毎年恒例となっていた故金日成主席の生誕日の参拝をせず、長く公の場に姿を見せなかったことで、「重体・死亡・替え玉」説が流れた北朝鮮の金正恩委員長。5月1日に姿を現し隠遁騒動は沈静化しましたが、北朝鮮指導者に関して繰り返されてきたこの種の騒動をメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』の著者で、北朝鮮研究の第一人者の宮塚利雄さんが振り返ります。そのうえで、今回のデマを招いた「隠遁」こそが、北朝鮮が主張する「感染者ゼロ」が嘘である証拠と見ています。
専門家や評論家諸氏が吹聴した金正恩死亡説
北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「雲隠れ」して20日ぶりに姿を現した。
巷では「金正恩重体」、「金正恩はすでに死亡している」、「今の金正恩は替え玉だ」などと、自称他称の北朝鮮問題専門家、評論家なる同業他者諸氏が、テレビ(「ユーチューブ」)、雑誌類で吹聴した。
皆がその通りであってほしいと願っていたかもしれない今度の騒動も、「戦い済んで日が暮れて」明けてみたら、例によって不細工な太り方をした中年のオッサンが、イギリスのチャーチルの葉巻ならぬ、タバコを持って不確かな危うい歩みの姿を現した。
これで一件落着となったが(金正恩の健康不安説は払しょくできなかったが)、早くもインターネットにはこれらの「重体・死亡・替え玉」説を吹聴した人物のリストを作成して公表しろ、という野次馬根性の者の意見が出ていた。
アメリカのトランプ大統領は、「俺は金正恩のことは何でも知っている」というようなことを言っていたが、「本当に知っていたのだろうか?」。商売の才に長けたトランプにとって、この東洋の小国の子豚野郎がどうなろうと知ったことではなかったはずだ。「死んでいても生きていても」そのどちらかに当てはまる言葉は、いつでも瞬時に応えられるようになっていたはずだ。ただ、茶坊主大統領文在寅の韓国は比較的冷静であったが、韓国は、これまで何度も北朝鮮に騙されてきたから、素直に重体・死亡・替え玉説には乗らなかったようだ。
私もここで「誰が何を言った」などと詮索するつもりはない。北朝鮮のトップの死亡を望んでいる人は大勢いるはずだが、おいそれと重体・死亡・替え玉説を説くわけにはいかない。かつて、東京発の「金日成死亡」ニュースが世上を賑わしたことがあったが、これは線香花火のようにほどなく消えた。また、「金正日はすでに死亡している。今の金正日は替え玉(影武者)だ」と語った大先輩(私より2歳上)は「あえなくブラウン管の世界」から消えた。
今度の騒動の当事者は、色々と語釈を並べて逃げ切るであろうし、世の中もこんな金正恩の下らない「隠遁騒動」に関心はないから、すぐに忘れ去られるだろう。しかし、金正恩は間違いなく健康不安説が付きまとい、いつXデーが来てもおかしくはない。そのときも今回あれこれ吹聴した諸氏はまた「見てきたような嘘」ならぬ「私だけが知っている独自情報によれば」などとマスコミに登場するだろう。
今回の金正恩の隠遁にあたり、新聞には、おどろおどろしい見出しが載っていたが、金正恩は本当にコロナの感染が恐ろしくて東海岸に逃避したのだろう。金正恩の側近の者が「最高尊厳様、我が国は感染者が1人もおりません、WHOにも言いましたし、習近平兄貴にも我が国はゼロですと嘘を言って機嫌を取っているさなかに、最高尊厳様が感染していたとなったら笑いものになります。ここは先ずは避難してください。いずれ感染者ゼロはバレますが、そのときは“自分の所から最初の感染者が出ました”と手を上げた者の組織のトップなどを“国家反逆罪”で極刑に処すればよろしいのです」と言ったのだろう。
金正恩が本当にコロナ汚染に怯えなかったら、ミサイルを発射したりはしないで、堂々と各種の行事や現地指導をして健在ぶりを示すべきであった。もっとも、金正恩のマスク姿は見られたものではないから、誰もが「最高尊厳様、どうかマスクの着用を」とは言えなかったはずだ。
それにしても肥料工場の着工式に参加とは意味深である。もう田植えが始まる時期で、今さら肥料工場の着工式をしていて大丈夫なのか。北朝鮮では「窒素・燐(リン)酸・カリ」肥料のうち、「カリ肥料」と「燐酸肥料」の不足が指摘されている。(宮塚コリア研究所代表 宮塚利雄)
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