傾向に転じたものの、2015年までは100万人台を維持してきました。ところが2016年に100万人を下回ってからわずか3年で90万人を割る可能性が高くなってしまったのです。

もっとも街を歩けば高齢者だらけ、会社を見渡せばおじさんだらけ、なので子供が減っているリアルは数字を見なくても肌で感じられます。

以前、海外のジャーナリストから「日本は本気で少子化対策をやっているとは思えない」と指摘されましたが、少子化タスクフォースしかり、女性手帳しかり、婚活イベントしかり、トイレ大臣しかり…。

どれもこれも「あの~、それで子供産みたいって人マジで増えると思ってるんですか?」と突っ込みどころ満載のキャンペーン”が繰り返されてきました。

おまけに記事では、「正社員の終身雇用が多い日本の労働慣行では出産や育児で休職するとキャリアが積み上がらず仕事上不利になりやすい」と、まるで終身雇用に問題があるかのように結論づけていて違和感アリアリです。

「夫により子育ての参加拡大を認める企業文化の定着を含め」という見解には大賛成ですが(記事内に書かれていた)、そもそも「さっさと女性は結婚し、子供を産み、仕事もしなさい!」と、「女性=単なる経済成長の道具としたのが問題なのです。

だいたい「夫婦2人と子供2人という家族を標準モデルとしていること自体ナンセンスです。10年近く前から1世帯当たりの人数は2.46人。およそ半分の世帯は一人暮らしか夫婦のみ。しかも来年には「日本人の女性の過半数が50歳以上」です。

私を含めた半数以上の女性が50歳以上の「出産不可能女性(←国の見解)になる」ということは……。な、なんと一人で5人も6人も産まないと政府が目標にする希望出生率1.8には届きません!

一方、母子世帯数は約123万2,000世帯(推計)で、30年前と比べると1.5倍。最近は選択的シングルマザーも増加中です。シングルマザーの貧困率の高さはこれまでも指摘してきましたが、日本では未婚の母子家庭は死別・離別のひとり親に適用される寡婦控除を受けられないなど税控除や行政の助成の対象から外されてしまうのも大きな問題です。

2017年に先進国の中でもっとも高い合計特殊出生率1.88を記録したフランスでは選択的シングルマザーが社会に受け入れられていて、出生数の6割が結婚していない親からの出生だとされています。

例えば、パリ市では教育と保育福祉には徹底的にお金を使い、全ての子どもたちが同じように質の高い保育と教育を受けられる工夫が施されている。「どんな家族のカタチであれ、子の権利は同じ」という政治的理念のもと、「子供を産みたい社会」を作っているのです。

つまり、やれ90万人割れだ!それ少子化が急ピッチで進んでいる!と大騒ぎする前に、「今生まれている子供を大切にする仕組みは万全なのか?をもっともっと深掘りすべき。それが結果的に「子供を産みたい!と理屈なしで思える社会を作ることになるのではないでしょうか。

実際、日本で出生率トップを誇る沖縄では、まさにそういう取り組みをすることで「子供を産みたい社会」を作ってきました。

沖縄は子供の学力が全国レベルより劣っている状況を打破するために1998年から「学力向上主要施策」を策定し、2009年からは学力上位県である秋田に毎年2人ずつ教員を派遣するなど、オトナたちがあれやこれやと汗をかいてがんばってきました。

2013年には「学力向上推進室」を作り指導主事を10人体制に強化。そのうち5人が沖縄県内の公立小学校約120校を1校1校訪ねて歩き、日常の授業を見て回りました。

とにもかくにも“日常”にこだわり、授業見学の後には先生を交え1時間みっちり反省会とフィードバックを行い、意見交換と現場に生きるアドバイスを徹底。2008年度からは「おさらい教室を開校し子どもの貧困問題への取り組みもスタートしました。

「おさらい教室」では退職した先生たちが、放課後を利用して小学校低学年の児童を対象に復習のお手伝いをするなど学力向上に努めることで、仕事に追われるシングルマザーたちをサポート

つまり、今いる「子供たち」と正面から向き合い、オトナと子ども、子どもと子ども、オトナとオトナがつながることで、子どもたちの学力を向上させるだけでなく、「子供を産んでもいいんだ大丈夫なんだと思える女性を増やしてきたのです。

少子化問題は根が深いので今回はこのような展開になりましたが、要は「魔法の杖はないのです。ひとつひとつ丁寧にきちんと向き合うことが結果的に少子化対策につながるということを伝えたくて書きました。

みなさんのご意見、お聞かせください。

※表記に間違いがあり、本文の一部を訂正しました。(2019年10月25日)

image by: Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2019年10月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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