かつてに比べ格安で購入できるようになったメガネですが、低価格を強みにする競合他社に対して「ビジョンメガネ」が打ち出した戦略が好評を博しています。一度は民事再生法の適用まで申請した同社は、いかにしてV字回復を成し遂げたのでしょうか。無料メルマガ『MBAが教える企業分析』の著者でMBAホルダーの青山烈士さんが、その戦略・戦術を詳細に分析しています。
長期にわたり寄り添い、顧客の変化に対応する
今号は、顧客密着で人気のメガネ店を分析します。
● ビジョンメガネ(メガネ・コンタクトレンズ・補聴器及び その関連商品を取り扱う小売専門店チェーン)
戦略ショートストーリー
メガネを使うのが初めての方をターゲットに独自の「資格制度」や「文化」に支えられた「自分に合ったメガネがみつかる」「アフターサービスが良い」等の強みで差別化しています。
顧客にとって「最高の見える」を維持するためにメガネのプロがメガネの問題を解決することに加えて、充実した保証サービスにより顧客から支持されてます。
■分析のポイント
メガネ業界は「J!NS(ジンズ)」、「Zoff(ゾフ)」といった便利でお手頃価格のメガネ店が席巻しています。その影響もあり、ビジョンメガネも一時期は民事再生法の適用を申請するなど苦戦していましたが、見事に復活を果たしています。今回は、その要因について考えていきたいと思います。
安さや便利さを強みに戦う「J!NS(ジンズ)」などに対抗するうえでどのような選択肢があるかというと、主に3つの方向性が考えられます。
一つ目が、より安く提供するという価格勝負
二つ目が、最高品質のものを追求する品質勝負
三つめが、顧客に徹底的にカスタマイズする密着度で勝負
このなかで、既存企業が選択してしまいがちなのが価格勝負ですが、うまくいかないことが多いです。なぜなら、安く提供するためにベースとなるコア・コンピタンスがなければ長くは続かないからです。
「J!NS(ジンズ)」の場合、それにあたるのが、SPA事業モデルや徹底した業務効率化ノウハウです。こういった安く提供するためのベースがあるから継続的にお手頃価格での販売が可能なのです。価格を下げることは、短期的には真似をすることができますが長期的にはむずかしいということです。
また、街のメガネ屋さんとしては、最高品質に舵を切るのも難しい選択肢です。大きなブランド転換が必要となりますし、カリスマ的な方が求められるなど、ハードルが高い選択肢と言えます。
そして、密着度で勝負するという選択肢ですが、こちらは、さまざまな工夫の余地があります。なぜなら顧客一人ひとりのニーズに合わせてサービスを提供するのであれば、顧客の数だけサービスの形があることになりますからね。
ビジョンメガネが選択したのは、この密着度で勝負ということになります。この選択が復活する上で非常に重要なポイントであったと思います。顧客に密着するということは、売って終わりにしない(売りきりではない)、長く付き合うことが前提となりますので、もともと地域に根差して店舗展開をしていたビジョンメガネにとってはフィットする選択肢だったと思います。
そのビジョンメガネが業界に先駆けて導入した「ビジョンパーフェクト保証」で最も利用されている保証が「見え方(視力)の変化によるレンズ交換」となっています。見え方保証として、受取日から3年間何度でも保証上限までのレンズと交換できることになっていて、特に体の成長とともに視力が変化する子どもや、老眼、目の手術で視力が低下するシニアの「レンズ交換」として、利用されているようです。
まさに、顧客に長期にわたり寄り添いながら、時間が経つことで変化する顧客のニーズに応えているサービスと言えるでしょう。
このような顧客に密着することは安さを強みにする企業にとっては真似がしにくいです。顧客に密着しようとすればするほど、コスト高の要因になりますからね。ですので、安さと顧客密着の両方を追求することは困難です。
もちろん、顧客密着を強みにする企業が、価格のことを考えなくてよいというわけではありません。顧客に密着しながらも、価格を抑える努力は必要です。実際に、「ビジョンパーフェクト保証」では、3年間、保証サービスを一度も利用しなければ、ビジョンの店舗で使える、保証サービスの加入料金と同額の商品券を進呈することで、顧客の負担を低減するための工夫をしていますね。
上記のように、顧客密着を追求しながら、顧客の負担軽減にも努めている結果として顧客からの支持を得ているのでしょう。
今後もビジョンメガネがどのように顧客に密着していくのか注目していきたいです。