「破壊」と「繁栄」の30年周期。渋沢栄一の子孫が説く、これからの日本の姿

shutterstock_1708577290
 

昨年11月、菅義偉首相は2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボン・ニュートラル」の実現を国際公約しました。しかし、この理想からはるか遠いところにある現在の日本社会。この30年の間で私たちに何が必要で、どんな社会変化が訪れるのでしょうか?日本の資本主義の父・渋沢栄一の子孫で、世界の金融の舞台で活躍する渋澤健さんは、人間と社会の世代交代が重要なカギを握ると解説します。

プロフィール:渋澤 健(しぶさわ・けん)
国際関係の財団法人から米国でMBAを得て金融業界へ転身。外資系金融機関で日本国債や為替オプションのディーリング、株式デリバティブのセールズ業務に携わり、米大手ヘッジファンドの日本代表を務める。2001年に独立。2007年にコモンズ(株)を設立し、2008年にコモンズ投信会長に着任。日本の資本主義の父・渋沢栄一5代目子孫。

デジタル・トランスフォーメーションで世界が変わる

謹啓 ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。 

日本には明治維新以降繰り返してきた「30年の破壊」と「30年の繁栄」という周期性があり、現在は新しい時代に入り始めていると思っています。史上最大級のパンデミックはいずれ終息します。その時日本はどのように生まれ変わっているのか。 

菅政権が成長戦略として打ち上げたDX(デジタル・トランスフォーメーション)および「2050年カーボン・ニュートラル宣言」が社会にどう浸透するかが新しい時代の試金石となるでしょう。 

DXの本質は、実は「デジタル化」そのものではありません。情報をデジタル化すること(D)とともに、それを活用するマインドセット(X)と一体となることが重要です。仮に情報がデジタル化されていても、既得権益がその活用を阻んで抵抗するようでは、DXが日本の新しい時代を切り開くことはできません。 

そういう意味では、私たちが期待すべきDXとは実は「デジタル・トランスフォーメーション」ではなく、「デモグラフィック・トランスフォーメーション」かもしれません。 

2020年以降の日本の人口動態推計によると、全国で世代交代が日本社会が今まで体験したことない速度と規模で進みます。実は、このように社会の新陳代謝が著しく高まることが、これからの「繁栄の時代」のドライバーとなる可能性を示唆しています。 

日本を新しい時代へとトランスフォーメーションさせる主役は、まさに「デジタル・ネイティブ」と言われている若手です。カーボン・ニュートラルが目標とされている2050年に、現在の30代は60代になっています。20代は50代、10代は40代です。この世代が、日本の今後30年間における社会の主役であることは明らかです。 

これからの日本の少子高齢化社会において彼らは少数であるからこそ、自分たちの新しい時代の価値観に基づく創造力を活かして、のびのびと仕事ができるという逆の発想の側面もあるはずです。 

私は今年還暦を迎えますが、まだこれから30年間は働くつもりです。日本が今後の30年に再び「繁栄の時代」を築くためには、健康で意欲的に働いている高齢者層の存在が不可欠です。しかし、過去の日本社会の「繁栄」を体験している我々世代は、時代のトランスフォーメーションの抵抗勢力となってはならない。 

むしろ今までの時代の成功体験の本質的な意味を、次世代の成功体験へとつなげる「トランスレーション」の役割があります。 

企業の存在意義は「利益の最大化」だという、これまでの成功体験の延長上線では、「脱炭素」は企業にとっての費用にほかなりません。しかし現在は、企業の存在意義とは「価値の最大化」へと思考が進化している過程だと思います。その「価値」とは、単年度の短期的な価値のみに囚われることなく、世代を超える持続可能なウェルビーイングな価値創造でありましょう。 

「脱炭素社会は世代間闘争」という声も聞こえてきます。しかし、脱炭素社会とは「か」ではなく、「と」の関係であることが本質です。世代間の体験、智恵、意欲を合わせなければ、新しい価値の成長を築くことはできません。 

print
いま読まれてます

  • 「破壊」と「繁栄」の30年周期。渋沢栄一の子孫が説く、これからの日本の姿
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け