携帯・スマホ料金の値下げや市場の流動化を押し進める総務省は、キャリアが販売する端末について「SIMロック原則禁止」を打ち出しました。これにより乗り換えがしやすくなることは認めつつ、多くの懸念点があると声を上げるのは、メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんです。今回の新たなルールは、キャリアが差別化のために工夫し開発する独自機種の意義を薄め、幅広い選択肢がある日本市場の良さをも消す懸念があると訴えています。
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総務省がSIMロックを10月から原則禁止へ。非回線契約者への端末販売義務化はキャリアの個性を殺すことにはならないか
総務省は5月28日、SIMロックを10月1日から原則禁止する方針を示した。これにより乗り換えを促進し、事業者間の競争を促す狙いだ。確かに、買ってすぐにSIMロックフリーであれば、乗り換えはしやすいかもしれない。しかし、そもそも、乗り換えを前提に端末を買うのであれば、家電量販店で売っているSIMフリースマホでいいのではないか。SIMフリーが前提となると、キャリア間での「端末ラインナップ競争」がなくなるような気がしてならない。
総務省では、非回線契約者でも、キャリアで端末を買えるようにしろ、としている。そのため、覆面調査を行い、実際に非回線契約者でも購入できるかどうかに目を光らせている。しかし、キャリアとすれば、契約ユーザーのためにメーカーと交渉し、調達してきた端末を他キャリアユーザーに使われるのは面白くないのではないか。
本来であれば、回線契約者の顧客満足度を上げるためにオリジナル端末を作ってきたはずなのに、そうした効果が出ないのであれば、キャリア自身、オリジナル端末を作ることから撤退する可能性も出てくるだろう。別にキャリアオリジナル端末まで、非回線契約者に売らせる必要はないのではないか。
各キャリアとも、KDDIであればROG Phone 5など、SIMフリーで個性の強い端末を取り扱うようになってきた。こうした、ネットや家電量販店ですでに売られているような端末であれば、非回線契約者にも売るべきだろう。
一方、今後、仮にINFOBARの新製品が出たときに、非回線契約者に売る義務が必要なのだろうか。INFOBARはauだからこそできた端末であり、auを契約しているという顧客体験を含めての製品なはずだ。これを非回線契約者に仕方なく売り、別回線で使われることが本当にユーザーのためなのかは、じっくり考える必要があるだろう。
総務省は、頭ごなしに料金競争のことしか考えていないが、本来であれば、端末のラインナップも競争のひとつにあるはずだ。また、そうした端末ラインナップを開発し、調達することが、キャリアとしての差別化とも言える。総務省のやり口は、そうした端末でのラインナップ競争を否定するものである。
SIMフリーでどのキャリアでも使えるスマートフォンが登場し、どこでも買えるという選択肢が増える一方で、「ここでしか買えない」という希少価値で勝負するスマホが出てきてもいいはずだ。なんでもかんでも「オープン」という考えは、せっかく世界でも幅広い選択肢の多い日本市場の魅力を損なうことに総務省は気がついていないのだろうか。
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