【書評】子供だましのテーマパークか。日本のトンデモ地名を斬る

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昔ながらの地名と違い、いわゆる「平成の大合併」以降に誕生した市町村名の中には、「トンデモ地名」と言われても仕方がない名称が数多く存在します。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが紹介しているのは、そんな地名800件の適否を検討した一冊。著者が「最低の地名」と断じる市名も公開されています。

偏屈BOOK案内:片岡正人『市町村合併で「地名」を殺すな』

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片岡正人 著/洋泉社

かつてわたしは「さいたま市」に住んでいた。日本屈指のワースト市名の。せめて埼玉市であってほしかった。戸田市に転居するまで何年か、このみっともない市名で年賀状を出していた。さいたま市ならどこにあるかわかるが、さくら市、みどり市って一体何県にあるんだ。この本は2005年に出版された。その後どんなトンデモ市町村名が生まれたかは、追跡するのが面倒なのでやらない。

「平成の大合併」により、日本中の市町村が競い合うように愚かな自治体名をぶち上げた。まるで幼稚園のようなひらがな名。つがる市、かすみがうら市、いすみ市、たつの市、いなべ市……。どこの自治体でも付けられる中央市、大空町、美郷町……。知名度のある地名を独占した奥州市、庄内町、南アルプス市、飛騨市、伊豆市、瀬戸内市、美作市、筑前町、奄美市……。枚挙に暇なし。

地域の歴史と伝統ある地名を容赦なく捨て去る一方、全国的に有名でブランド力のある地名は奪い合う。世間の耳目を引く名前を付ければ地域が発展すると考える、幼稚で阿呆な日本人だらけ。日本は子供だましのテーマパークのような国になってしまう。この本は、こうした現状を深く憂い、全国の新自治体名を総浚いするとともに、自治体の名称はどうあるべきかを考察したものだ。

まず平成の大合併の背景と地名というものの意味を確認し、「地名のつけ方」を本格的に検討する。カナ地名、瑞祥地名、僭称、CI地名、人名地名、合成地名など避けるべきだと断定する。さらに公募の問題点について考える。そして2005年4月現在、全国の膨大な数の新自治体名を、一つずつ適否を検討する。こんな無謀な企ては前代未聞である。問題のある物件、約800件を取り上げた。

全国各地の地名変更は、実はものすごく罪深い。歴史ある地名を簡単に捨て去りあまりに安易な地名に変更する。まさしく文化の破壊である。命名の発想がCIとしか思えない。地名を道具にしている。地名には「地霊」が宿る。簡単に変えたり、ないがしろにしてはならないものである。イメージアップなんて単なる「欲」の表れであり、すべての基本となる自治体の名称にはなじまない。

「湯陶里市」なる珍名が佐賀県で生まれそうになった。温泉の武雄市、嬉野町と陶芸の山内町、塩田町から「湯」と「陶」をとり「里」をつけ、流行の「ゆとり」にひっかけた。作った人たちは鼻高々だったが、武雄市民の反対多数で合併自体が崩壊した。後に、嬉野町と塩田町が嬉野市に、武雄市と山内町は北方町を含めて新たな武雄市に。一方で、東京都西東京市は2001年に誕生した。

東京の西部にあるのかと思ったら。地図で見ると東京都の中央より東ではないか。著者は「東京という大なるものに寄りかかった、個性放棄した名前でまともではない」と考える。広い範囲の一部ということで方角を使うのならまだしも、大きな有名な都市から見てどっちだという発想で付けるのは、あまりに情けない。東西南北が頭についた新しい自治体名って、イージーに過ぎると思う。

要は地名をその土地の歴史、文化、風土を一言で代表するこの上なく貴重な「無形文化財」だと認識し、それに敬意を払うべきだということである。

さて、著者の断じる最低の地名は「さいたま市」だった。市名がいやで引っ越したわけではないが、結果オーライ。地味だが人口増が続く金持ちの市、とりあえず住み心地はよい。

編集長 柴田忠男

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