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中国で「わりかん保険」が大流行。治療費払い渋り防止の斬新な仕組みとは=牧野武文

中国で「わりかん保険」が人気を集めています。事前に保険料を徴収するのではなく、加入者の中で病気などになり保険金支払いが発生すると、加入者全員で頭割りをして分担金を決めるというもの。アリババ系の「相互宝(シャンフーバオ)」では、月の負担は8元(130円)ほどで、がんなどの病気になると最高で30万元(約480万円)の互助金が受け取れます。このユニークな仕組みと課題を知れば、日本でもビジネスの参考になるはずです。(『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』牧野武文)

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※本記事は有料メルマガ『知らなかった!中国ITを深く理解するためのキーワード』2021年1月5日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:牧野武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト、フリーライター。著書に『Googleの正体』『論語なう』『任天堂ノスタルジー横井軍平とその時代』など。中国のIT事情を解説するブログ「中華IT最新事情」の発行人を務める。

中国で起こった「保険」のイノベーション

今回は、わりかん保険「相互宝」「水滴互助」についてご紹介します。

わりかん保険とは、事前に保険料を徴収するのではなく、加入者の中で病気などになり保険金支払いが発生すると、それに一定割合の管理費を乗せ、加入者全員で頭割りをして分担金を決めるというものです。計算方法などが公開されているので透明性が高く、公平性も保たれる仕組みです。アリババ系列の相互宝(シャンフーバオ)では、月2回の分担金支払いがあり、現在のところ4元前後。月の負担は8元(130円)ほどになります。

これで、がんなどの病気になると、最高で30万元(約480万円)の互助金が受け取れます。

さらに、ユニークなのが、互助金支払いに問題がある場合は、その詳細情報が公開され、支払うかどうかを加入者全員の投票で決めるという仕組みです。

申請者から提出された診断書などは、人工知能による画像解析で偽造チェックが行われ、ブロックチェーンで管理されるなど、テクノロジーも駆使されています。このようなわりかん保険は、2011年から登場しており、中国はわりかん保険の分野では世界に大きく先行しています。

アリババ家の「相互宝」、テンセント系の「水滴」はいずれも加入者数が1億人を突破しています。さらにこの成功を見て、百度、美団、蘇寧、滴滴なども続々と参入をしています。

なお、中国ではこの仕組みは、法令上保険商品には該当せず、別の枠組みで当局の規制を受けているため、「ネット互助」と呼ばれています。病気になった加入者に支払われるお金は「互助金」、加入者が毎月支払うお金は「分担金」と呼ばれます。

今回は、このネット互助の仕組みを「相互宝」を例にご紹介し、そのメリットと課題についてもご紹介します。

保険金の支払いは投票で決める。加入者1億人を突破した「わりかん保険」

「わりかん保険」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本では保険ベンチャーのjustincase(ジャストインケース)が「わりかんがん保険」を発売しています。

一般の保険では、保険会社が、病気になる確率などから設計を行い、掛金を決定して、毎月決まった保険料を支払います。ところが、わりかん保険は後払いなのです。加入者の中から病気になる人が現れて規定の保険金を支払うと、それを加入者全員で割り算をして、その月の保険料が決まります。加入者の中から病気になる人が出てこなければ、支払額は0円になります。一方で、多数の人に保険金支払いが行われると、毎月の保険料も上がります。保険金支払額に、一定割合の管理費を乗せて、これを加入者全員でわりかんし、後払いする仕組みです。

日本の場合は、保険料が低額になることや、仕組みの合理性から、現役世代のセカンド保険として人気が出ています。

日本のわりかん保険は、法令上、少額短期保険の枠組みで運用されていて、保険業と同じレベルの規制を受け、「P2P保険」などと呼ばれています。中国では、わりかん保険は保険商品には当たらないと解釈され、保険とは別の枠組みの規制がかけられています。そのため、「ネット互助」と呼ばれています。

現在、加入者が最も多いのは、1.18億人が加入する「水滴互助(シュイディー)」です。2016年5月からサービスを提供し、テンセントの出資を受けています。

中国では、もはやお決まりとなっていますが、この水滴の登場に反応をして、アリババ傘下のアリペイ運営会社「アントフィナンシャル」が「相互宝(シャンフーバオ)」を2018年10月に開始しました。これが瞬く間に加入者を増やし、一時水滴を抜く勢いとなり、このアリババとテンセントの競争が火付け役となって、百度、滴滴、美団などの主要テック企業が参入しているという状態です。

Next: 「ネット互助」4大メリットとは? 保険業界に起こったイノベーション

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