【書評】橋本治が三島由紀夫の小説を『写生画』と表現したワケ

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多くの文学賞を受賞する小説家としても、飾らない内容で書き上げる随筆家としても著名な故・橋本治氏。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、橋本氏のポリシーを記した『バカ』面白い一冊です。

偏屈BOOK案内:橋本治『そして、みんなバカになった』

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そして、みんなバカになった

橋本治 著/河出書房新社

橋本治は2019年1月29日に70歳で亡くなった。1968(昭和43)年東京大学在学中に、「とめてくれるなおっかさん 背中のいちょうが泣いている 男東大どこへ行く」という東京大学駒場祭のポスターで注目された。わたしもさっそくパロディを作って、大学の文化祭で展示した。なにしろ「レタリング研究会」なる愛好会の設立者なのだ。女子部員が8割というお花畑だった。52年前の話かい!

「♪お魚くわえたどら猫~」って泥棒猫が台所に、という歌かと思っていた。橋本が解説する。戦後に食料の配給があると、町内会が道ばたに新聞紙みたいのを広げて、配布用の魚を並べておく。誰かが見張り番をしている。サザエさんが番をしているとき、野良猫がくわえて逃げちゃった、というシーンだという。『サザエさん』は戦後風俗にシンクロしている時期があったらしい。

橋本にとって本を「読む」のと、絵を「見る」のは同じ。「読む」の幅を拡げている。文章も絵もいっぺん壊して解体しないと読めないという。三島由紀夫がすごいのは情景描写で、『午後の曳航』は近代でいちばん美しい写生画だと絶賛。デッサンの跡が緻密に書いてあって、それに薄く絵の具を塗った水彩画のようなもの。つまり字が見えていて、そこに風景があるというもの。

行間で絵を見せるのではなく、文章が全部、彼の骨格になっていくくらいで、正確きわまりなくて、その正確さが美しいのだそうだ。「あれだけの風景画を描いている人って、画家でもそんなにいないでしょう」とまで書いているので、どんなにすごいのか、書棚から三島由紀夫全集14を引き出して『午後の曳航』を読んでみたが、橋本の力説するような現象は、わたしには全然起きなかった。

橋本がワープロで書かなくなった理由は、三島について書いているときに、三島の直筆原稿が頭に浮かんだからだ。三島は死に向かいながらも、一字一字、万年筆で書いていた。もうひとつは、「ひらがな日本美術史」の取材で、寺僧の許可を得て円空仏に触れたとき、小刀を持って何かを作りたがっている子供みたいな感覚が蘇り、自分は手が好きなんだと思った。それから手書きになった。

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