1月には「開催には75%の確信しか持てない」と発言し注目されたカナダのIOC委員ディック・パウンド氏が、今度は「アルマゲドンでもなければ開催する」と東京五輪の開催強行を主張し波紋を広げています。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、「アルマゲドン発言」の意図を探るべく、過去の新聞記事を検索。コロナ禍はアルマゲドンそのものではなくても、人の生き方の変更を迫る大きな災厄であると、その真っ只中での強行開催の姿勢に疑問を呈しています。
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IOC委員「アルマゲドン」発言を受けて、各紙の「アルマゲドン」過去記事をあらう
きょうは《東京》からです。【セブンNEWS】の最後に取り上げた、「アルマゲドン」が出てくるニュース。どうも、パウンド委員の言っている意味をつかみかねるところがあるので、試しに「アルマゲドン」で検索すると、《東京》のデータベースからは4件ヒットしました。これを見ていきましょう。まずは《東京》1面下の記事の見出しと【セブンNEWS】第7項目の再掲から。
アルマゲドンない限り五輪開催 IOC委員、英紙に主張
開催に批判的な声が高まる東京五輪につき、国際オリンピック委員会で最古参のディック・パウンド委員(カナダ)は「予見できないアルマゲドンでもない限り実施できる」と発言。アルマゲドンは新約聖書のヨハネの黙示録に記された「世界最終戦争」を意味する。
以下、記事概要の補足。ディック・パウンド委員の発言は、英紙イブニング・スタンダード(電子版)が伝えたもの。79歳のパウンド氏は、「何が問題なのか分からない。充分な情報を持つ科学者たちが保健所と連携し、五輪を開催しても日本国民へのリスクは増加しないと言っている」と発言。来日者の大半がワクチンを接種し、「バブル」内に止まるため安全を確保できるとも。
●uttiiの眼
パウンド氏は歯に衣着せぬ発言で知られる「直言居士」タイプの人。忖度とは無縁で、バッハ会長とも対峙してきたと言われている。特にロシアのドーピング問題では、プーチン露大統領と蜜月関係にあるとされるバッハ会長が軽い処分で済まそうとしたところ、パウンド氏は強硬論を主張したという。
東京五輪開催に関しても、今年1月には「開催には75%の確信しか持てない。ウイルスの感染拡大だけは、現状ではコントロール不能だからだ」と懐疑論を述べていた。ところがどういうわけか、このところはむしろ開催積極論に傾いていて、「アルマゲドンでもなければ開催する」と言うのでは、バッハ会長の精神論とドッコイドッコイの強行主張にも聞こえてしまう。何かあったのだろうか。
【サーチ&リサーチ】
*きょうはいつものように記事を何本か紹介するのではなく、4本の記事に含まれる「アルマゲドン」が何を意味しているのか、整理することにしましょう。
●uttiiの眼
4本の記事が示す「アルマゲドン」は2つある。1つは、ブルース・ウィリス主演の映画『アルマゲドン』(98年公開)。地球に衝突する軌道に入った小惑星に決死隊を送り込み、核爆発で2つに割り、衝突を防ぐというストーリー。エアロ・スミスの主題歌と共に大ヒットした。「アルマゲドン」というタイトルは、宗教的な暗示というよりも、回避に失敗すれば人類の滅亡を招く事態…というようなイメージで使われているのではないかと思う。
もう1つはオペラ『アルマゲドンの夢』。「独裁者が軍事力で絶対的権力を握ろうとする夢の世界を描いたH・G・ウェルズのSF短編が原作」で、作曲家・藤倉大さんの作品。2020年11月15日に新国立劇場で世界初演された。記者はこの作品について、「コロナ禍で世界が混沌(こんとん)とする今、「世界最終戦争(アルマゲドン)」は予言的なテーマにも映る。「オペラに現実が近づきすぎては困る。これは夢だが、気を付けないと目覚められないかもしれない」」(清水祐樹記者)と書いていて、コロナ禍そのものを「世界最終戦争としてのアルマゲドン」と重ね合わせて論じている。
因みに、「小惑星の衝突」に関しては「映画を超える現実」が何度も起こっていて、6500万年前には恐竜の絶滅を引き起こしたとされる巨大いん石がメキシコのユカタン半島に落下しているし、1908年と2013年にはロシアに小惑星が落下。1908年は数十キロ四方の森林が薙ぎ倒され、2013年は約1500人のけが人が出ている。
さらに、映画の設定では「衝突の18日前に発見された小惑星」となっているが、実際にはそれだけ“余裕”があるとは限らない。事実、地球から僅か7万2千キロしか離れていない宇宙空間を、直径130メートルの小惑星が時速8万6千キロで通過した2019年7月の事例もあった。このケースで小惑星が発見されたのは、通過する僅か1日前だった。宇宙船を仕立てて小惑星に乗り込む暇など、実際にはないかもしれないのだ。
コロナ禍はアルマゲドンそのものではないかもしれないが、人類にその生き方の変更を迫る巨大な災厄とは言えるだろう。その最中、4年に1度の「世界スポーツ大会」をどうあっても開かなければならない理由があるだろうか。パウンド氏は「充分な情報を持つ科学者たちが保健所と連携し、五輪を開催しても日本国民へのリスクは増加しないと言っている」とするが、まず、その認識自体を改めてもらう必要があるかもしれない。
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image by:Maykova Galina / Shutterstock.com