日進月歩の技術革新。昨日まで生活の核を担っていた商品が、ある新商品出現を境に一気に無用の長物と化すことも不思議ではありません。今回の無料メルマガ『致知出版社の「人間力メルマガ」』では、今や生活に欠かせないリチウムイオン電池の開発に携わり、2019年のノーベル化学賞に輝いた吉野彰氏の、「発明の難しさ」を垣間見ることができる言葉を紹介しています。
ノーベル賞受賞者の先読み力
ノーベル化学賞に決定した旭化成の吉野彰名誉フェロー。商品化が困難とされていたリチウムイオン(充電式)電池の研究開発をいかにして成功へと導いていったのか。月刊『致知』2019年3月号に登場された時のインタビューに、研究にかける信条が語られています。
――これまでの経緯を踏まえて、優れた研究をするために大切なことは何だとお考えですか?
基本的には極めて単純な話です。自分が持っている知識、あるいは技術といったシーズ(種)と、世の中で必要とされているニーズ、この二つを線で結びつければいいだけのことなんです。
ところが厄介なことにシーズもニーズも日々変化していく。
技術というのは日々進化していくので、昨日まで不可能だったことが翌日には可能になることがある。また、昨日までは世の中で必要とされていたことが、ある別の製品の開発によってわざわざ研究する必要がなくなることだってある。
つまり、動いている物同士をどうやって線で繋ぐかという、非常に難しい問題なんです。
それがどれほど難しいかというと、何か難しいことを表現するのに「針の穴を通す」という言葉がありますよね。実際の研究開発では、ジェットコースターに乗りながら針の穴に糸を通すようなものだと僕は思うんです。
だからこそ、先ほど話したように5年、10年先のことを先読みできるかが大事になってくるんです。
目の前のニーズをいくら追いかけても、時間の経過とともにいずれそこからいなくなる。いま見えているターゲットに弾を撃ったところで、研究開発の世界では絶対に当たりません。
そうではなくて、あっちの方向に向かって撃てば、こういう軌道を描いて当たるだろうと考える。そういう読みが大切ですね。