朝日新聞の言う「対等な日米関係」の底の浅さ。日本がまず知るべきこと

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安倍首相の辞任表明を受けて、各メディアが長期にわたった安倍政権の功罪を総括しています。そのなかの一つ、朝日新聞が掲げた「対等な日米関係、見えぬまま」の見出しに違和感ありと語るのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、日米同盟の強固な「双務性」について解説。マスメディアは、大前提を理解し国民に示した上で「対等」についての議論をすべきと訴えます。

「対等な日米関係」とは?

9月1日の朝日新聞朝刊1面の左肩に、「対等な日米関係、見えぬまま」という見出しがありました。歴代最長を記録した安倍政権に関する企画ですが、「対等の関係」という言葉の使い方に違和感があり、ちょっと考えてみたいと思います。

企画は安倍晋三首相の辞任表明に当たり、日米関係をはじめとして北朝鮮拉致問題、北方領土、対中関係、韓国問題などを扱っている訳ですが、「対等の関係」という言葉は最初に取り上げている日米関係、それも安全保障に関するものです。

記事は書いています。「(安倍首相は)自著では『集団的自衛権の行使とは米国に従属することではなく、対等となること』だと強調。一方、『戦後の歴史から日本という国を日本国民の手に取り戻す戦い』とも語っている」

要するに、米国が求める集団的自衛権の行使容認、特定秘密保護法の制定などをやった。しかし、果たしてそれで対等な関係と言えるのか。それでもトランプ大統領は日米同盟を不公平だと主張し、武器の大量購入などを求めてきた。駐留米軍経費の増額にも言及している。それなのに、「首相が同盟強化の先に見据えた『対等』の姿とはどんなものだったのか、見えずじまいだった」──。

これは、場当たり的で国際水準に達していない日本の外交・安全保障政策を反映した、底の浅い記事と言わざるを得ません。そもそも、世界一の強大な軍事力と経済力、それに裏打ちされた外交力を備えた米国と対等な同盟国など、どこにあるというのでしょうか。コロナ対策の失敗の影響があっても、米国のこの位置づけは当面、変わらないと言ってよいでしょう。

同盟国でなければ、国力の大小に関係なく胸を張って対等に振る舞うのは当たり前です。しかし、同盟国の場合は米国の力を使って自国の安全を図っている訳ですから、対等に近い関係に持っていくためには、まず米国にとっての自国の価値を客観的に把握し、それをもとに米国との交渉や協議をしていく必要があります。

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このメルマガで繰り返し述べてきましたように、日本は米国にとって死活的に重要な同盟国です。確かに、米国と一緒に動き回ることのできる構造の軍事力は米国の意向で封じられています。だから米国は日米安保条約で日本に米国防衛の義務を課していないのです。

その代わり、日本は84カ所の米軍基地に米国がアフリカ南端までの範囲で行動するために必要な出撃、兵站、情報の拠点を置くことを認め、日本列島ごと自衛隊で守っています。他の国には備わっていない能力で、米本土なみと言って構わないほどの位置づけです。このように日本は非対称的な軍事力しか備えていないけれども、最も双務性の高い、つまり最も対等に近い同盟国なのです。

この現状認識に立って初めて、同盟関係の強化のために日本が何をなすべきかが明らかになり、足りない部分、日本が取り組むべき問題の優先順位も決まってきます。集団的自衛権の行使容認などの議論は、そのような流れで日本の姿勢を明らかにすべき事柄だったのです。日本のマスコミは、このような現状認識を国民の前に明らかにし、その上で「対等」という言葉について論じて欲しいと思います。(小川和久)

image by:Osugi/Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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