国際交渉人が憂慮するトランプ外交「オウンゴール連発」後の未来

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アメリカ大統領選まで1年を切り、トランプ大統領の外交における迷走が止まりません。メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者で国際交渉人の島田久仁彦さんが、これまでのトランプ外交を振り返り、中東から北東までアジア全域で影響力の低下を招いた「オウンゴール」と言うべき失策の数々を解説。アメリカがこのまま持てる力を正しく行使しなかった場合の未来を憂えています。

トランプ外交が中東で繰り返す“オウンゴール”

「トランプ大統領は、間違いなくアメリカ史上最高の大統領だ」。こうシリアのアサド大統領は最近語ったそうです。確実に皮肉たっぷりなジョークかと思いきや、この一言は、アサド大統領の立場からすると事実なのだと思います。

以前、就任後初の米中首脳会談の際、サプライズで60発強のトマホークミサイルをシリアに撃ち込んだトランプ大統領ですが、その後の対シリア外交には一貫性が見られません

例えば、シリア難民の受け入れには全く関心がないばかりか、欧州への難民流入が招いたパニックを例に、メキシコや中東地域からの移民に多くの制約を課したことで国内外から大きな非難にさらされ、自由の国アメリカの威信は失墜しました。

その後、アサド政権による化学兵器使用の疑いが出た際も、実際の状況や真犯人の追及をすることなく、あまりにも簡単にアサド大統領とその政権を非難しましたが、特に何も行動は起こしていません。

そして打倒アサド政権を掲げて限定的な軍事支援をし、クルド人勢力を盾に使ったかと思ったら、先月初めには、トルコ・エルドアン大統領との電話会談の直後、シリア北東部のクルド人支配地区からのアメリカ軍の撤退を表明し、結果、トルコ軍の侵攻を招き、クルド人はまた世界から見捨てられました。

その結果、トルコとシリアの間に“表面的な”緊張が生まれましたが、この衝突も、ロシアのプーチン大統領がプロデュースしたことが分かりました。言い換えると、アメリカはシリアやトルコという中東における足掛かりを自ら捨て、築いてきた権益をそのままロシアに明け渡すことになりました。

結果、中東におけるロシアのプレゼンスは一気に高まり、アメリカの同盟国として密接に協力し、地域の安定に寄与してきたサウジアラビアでさえ、ロシアに奪われ、結果、地域の勢力図を一気に書き換える可能性を高めてしまっています。

そして、これは、『中東におけるアメリカ』といっても過言ではないイスラエルの安定を脅かしています。大統領就任後、娘婿のクシュナー氏を上級顧問に据え、大使館をテルアビブからエルサレムに移転したり、明らかなイスラエルへの肩入れを行ったりして、国際社会の顰蹙を買ってきたにもかかわらず、その肩入れし、かばい続けてきたイスラエルの存在を脅かしかねない事態を招いています。

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