米中を代表するIT企業が連携し進めてきた5G。あらゆる面において中国を警戒するトランプ大統領がファーウェイ排除に動いたことで、この次世代通信規格を前提としたさまざまな計画の先行きが不透明になっています。メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネルコンサルタントの坂口昌章さんは、米中対立により起こる世界の分断が各国に及ぼす影響を考察。日本にとっては、和解が成立するより対立が続く方が好都合との見解を示しています。
米中対立で5Gはどうなるのか?
1.トランプ大統領は5Gを潰すのか?
中国のファーウェイとアメリカのGAFAは、互いに連携しながら5G高速通信を進めてきた。GAFAが収集したビッグデータを通信するには、5Gが必要であり、世界中のビッグデータを欲しがっていたのは中国政府だ。5G通信とは、中国政府がスポンサーの国際プロジェクトだった。
中国政府が膨大な監視カメラのデータを収集し、AIで分析し、顔認証するにも、5Gによる高速通信が必要である。これがウイグル人の人権弾圧にも使われている。しかし、同様のシステムは無人ショップや遊園地の顔認証にも使われる。技術そのものに善悪はないが、悪用もできるということで、その代表的なメーカーを排除したのである。
5Gアンテナは通信範囲が狭く、大量にアンテナを設置する必要がある。その基地局の機器を安価に提供するのもファーウェイの役割だった。しかし、米中の経済対立が始まり、西側諸国はファーウェイ製の機器の使用を禁止した。イギリスやドイツ、日本のソフトバンクも当初は、ファーウェイの通信機器を予定していたが、アメリカの意向に沿う形で全てキャンセルされた。そして、コストも跳ね上がった。
GAFAはビッグデータを中国政府に販売し、その利益で5Gインフラを整備し、そのインフラを活用して自動車の自動運転等に活用する構想だったが、その枠組みが完全に崩れてしまった。ソフトバンクは、MaaS(Mobility as a Service)ビジネスで世界市場のプラットホームを制覇しようとしていたが、その計画は先行き不透明である。トヨタもMaaS化を見越して、スマートシティの実験を計画したが、こちらも見通しが立てにくい状況だろう。
もし、トランプ大統領が何もしなければ、中国は5Gを通じて、世界のICT分野で確固とした位置を確保しただろう。その野望に気付いたトランプ大統領はアメリカの覇権を維持するために、冷静かつ戦略的に中国の思惑を破壊したのである。
2.デジタルから世界の分断が始まる
米国政府は、中国のファーウェイと取引した企業は、米国政府との取引を禁止すると発表した。そのため、ファーウェイは高性能の半導体を調達できず、5G対応のスマホも生産できなくなりつつある。
「ファーウェイがダメならOPPOがあるさ」と思う方もいるだろうが、中国メーカーである限り、いつ米国政府の一存で使用できなくなるかもわからない。更に、米政府は、グーグルに対して、ファーウェイのスマホにアンドロイドOSを提供することを禁止する見通しだ。完全にファーウェイを潰す狙いだ。