5月6日、ソフトバンクは楽天モバイルと営業秘密をソフトバンクから持ち出したとして逮捕起訴された元社員に対し、1000億円の損害賠償請求権があると主張。その一部として10億円の損害賠償を求め提訴しました。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、ソフトバンクの宮川新社長が説明した1000億円もの請求権の内訳にあった「ローミング回線費用の低減」について、回線提供側のKDDI高橋社長に直接質問。3社が関係する訴訟の注目点の一つを浮かび上がらせています。
ソフトバンク宮川社長、楽天モバイル1000億円訴訟の内訳を明らかに──KDDI高橋社長は「ローミング収入の大幅減」を否定
2021年5月11日、ソフトバンクは決算会見を開催した。宮川潤一新社長による初めての決算会見となった。今週、各キャリアの決算会見が相次いだのだが、個人的に聞きたかったのが、NTTによる総務省への会食問題への受け止めだ。宮川社長に尋ねたところ「本当は(通信)行政が歪められたかどうかといったところまで踏み込んだ発言をすべきかもしれないが、今、第三者委員会で検証していただいているため、その見解を聞いた上で議論をさせていただきたい」としていた。
副社長時代はメディアからの質問に対して、ざっくばらんに本音を語っていた印象があっただけに、社長になって、ちょっと慎重になっているのかも知れない。
もうひとつ聞きたかったのが、先日、ソフトバンクが楽天モバイルと元社員を訴えた際、1000億円規模の損害賠償請求権があるとしていたのだが、その1000億円がどんな根拠に基づいているか、という点だ。その根拠について宮川社長は「最大の金額を計算して裁判所に提出した。その内訳としては基地局の建設の前倒しや新規契約者の獲得、契約者の解約の低下、KDDIからのローミング回線費用の低減などを一通りの計算式で計算した最大の金額」とコメントしていた。
ここで気になったのが「KDDIからのローミング回線費用の低減」だ。つまり、楽天モバイルはソフトバンクから元社員が運んできた基地局情報を活用し、ネットワークを整備。結果として、KDDIへのローミング費用が減るという恩恵を受けているのではないか、としてソフトバンクは1000億円にその恩恵分を盛り込んでいるというわけだ。KDDIのローミング収入が減ったことが結果としてソフトバンクの損害賠償額が増えるというのも何とも不思議な構図だ。
楽天モバイルがソフトバンクの基地局情報を活用したのかどうかは司法の判断を任せるとして、実際、KDDIのローミング収入は減っていたりするのか。
KDDIの決算会見で高橋誠社長に「楽天モバイルがローミングを早い段階で打ち切り始めた。その受け止めと、ローミング収入のアテが外れたということはあるのか」と質問したところ、高橋社長は「収入面では稼働数が想定よりも若干増えている。エリアカバーはされているが、まだまだローミングが使われている。楽天モバイルとは5年間の契約を結んでおり、ビジネス条件もあり、早期にローミングを打ち切られても我々の収入が大幅に減るというものではない」としていた。
となると、ソフトバンクは最大で1000億円規模としているが、KDDIからのローミング回線費用の低減はあまりなさそうなだけに、最大額になるということは無いのかも知れない。いずれにしても、楽天モバイルがこの事実を証明するにはKDDIが法廷で証言する必要もありそうなだけに、ソフトバンクと楽天モバイルの裁判はかなり注目を浴びることになりそうだ。
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