工具卸トラスコ中山が実践する、目からウロコな「置き薬」方式とは

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経済産業省と東京証券取引所は今年8月、「DX銘柄2020」を発表。グランプリに輝いたのは機械工具卸のトラスコ中山でした。このトラスコ中山のAIを活用した取り組みを紹介し、企業間取引「BtoB」のマーケティング手法を探るのは、メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』著者の理央周さんです。理央さんは、「サービスの質」で差別化する「富山の置き薬方式」を採用できた要因として、AI技術だけでなく、潜在ニーズを見つけ出す営業の役割に注目しています。

納期ゼロ?BtoBのサブスクモデルの創り方。トラスコ中山から学ぶ企業間取引のマーケティング

BtoB、企業間取引において、「マーケティングは関係ないので…」「うちは法人営業なので、マーケティングは必要ない…」と考えている企業も多いのが事実です。

今号では、マーケティングは対消費者向けだけの考え方ではない、企業間取引、法人営業の世界でも、マーケティングの考え方が重要だということを、トラスコ中山の事例からひも解いていきます。

トラスコ中山の取り組み

製造業などメーカーに、機械や工具などを卸す会社が、デジタル技術を使って、「納期をゼロにする」ことに挑んでいるとのことです。この会社は、トラスコ中山という会社で、お客様になる会社の工場の中に、自社の工具や消耗品を置く、専用の棚を設置して、在庫の増減を常に把握します。そして、工具や消耗品の需要を予測して、なくなりそうになったら、先回りをして配送しておく、という仕組みを作ったそうです。

日経新聞によると、お客さんの工場では切削工具、建設現場ではドリルなど、業種によって、必要な工具が多種多様であるし、季節によっても、資材の消耗度合いが、ニーズによってバラバラなのだそうです。

なので、今までは常に需要を先取りして、棚の商品を入れ替えなければ、使われない不良在庫が山積みされて、そのまま放置されかねない、ということになり、効率が悪かったのだそうで、この会社を始め、多くの工具卸は二の足を踏んでいたそうです。

さらに、この会社は227万種類の商品を扱っていて、スパナ1本から納品するきめ細かさを売りにしていたため、逆に、依頼が来てから見積もりを出す時に、多大な手間と時間がかかっていたそうなのです。

そこに、AIの技術を使って、これらを予測して、販売予測を立てて、受注をしていくことで、お客さんの工場で品物が切れる欠品も減らし、受注率を27%もあげたとのことです。

顧客の立場から見た場合

これは、お客さんであるメーカーの方は、発注作業をしなくても、常に在庫がある状態になるので、「納期ゼロ」ということになります。また、担当者の方も、いちいち電話やファックスなどで、発注をする手間が省けますし、必要な製品の「頼み忘れ」、ということもなくなるというわけです。

この仕組み、何かに似ていますよね。富山の置き薬の仕組みですよね。私が子供の頃などは、四角い引き出し付きの赤い箱があって、そこに、風邪薬とか、熱さましの頓服や正露丸など、よく使う薬が入れてあって、薬売りのおじさんが、毎月のようにきてくれて、使った分だけ入れてくれる、というあれです。

このように、先に品物を置いておいて、使った分だけ後で支払ってもらえばいいですよ、という考え方を、「先用後利」、先に使ってもらって、後で利益をいただく、と呼んだりします。作るための費用が先に必要になって、自社にお金が入ってくるので、キャッシュフローを考えると、一般的には、いいとは言われません。

しかし、お客様のためになるなら、ということと、なにより自分で買いに行かなくてもいい、という便利さがお客様のメリットになるのです。オフィスにお菓子が置いてある、「オフィスグリコ」「百円グリコ」も同じ考え方ですよね。これを、トラスコ中山はITを使って企業向けに仕組みを作ったのです。

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