「緊急事態宣言」どう浸透? 危機感、恐怖薄れ―識者、鍵は「共感」「思いやり」

2021.01.08
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by 時事通信

 1都3県を対象とした緊急事態宣言。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大に慣れ、自粛疲れも広がる国民の危機感は、昨年4月の前回宣言時ほど高くはない。宣言の実効性を高めるには何が必要か、専門家に聞いた。
 「前回は恐怖心が自制させたが、もうその手は使えない」と話すのはスマートフォンの位置情報からコロナ禍の人の動きを分析した東京大の渡辺努教授(経済学)。外出自粛の主要因は宣言ではなく、未知のウイルスへの恐怖心だったことが分かったが、感染者数と人出の相関が薄れており、恐怖心は既に弱まっているとみられるという。
 渡辺教授は「重症化しにくい若者が自粛しないのは合理的で、非難したり、恐怖をあおったりしても反発を招くだけ」と指摘。恐怖心と同じく行動変化につながる「利他心」が鍵だという。「第3波を乗り越えるには『他人にうつさないため』という思いやりをどう訴えるかが大切」とした。
 マスク着用をめぐる心理について考察した同志社大の中谷内一也教授(リスク心理学)は「自粛よりも多人数の会食などを正当化する意見に同調する人が増えているようだ」と危惧した。「抑制には、危機をどう『わがこと』と認識させられるかがポイント」と話す。
 「数字だけでは脅威は感じにくい。身近な人の問題と捉えさせ、約束事をより具体的に示せば伝わりやすい」と同教授。成功例として「単なる統計でなく命の話」「祖父母との最後のクリスマスにしないため」などと呼び掛けたドイツのメルケル首相の演説を挙げた。
 スピーチライターの佐々木繁範氏は「人の心を動かす演説には共感力が大切」と強調する。「限界が近い飲食店や医療従事者や楽しみたい若者。おのおのに悲痛な思いがある」とした上で、「数字や背景の説明だけでなく、そうした思いに理解を示した上で頭を下げてこそ、『一緒に頑張ろう』という気持ちになる」と政府に求めた。(2021/01/08-07:10)

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