売り手市場が続く就職戦線にあって、新戦力を確保できた企業にとってはひとまずホッと一息といったこの時期ですが、内定者によるSNSへの不適切な内容の書き込み等、この先問題が起こらないとも限りません。今回の無料メルマガ『採用から退社まで!正しい労務管理で、運命の出会いを引き寄せろ』では著者で現役社労士の飯田弘和さんが、「内定」に関して企業が注意すべき点や課せられている義務についてわかりやすく解説しています。
御社では、内定者に労働条件の明示を行っていますか?
そろそろ、新卒内定者が決まってきたことと思います。内定通知書の交付や、内定式を行った会社も多いのではないでしょうか。
ところで、一般的には、内定とは「始期付解約権留保付労働契約」が結ばれたことになります。学校を卒業できなかった等の内定取消し事由がない限り、4月1日から労働契約に基づいて働くという契約が結ばれたという事になります。
内定取消し事由としては、学校を卒業できなかった他にも、「SNSに不適切な内容の投稿を行った」場合や「健康上の理由により勤務が困難となった」場合、「重要な経歴詐称が発覚した」場合などが挙げられます。ただし、内定通知書や入社誓約書等に、内定取消し事由として記載されている必要があります。
また、内定者といっても、会社によってその実態は様々です。ザックリ分ければ、「採用予定者」と「採用決定者」に分かれます。採用決定者とは、始期付解約権留保付労働契約が結ばれている者をいいます。その判断は、内定通知の内容や形式、内定期間中の内定者の取り扱い、辞令の交付、誓約書の提出やその会社の慣行等によって、その内定が始期付解約権留保付労働契約とみるか、それともまだ労働契約の結ばれていない採用予定者とみるか分かれます。
始期付解約権留保付労働契約が結ばれたという事であれば、内定取消しは「労働契約の解除」すなわち「解雇」という事になります。解雇であれば、労基法20条により、解雇の30日前までに予告する必要があります。
また、たとえ30日前までに内定取消しを伝えたとしても、他の会社に就職する機会を失ったことへの損害賠償請求をされる可能性があります。安易な内定取消しはすべきではありません。
ところで、内定によって始期付解約権留保付労働契約が成立している場合には、内定者に対し労働条件の明示が必要となります。これは、労基法15条で「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して、賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない」と定められているからです。明示方法としては、原則は書面の交付ですが、労働者が希望した場合には、FAXや電子メール、SNS等でも明示できます。
内定者に労働条件の明示を行う場合、まだ具体的な就業場所や従事すべき業務が決まっていない場合もあるでしょう。そのような時には、就業場所や業務について想定される内容を包括的に示しても構いません。始期付解約権留保付労働契約が結ばれているにもかかわらず、労働条件の明示を行わない場合、労基法15条違反となりますのでご注意ください。
最後に…人手不足が深刻な中、できるだけ早く内定者を囲いたいと考えるかもしれませんが、内定の安易な取消しはとてもリスクの高い行為です。実際に雇入れた後では、更に問題が複雑になります。内定を行う場合には、その者がこの先ずっと御社で働き続ける、御社の一員となることについて、本当に彼でいいのか、彼で大丈夫か、慎重に判断すべきでしょう。
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