菅首相が、新型コロナワクチンを途上国などに分配する国際的枠組みに対し8億ドル、日本円で約880億円を新たに拠出すると表明したことが、大きな波紋を呼んでいる。
報道によると、日本が国際団体と共催する首脳級会合、いわゆる「ワクチンサミット」に出席した菅首相は、「ワクチンへのアクセスが、国の置かれた状況や経済力によって左右されることは断じて許されない」と発言。ワクチンを分配する国際的枠組みである「COVAXファシリティ」へ新たに8億ドルを拠出し、すでに拠出した額と合わせて10億ドルの貢献を行うとしている。
また他の記事によると、これによって「COVAXファシリティ」への拠出額は、アメリカの25億ドルに次ぐ規模になるとのこと。菅首相は、日本の公的接種の対象から外しているアストラゼネカのワクチンを念頭に、日本国内で生産する分を他の国・地域に提供する方針も明らかにし、まずは台湾への供給を検討しているという。
ワクチン外交の「周回遅れ」はカネで挽回か?
先進国と途上国といった各国間で存在する「ワクチン格差」の解消が叫ばれるなかでの、今回の日本による資金拠出を含めたワクチン分配の動きだが、その内実は助け合いなどといった心温まるものではなく、国際貢献を果たすことで世界各国での影響力を得たいという、要は「外交戦」であることは言うまでもない。
今回、菅首相の8億ドル拠出表明があった「ワクチンサミット」には、日米欧各国の首脳などが集まったが、その開催の狙いは、すでに精力的なワクチン外交を行い、途上国への影響力を強めている中国への対抗であるとは、多くのメディアが伝えるところである。
そんな中国だが、今年5月に承認されたシノファーム製ワクチンに続いて、つい先日にはシノヴァク製ワクチンが、WHOにおいて緊急使用が承認されたと報じられるなど、自前でのワクチン開発が着々と進んでいる状況。すでに中国のほか、チリ、ブラジル、インドネシア、メキシコなどでも承認されているというシノヴァク製ワクチンは、通常の冷蔵庫の温度でも保管できるため、超低温で大量のワクチンを保管するのが難しい途上国などでの活用が、今後も進んでいくとみられている。
それに対して日本だが、ワクチン開発に関してはご存じの通り遅れに遅れており、今年中に供給できる見通しが立っている製薬会社はゼロという状況。そこで「ブツがないならカネで埋め合わせ」とばかりに、アメリカに次ぐ巨額な拠出を行うことで、国際的な存在感を高めようというのだ。
とはいえ、一般的に緊急事態においては、カネよりもやっぱり現物のほうがより有難がられるのでは……と思ってしまうのが率直なところ。今回の巨額拠出に関して、菅首相は呑気にも「かつてない規模の貢献だ」と自画自賛していたようだが、これによってワクチン外交におけるこれまでの遅れを取り戻せるのかというと、はなはだ疑問符が付くところである。
日本のワクチン外交活発化に不満げな中国と一部の国内世論
このように、遅ればせながらワクチン外交に本腰を入れ始めた日本だが、そんな動きに対して中国はさっそく不快感を示しているようだ。
中国外務省の汪文斌報道官は5月末に行われた会見で、日本が台湾に対しコロナワクチンの一部を提供する動きを見せていることに関し、「ワクチン支援は、命を守るという本源的目的に立ち戻るべき」だと、ワクチンを政治の道具にすべきではないと発言。さらに、日本は自国民にすら十分なワクチン接種を保証できておらず、台湾でも日本の支援構想に疑問を持つ人が多い、とも指摘したという。
正直なところ「どの口が言う?」とツッコミたくなるようなイチャモンぶりだが、「自国民にすら十分なワクチン接種を保証できていない」との指摘は、ワクチンの確保に手間取り、接種体制の整備も遅れまくった日本のお粗末ぶりを考えると、ぐうの音も出ないところだ。
いっぽう国内でも、今回の8億ドル拠出に対して一部からは「自国民より海外優先か」「それなら一律給付金を」との声が。さらに、開幕まであとわずかに迫った東京五輪との関連で「途上国に参加させるための圧力か?」といった推測も浮上するなど、国民の理解はイマイチ得られていないフシもある。
いくらあっても足りない税金
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880億が「税金でなく」、拠出しても良いと判断した国会議員のポケットマネーから支払うのであれば、納得。
税金なら「なぜ日本国民より海外を優先するのか?」
国民の税金を、勝手に海外の人間に使うな!菅原に夏季賞与払うな! https://t.co/qWKHDL1u5j— Mama Mia (@MamaMiaMamaMiaM) June 2, 2021
菅総理
海外に何千億、何兆円も援助するお金があるのだから先に再度日本国民全員に一律給付をすれば、沢山の助かる命や暮らしが助かる人が多いと思います優先すべきは一律給付金です#Twitter一揆0602#一番優先すべきことは一律給付金#一律給付金再給付 #拡散希望RTお願い致します— @manami6165358 (@manami61658888) June 2, 2021
#菅首相#途上国支援8億ドル
約880億円…
五輪開催へ海外からの支持の思惑あり?
国民へのコロナ対策には出し渋り 五輪ファーストの日本
日本ってどこまでも自国民を守らない国なんですね#東京五輪#事前合宿も中止を途上国にワクチン支援8億ドル追加 @ABEMAで無料配信中 https://t.co/stHTGiQGZX
— koharu_koni (@KoharuKoni) June 3, 2021
コロナウイルスの世界的な感染拡大が収まらない限りは、今後も延々と続いていくと想定される各国間によるワクチン外交によるせめぎ合い。その是非を巡って、日本国内でも議論が今後より過熱していきそうだ。
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