【書評】高齢化社会の日本よ、そろそろ安楽死について話そうか

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「後期高齢者となったら、常に死を想定して生きることが大切」…。そんな、少々「ショッキング」でもある提言が記された書籍が話題となっています。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、88歳の宗教学者・山折哲雄氏が「死の規制緩和=安楽死解禁」を主張する一冊。その「理論」は人々を納得させるに足るものなのでしょうか。

偏屈BOOK案内:山折哲雄『ひとりの覚悟 人生の幕引きは自分で決める』

61tzTOBioVLひとりの覚悟 人生の幕引きは自分で決める
山折哲雄 著/ポプラ社

白枠とオレンジの背景に、腕組みしてどこかを見ている山折先生。スミと白抜きの文字の配置が落ち着かない。つまり、テーマと合わない表紙デザイン、覚悟が足りぬ。表1も表4も文字だらけ。「緊急提言 今こそ死の規制緩和を!」とは、

  1. 90歳以上の安楽死の解禁
  2. 死の定義を変える
  3. 参議院を廃止し老議院を創設すること

とある。1.と2.は分かるが、3.の老議院ってなに?

著者はこの本で「死の規制緩和=安楽死解禁」を提言する。読んでないうちから賛意。「後期高齢者」といわれる75歳以上になったら、「人生の成熟期」とみて常に死を想定して生きることが大切だと説く。いまこそ、国をあげて「理想の逝き方」を話しあうときではないか。「積極的安楽死」を認める土壌はできている。しかし、「安楽死解禁」の前に立ちはだかる三大抵抗勢力がある。

医学界、宗教界、法曹界(政界も含む)である。医学界が安楽死に反対する理由は、患者や家族の訴えに応じて人工呼吸器を外したり投薬を中止したら、ヘタすると自殺幇助や殺人の罪に問われかねないからだ。しかし、医療の本質とは「人間の苦しみを取り除く」ことにある。医師が安楽死や尊厳死を否定するのは自己否定でしかない。とはいうものの、医師を責めても解決はしない。

宗教界は、介護や看取りの問題に手を出すと莫大な費用と人力がかかるので、葬儀と墓の管理に特化しておいたほうが安全だと横を向く。政界でも絶対に国会を通らないと議員は尻込みしている。「死の定義」は政治が決めてきたのになあ。著者は、安楽死は医師や法律家、政治家が決めるべきではない、あくまで現在を逝き、そして死ぬ、我々自身が考え、決めるべきだというが……。

90歳を過ぎた人間が、自らの死を選ぶことは当然の権利であり、義務でさえある。そうだね、わたしは80歳でもいいと思うが。老議院ってのがよく分からんが、90歳を過ぎた世代の政治的代表者たちの集まりだという。ほとんど意味がない愚策である。安楽死の解禁はOKだが、90歳という年齢制限はおかしい。問題は安楽死に見せかけた殺人ではないかと思うが、そういう視点はない。

なんだかしゃきっとしない語り口だが「自らの死を選ぶことは当然の権利であり、義務である」ということらしい。「緊急提言 今こそ死の規制緩和を!」と力むほど完璧な理論を展開しているわけではない。自分を納得させる理屈を捏ねているだけのような気がする。山折先生もお年を召されたと実感する。

「自分の死期を悟った段階で、まず最初に木食行である穀断ちをし、残り1週間か2週間というところから完全断食に入り、最後は水も断つ。これが、いま私が考えている死を迎える作法、死と折り合いをつける方法です」とご自分の最後の演出まで披露されているが、ここまで書いちゃうのか。ご自分のことを書かれたパート以外は、いつもの山折節で快かったのでしたが。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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