事態急変に備え早急に対応を 米感染中心地の医療現場から―日本人医師会長

2020.04.03
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by 時事通信

柳澤貴裕 マウントサイナイ医科大学教授

柳澤貴裕 マウントサイナイ医科大学教授

 新型コロナウイルス感染者数で世界最大となった米国の感染中心地、ニューヨークで患者の治療に当たっている米国日本人医師会会長の柳澤貴裕マウントサイナイ医科大学教授(52)は1日、時事通信の電話インタビューで、緊迫した医療現場の現状を明らかにし、日本も対応を急ぐべきだと訴えた。一問一答は次の通り。
 ―マウントサイナイ医科大病院の感染者の診療態勢はどうなっているか。
 八つの病院に計3000床あるが、その半数を感染者が占めており、集中治療室(ICU)には250人が入院している。3月27日の新型コロナ患者は1000人だったが、わずか3日ほどで1.5倍に増えた。私の内科チームは12時間交代で勤務。悲しいことに、看護師1人が亡くなってしまった。今後さらに患者が増え続けると思われるので、専用ユニットを増やし、ロビーにも診療スペースを設置している。
 ―医療設備は足りているか。医療崩壊には至っていないのか。


新型コロナウイルスに感染し救急搬送された重症患者の治療に当たるニューヨークのマウントサイナイ医科大病院の医師たち(Mount Sinai Health System提供)

新型コロナウイルスに感染し救急搬送された重症患者の治療に当たるニューヨークのマウントサイナイ医科大病院の医師たち(Mount Sinai Health System提供)

 人工呼吸器は現在70%の稼働状態で、400台を新たに調達した。医療用マスクも現状では足りているが、交換の頻度はできるだけ減らすようにしている。この調子で患者、特に重症者が急増すればパンクして医療崩壊になる恐れがある。蘇生しても治らない人もおり、治療の優先順位を決めるトリアージを行ってリソースの有効活用を図っている。血中酸素濃度が低い重症患者しか入院させていない。ICUのベッドを空けるため、緊急以外、一般の手術は延期している。
 ―収束のめどをどう考えるか。
 今後数週間で感染ピークを迎えると言われている。最近、患者の増え方のペースが少し落ち着いているが、ワクチンの完成にはかなりの時間が必要で、収束のめどは立たない。大学内で面白い治験が始まった。感染完治者には新型コロナに対する免疫の強い抗体があるが、これを重症患者に投与する治験が始まった。うまくいけば画期的だ。
 ―日本も感染者急増が懸念されている。医療従事者として提言を。
 ニューヨークも1カ月前までは普通だった。新型コロナの感染力は強く、事態は急激に変わる。東京など大都市にはそうなる要素がある。今から早く予防策をとらなければならない。まず、自粛を厳しくして拡散を止めるのが大事。さらに重要なのは、感染拡大時の危機管理計画。病床をどうやって増やすのか現実的なプラン、医療施設として稼働可能な場所・人員の確保が必要。引退したり産後退職したりした医療従事者の復職など、早急なシステムづくりが不可欠だ。(ニューヨーク時事)。(2020/04/03-07:03)

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