軍事アナリストが憂慮。ミスリードを招くメディアのF35関連記事

無題のデザイン (48)
 

朝日新聞が1面から2面にかけて報じたF35に関する独自取材の記事に関し、専門家として言いたい個所がいくつもあると声をあげるのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、F35の追加調達があたかもトランプ大統領の圧力によるものであるかのような記述は、取材不足による「誤報」とも言えると指摘。その取材姿勢では、国家権力や企業に都合良く使われやすく、歴史をねじ曲げると憂慮してします。

なんでもトランプのせいにするな!

自分の専門分野というだけでなく、朝日新聞の1面左の準トップ扱いで、2面にまで続いている「力作」なので、ついつい読んでしまいましたが、あら探しになってしまったようです(笑)。

1面の見出しは「F35、生産進む米工場 日本、147機導入予定」、2面の見出しは「F35、量産の陰で 巨額コスト・部品・安全性に懸念」というものです。

テキサス州フォートワースのロッキード・マーチン社の工場を取材した記事は、朝日新聞のエース記者の一人Sさんによるもので、軍事問題に関心のある一般読者の立場で読めば、面白いし、ためになる記事かもしれません。しかし、軍事専門家の一員としては「ちょっと待ってくれ」と言いたい個所がいくつもあるのです。

より専門的なことは、おなじみ西恭之さん(静岡県立大学特任助教)が取り上げますので、私は総論的なところでひとこと言っておきたいと思います。

この朝日の記事は、日本的な受験秀才に顕著な「要領のよいとりまとめ」の臭いがぷんぷんしています。集めた材料を素早く、スマートにまとめて読者の前に出しているのは悪くないのですが、一歩踏み込んだ取材はもとより、事前の勉強も不足で、その結果、ステレオタイプで時代後れの記事になっているのです。例えば次の部分。

「日本政府は当初、F35を42機導入する方針だった。だが、105機の追加調達を18年12月に閣議了解し、147機体制となった。   『爆買い』の背景には、「バイ・アメリカン(米国製品を買おう)」を迫るトランプ米大統領のトップセールスがあるとみられる。閣議了解の約20日前の日米首脳会談では、トランプ氏が安倍首相に『日本は我々の戦闘機を大量購入しつつあり、とても感謝している』と述べ、対日貿易赤字の解消に期待感を示した」(11月22日付 朝日新聞)

これは明らかに取材不足だし、一種の「誤報」でもあります。日本政府は2011年末にF35を選定した段階で、既に140機以上のF35の導入を決めていたと言ってよいのです。

これは、最も経済効果の出る「1年10機」を14年間で導入しようとの計算に基づくもので、約100機の非改修型F15の後継機としても機数がぴったり合うことから決まったわけです。いきなり140機以上の導入をぶち上げるわけには行かなかったので、中期防衛力整備計画に計画の変更がありうることを書き、それを目標に進めてきたのです。

このように、トランプ大統領が登場する前に決まっていた話ですから、トランプの圧力による「爆買い」と書いては、読者をミスリードすることになります。さらに、F35の背後にある米国のNCW(ネットワーク中心の戦い)の位置づけにも触れていません。

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