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池江璃花子さんを奪い合う中止派と政府側。五輪開催をめぐる醜すぎる争いの着地点は?

コロナ禍により延期になった東京五輪の開会式まであと2か月ちょっとに迫るなか、日本国内ではその開催の是非を巡っての論争がここに来て激化するという、ある意味での異常状態に陥っている。

論争激化のひとつのきっかけとされるのが、弁護士の宇都宮健児氏が今月5日から始めた東京五輪の開催中止を求めるオンライン署名活動だ。人権派弁護士として知られるいっぽうで、これまで東京都知事選挙に野党系候補として3度出馬し、昨年の都知事選でも五輪推進派の中心人物である小池百合子氏としのぎを削った宇都宮氏が旗振り役とあってインパクトは大きく、11日の午前9時現在で32万筆を超える署名がすでに集まったという。

いっぽうで、オンライン署名に関しては政治評論家の竹田恒泰氏が「五輪開催支持」を掲げて開始したものの、これまでの筆数を比べると先の中止派の署名ほうが圧倒的に多い模様。さらに、9日には小池知事傘下の地域政党・都民ファーストが「インド型変異株の流入拡大を防ぐために水際対策の強化を内閣総理大臣に求める」という趣旨で、こちらもオンライン署名活動に参戦するなど、ネット上はさながら署名合戦といった様相を呈している。ただ、このような状況に対しては、一部からは「五輪開催をダシにした政治活動」との声もあがるなど、冷ややかな視線を送る向きも少なくないようだ。

池江璃花子の存在を奪い合う五輪中止派と政府

ネット上で五輪中止派の声がさらに高まるいっぽうで、昨年コロナに感染した経験を持つテニスプレイヤーの錦織圭さんが五輪開催に関して「死人が出てまでも行われることではない」とコメントしたほか、同じく女子テニスの大坂なおみさんも五輪反対の声に対し「人々がリスクや大きな不安を感じるのなら、今されているように絶対に議論すべきだ」と発言。五輪の一番の当事者であり、その声が特に尊重されるべき選手たちからも、開催に対しての慎重論が相次いだことで、中止派の勢いがさらに増す格好となっている。

ただそのいっぽうで、白血病の闘病生活を経て東京五輪の代表入りを決めた水泳の池江璃花子さんに対して、SNSを通じて代表の辞退や五輪への反対を求める匿名のメッセージが多数寄せられるという、あまりにも非道な事態が起きていることが、本人の告白により発覚した。

中止派の立場からすれば、池江さんから開催に懐疑的な発言を引き出すことで、中止論をさらに勢いづかせようといった意図があったことは、間違いのないところ。ただその要求が、彼女が今回の代表入りまでに経験した数々の苦労を無にする、いたって身勝手すぎるものであることは言うまでもなく、多くの批判の声が寄せられる結果となった。

ただ、五輪開催の是非に池江璃花子さんの存在を利用したかったのは、決して中止派だけではない。先日9日にNHKの討論番組に出演した西村康稔経済再生担当相が、コロナ下での五輪開催について意見を求められた際に、「池江さんの活躍を見たい方もいる」といった趣旨のコメントをしたというのだ。

この発言に対しては、「個人名をあげて大衆を誘導しようとしている」といった声もあがるなど、中止派からは多くの反発の声があがっている。ただ、東京五輪のアイコン的存在である池江璃花子さんを、自らの主張を正当化させるために利用しようとした点に関しては、どっちもどっちだという意見も。まさにこの状態は、中止派と政府が池江さんを奪い合う「棒倒し」を繰り広げているようなもので、勝手に棒にされた池江さんにとっては迷惑この上ない話であろう。

丸川五輪相の「絆」発言にも批判が集まる

先述の通り「政治的な動き」との指摘もされる五輪中止の署名活動だが、そのターゲットとされているのが菅首相。五輪を成功裡に終え、その勢いで衆院選になだれ込むことを狙っているのが、もはやバレバレな菅首相だが、ここに来ての中止論の盛り上がりを受けて、かなり動揺しているのではといった声もあがる。

現に10日の衆参両院の予算委員会集中審議では、開催中止を求める野党側の質問に対して、「選手や大会関係者の感染対策をしっかり講じ、安心して参加できるようにするとともに、国民の命と健康を守っていく」という答弁を、なんと12回も繰り返し、さらに「五輪ファーストだ」との指摘には「五輪ファーストではない」と色をなして反論するなど、その反応ぶりには明らかに焦りの色が見て取れる。

いっぽうで、資料も見せてもらえないというお飾りぶりが話題となった丸川珠代五輪相は、11日の閣議後に行われた定例会見で、五輪開催の意義について問われ「コロナ禍で分断された人々の間に絆を取り戻す」と発言。その抽象的すぎるコメントに「情緒的威圧で反対論封じ」「お花畑」といった批判の声相次いでいる。

ここに来て五輪中止論が、出場アスリートに圧力を掛けるという暴走行為が起こるまで盛り上がるいっぽうで、政治的都合であくまでも五輪を強行しようとする菅首相をはじめとした政府側。丸川五輪相は絆の大切さを訴えているが、このままの対立が続けば絆どころか分断がさらに進むばかりか、今後五輪が開催されようが中止になろうが、後々に大きな禍根を残すことは間違いなさそうな情勢だ。

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