以前掲載の「反プーチン指導者が重体。陰謀論ではない『ロシアで何が起こったか?』」でもお伝えしたとおり、何者かの手により毒殺されかけるも一命を取り留めた、ロシアの反プーチン勢力指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏。そんなナワリヌイ氏と彼の同志たちが公開したある動画が、ロシア国内に衝撃を与えています。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では、国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんがその動画の内容を紹介するとともに、プーチン政権の今後を考察しています。
プーチン神話の根幹を破壊する政治ユーチューバー
アメリカは大変ですが、ロシアも大変なことになっています。一番人気の政治ユーチューバー、アレクセイ・ナワリヌイが、プーチン神話の根幹を破壊する動画を次々と公開している。
何のことでしょうか?
ナワリヌイが公開した3本の衝撃動画
ナワリヌイは、ロシアで一番人気の政治ユーチューバーです。チャンネル登録者数は、478万人。カズヤさんが71万人ですから、約6.7倍。彼は、ロシア政府高官の汚職を暴いて、有名になりました。プーチン政権にとっては、うざったい存在。
昨年8月20日、彼は西シベリアのトムスクからモスクワにむかう飛行機の中で意識を失いました。飛行機は、オムスクに緊急着陸し、救急車で病院に運ばれた。ナワリヌイの妻は、「ロシアの病院にいたら殺される!」と思い、ドイツに救援を求めました。ドイツは、ロシア政府と交渉し、ナワリヌイはベルリンに移送された。ドイツの検査で、彼の血液から、軍用神経剤、化学兵器「ノビチョク」が出た。ドイツは、フランス、スウェーデンにも検査を依頼し、いずれも同じ結果になりました。ナワリヌイは、ロシアで毒殺されかけた。しかし、ドイツで治療を受け、健康を取り戻してきました。
そして、去年12月14日、「事件は解決された。私は、私を殺そうとしたすべての人を知っている」という動画を公開しました。ここで彼は、暗殺未遂の実行犯グループの顔写真と実名を公開したのです。そして、8人のグループが、3年間ナワリヌイを尾行しつづけていた事実から、このオペレーションは、ボルトニコフFSB局長の許可なしで行われることはありえない。そして、ボルトニコフが、プーチンの許可なしで、この作戦を指示することはありえないと結論づけた。
要するに、ナワリヌイ殺害命令をしたのは「プーチン自身だ」と(あくまで、彼がいっていることです)。
ちなみに、調査したのは彼自身ではなく、「ベリングキャット」というイギリスのジャーナリスト集団です。
この調査結果は、ドイツの週刊誌デア・シュピーゲル、スペインの日刊紙エル・パイス、アメリカCNNでも、検証され公開されました。
12月17日、プーチンは、記者会見でこの動画について語りました。なにをいったか?いろいろいったのですが、最重要ポイントは、「ロシアの諜報機関が毒殺したければ、毒殺しただろう」と語った。つまり、「ナワリヌイが生きていることが、ロシアの諜報機関がやってない証拠だ」と。
2020年12月21日、ナワリヌイは、また衝撃的な動画を公開しました。
● Я позвонил своему убийце. Он признался
これは、ナワリヌイが、実行犯の一人クドゥリャフツェフに電話し、「なぜナワリヌイを殺せなかったか?」という理由を話させた動画です。もちろん、ナワリヌイは、他人のフリ(パトルシェフ元FSB長官の補佐官)をして電話しています。
この動画、実行犯の一人は、飛行機が緊急着陸せず、「もう少し長く飛行していれば」ナワリヌイは死んだだろうといっている。そして、毒を「パンツにつける作戦だった」と認めた(彼自身は、オムスクでナワリヌイの服を洗い、毒物の痕跡が残らないようにする役割だった)。この動画について、プーチンのリアクションはありません。
1月18日、ナワリヌイは、ロシアに帰国しました。モスクワ・シェルメチェボ空港で逮捕され、30日間の拘留が決まります。そして、1月19日、彼の同志たちが、あらかじめ用意していた動画を公開しました。「プーチンのための宮殿。最大の賄賂の歴史」といいます。
これ、簡単にいうと、黒海沿岸にある「プーチンの巨大別荘」に関する動画です。ロシア語がわからなくても、30分ぐらいから見てください。その規模に卒倒することでしょう。建設費用は、推定1,400億円。建物以外も入れた総敷地面積は7,800ヘクタールで、モナコの39倍だそうです。
● 1400億円豪邸の主は…ナバリヌイ氏側、動画公開「汚職の実態」
公開1日で、3,600万人が視聴。つまり、ロシア人の4人に1人が見た。