『M 愛すべき人がいて』著者・小松成美が明かす「取材」の技術。 コミュニケーション力が日本のビジネスを加速する

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日常生活ではもちろん、ビジネスシーンにおいても重要視される「コミュニケーション能力」ですが、こればかりは生まれもって備わっているものではありません。では、この能力を高めるために私たちはまず何を見直し、何から始めれば良いのでしょうか。ベストセラー『M 愛すべき人がいて』や『虹色のチョーク』などの著書として知られる人気ノンフィクション作家の小松成美さんが、5月11日に創刊したメルマガ『小松成美の伝え方の教科書-ノンフィクション作家に学ぶコミュニケーション術』 では、たくさんのトップアスリートやトップ経営者の唯一無二の「人生」を取材してきた経験をもとに、書籍だけでは書ききれなかった小松成美流のコミュニケーション方法や独自哲学を伝授。その創刊号では、数多くのインタビュー取材で会得したという「コミュニケーションの基本であるマナーや礼節というものがいかに大切か」ということについて、的確かつ丁寧に紹介しています。

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コミュニケーションは感謝と準備から

私は、人に会い、話を「聞く」ためにはまず、礼を尽くさなければならないと思っています。「そんなこと当たり前のこと、誰でも普通にやっている」と思うかもしれません。しかし、当たり前のことができていない人が大勢いるからこそ、マナーや礼節の大切さを解く本やセミナーがどんな時代も必要とされているのです。

なぜ、マナーが必要か、と問われたらあなたはなんと答えますか。自分の胸に手を当てて、少し考えてみてください。

人を敬う心の現れであり、人々が円滑に暮らす生活の潤滑油であることは間違いありませんが、取材やビジネスでは、さらにその答えが明解です。

なぜ、マナーが必要か。その理由は次の3つ。

  • マナーを会得し披露することは、自身の経験や教養の証明になる
  • 相手の経験やビジネスのレベル、真剣度合いを知ることができる
  • マナーを体得すれば、「自分軸」で物事をすすめることができる

礼儀やマナーを体得すれば、自分の体験やポテンシャルを一瞬で相手に伝えることができます。同じように、向き合う人のマナーを観れば、経験やレベル、その場にどんな気持ちで臨んでいるかがわかります。取材もビジネスも一期一会。常に真剣勝負です。

心に余裕を持って礼儀作法を行うことで、その場、その空間を仕切ることができます。つまり、自分のペースで相手と接することができるのです。

昨今、マナーを軽率に扱う人も増えてきました。軽率にするその姿勢は相手にマイナス要素を与える可能性しかありません。少しの心配りと気配りで出来る礼節を疎かにしてしまう姿勢は、リスクマネジメントの観点からもお勧めできません。むしろ、いくつかの基礎マナーを会得するだけで、対人アドバンテージ(有利、利益、利点)を手にできます。自分軸を持つことから、交渉やプレゼンテーションは始まります。

マナーは、ビジネスにおいても「成功にとっての適切な準備」と言えるのです。

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挨拶に始まり、挨拶に終わる

マナー・礼節の第一章は、まず「挨拶」です。

多くの日本人は子供の頃から「きちんと挨拶をしなさい」と言われます。家庭でも学校でも、挨拶から一日が始まり、人間関係がスタートするのだ、と繰り返し教えられます。

確かに、清々しい挨拶は気持ちを晴れやかにしてくれますが、挨拶の効用は実はもっとダイレクトなものです。

それを端的に示すと以下の3つになります。

  • 自己の存在を証明する
  • コミュニケーションの意思を表明する
  • 自信を育成する

挨拶は、「私はここにいます」「あなたと向き合っています」という発信であり、その声のトーンや言葉遣いは、個性や思考を伝えるインパクトある信号です。挨拶の言葉・動作は、内に込められた思いにタグを付けたようなもの。知性や意欲や情熱を伝え、向き合う人たちにこちら側の意志を明解に伝える重要な初動なのです。

言葉と動作・行動がその人の人生を決めると言っても過言ではありません。使命や価値観、仕事への動機など胸に詰まっていることを伝え、表現していく人の最初の言葉が挨拶なのです。

挨拶の数だけ自己のイメージを伝える機会を得ます。その積み重ねが自信となり、信頼となります。挨拶ができない人を信頼できないのは、短い挨拶の先にある膨大なコミュニケーションを拒否しているように感じられるからです。たかが挨拶、されど挨拶です。何事も些細なことが大事なのです。

礼を尽くすというのは、相手への尊敬から発する行為ですが、私は自分自身のためでもあると考えています。相手が発信する情報をもれなく受け取るために、大きなプレート(受け皿)を用意したい。受け皿を大きくすればするほど、たくさんの情報を受け取れるようになります。礼節は、情報を入れる容器(キャパシティー)の確保であり、また「おもてなし」の心だと思うのです。
もう一度言いましょう。礼を尽くす──。

本来は儒教の精神を背景にした言葉ですが、ここではそうした思想性ではなく、向き合う相手に対して「マナーを守ること」という意味で、その態度のありようを見ていきましょう。

日本のマナーは、とても細やかに設定されていて、厳密です。でも、そのマナーを習得していくと、情報を盛るプレートがどんどん大きくなり、また頑丈になります。厳密とはいっても、難しく捉えることはありません。要するに、「気づかいのススメ」です。気づかいこそが、マナーの始まりだと考えます。相手を気づかえば、それがすべて自分に返ってきます。気をつかっていると不思議なもので、おのずと相手は欲している情報をより早く発信してくれるようになります。相手に心を開いてもらうには、こちら側から心を開いていく。その心を開く方法のひとつが相手への気づかいです。

たとえば、

  • 挨拶をきちんとする
  • 会議や会食やタクシー内での席順を臨機応変に判断する
  • 美しい作法で食事をする

こうした一つ一つの行為によって、人が受け取る印象は変わります。それぞれの行為が一つ一つ、相手へのメッセージになるからです。話を聞く場で、相手を自然に上座に案内することができれば、それは「自分の立場をわきまえている」というメッセージになります。

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マナーは正解がひとつじゃない

マナーを学ぶ方法はいくらでもあります。数々のマナー本に加え、インターネットでもほとんどの情報が収集できます。気に入ったマナー本を一冊手もとに置いて、気になることがあったら幾度も繰り返し見直す習慣をつけるのです。

マナーは言葉を発する前段階のコミュニケーション。まずマナーを知り、人間関係を豊かにするための基本設定をしておくのです。外国の方に会い、話をうかがうときには、その国のマナーをあらかじめ学んでおくことも大切な心遣いでしょう。マナーとは、それぞれの文化の中で生まれたルールですから、世界中のいたるところに、固有のマナーがあります。

一つ留意しておきたいのは、マナーは文化に根ざした、それぞれの文化固有のものであるということです。だから、文化が異なればマナーも違ってきます。外国と日本では習慣が違います。たとえば、日本では子供の頭をなでることは、その子供を慈しみ、親愛の情を示す動作ですが、タイ、ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどでは子供の頭には触ってはならない、と言われます。頭にはその人の霊が宿ると考えられていて、そこに他人が手を触れるのは大変な侮辱になるのです。

クリント・イーストウッド監督・主演の映画「グラン・トリノ」にもそうした場面が登場しました。クリント・イーズとウッドがモン族(タイやラオスの少数民族)子どもの頭を撫で「頭には魂が宿ると考えられているので子どもであっても頭を触ってはいけない」と、諫められるのです。

同じ日本人同士であっても、年齢や性別、その人やその属する集団が人間関係やマナーにおいてどのような感覚を持っているかで、振る舞い方はおのずと変えなくてはならないでしょう。可能であれば、向き合う人の文化的バックグラウンドを事前にチェックしておくことも大事です。事前の準備こそが、相手へのリスペクトです。

基礎のマナー学習と、その場その場での応用。この両方が求められるので、易しくはありませんが、だからこそ、マナーを学んで身につける喜びは大きいと思います。基礎のマナーを学ぶことは、気づかいを学ぶこと。ここを「当然のことばかりだから読み飛ばしてしまえ」と思った人、ふとした瞬間に落とし穴があることを肝に銘じて下さい。

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フラットな心で人と向き合う

マナーのベースは常に「相手を思う」ことにあります。相手の立場や胸中を気づかう、思いやるということです。しかし、マナーの本を一生懸命に学んで、知識が身についたときに陥りやすいのが、“階層意識”です。

「人の立場、肩書き」ばかり見る「クセ」がついてしまい、立場や肩書きなどだけで人を判断し、それを物差しにして対応するようになってしまえば、それは、もはやバイアスのかかった見方しかもてなくなっている状態ですね。初対面の場で、日本は「どこの部署・役職の人なのか」を気にしやすく、欧米では「何をしている人なのか」を聞く、と言われます。この文化の背景を考えてみると何か興味深い考察が得られるかもしれません。

私は、年齢や職業、肩書きや経験に尊敬を表すと同時に、真っ平らな気持ちで人に向き合いたいと思っています。フラットな心を見失うと、その時点で既にいい人間関係は築けなくなってしまうと思うからです。

挨拶やお礼の言葉は、誰に対しても同じようでありたいものです。わけへだてなく誰に対してもきちんとしたマナーで応対できる人は、それによって、人を肩書きや立場で見ていないという、素晴らしい基本姿勢をメッセージとして発していることになります。

一例を挙げてみましょう。あるテレビ局で、早朝番組に出演していた時のことでした。「おはようございます」と、出演者に声をかけている若いAD(アシスタント・ディレクター)さんがいます。ADさんとは、テレビ番組を作る現場で、補佐的なさまざまな仕事をする人です。最近はテレビの舞台裏が紹介されることも珍しくありませんから、ご存じかもしれませんが、テレビ局のスタジオにはとてもたくさんのスタッフがいます。

ADさんはスタジオでさまざまな雑事をこなしています。彼らは、名前を名乗ることもありません。「おい!AD」と呼ばれたりもしています。私たちがスタジオに入るときには元気に「おはようございます!」と声をかけてくれます。なぜならADさんは「みなに元気よく挨拶する」役割も担っているからです。しかし、挨拶を受けた出演者の中には、ADさんに挨拶を返さない人もいるのです。ADさんだから、名前も覚えられず、挨拶もされないのが普通と思う人がいるのかもしれません。でも、それはもっともさみしいことだと、私は思っていました。

仰々しく挨拶する必要はないけれど、ADさんが「おはようございます」と声をかけてくれたら、「おはようございます。よろしくお願いします。」と自然に応える。それがコミュニケーションであり、そこに人間関係や対話が生まれていくのです。挨拶は、対話の始まりでもあります。私が挨拶を交わした若いADさんたちは、オンエアが終わると、スタジオの出入り口で私を待ってくれていました。彼らは「小松さんの本が好きで、何冊も読んでいます」と感想を告げてくれるのです。感想を聞いた私は、ADさんたちに名前を聞き、一人一人名前で呼ぶようになりました。

局内で顔を合わせると、自分の取材や新しいテーマについて話し、また私の新しい本が出ると読んでその感想を伝えてくれる。という交流が続いていきました。

数年後、そのADさんの一人がディレクターに昇進、私に番組への出演依頼をくれました。彼はチームリーダーとなったその収録現場で、「小松さんがADだった僕たちの名前を呼んでくれたことがすごくうれしかった」と言うのです。

彼はこう続けました。

「下積みの自分たちが出演者の方々にとって“人”ではないことは分かっています。人格なんて必要ない雑事の連続で、毎日言われたことをこなし、ミスをして怒鳴られないようにと、ふぅふぅ言いながら走り回っていました。そんな時、小松さんだけは、僕らの名前を呼んで、笑顔で挨拶をし、自分の大切なテーマや執筆の苦労を話してくれました。そして、よくこう言ってくれました。『○○さんがディレクターやプロデューサーになって作る番組を心待ちにしていますよ』って。僕は涙が出るほど嬉しくて、いつか必ず自分がディレクターになって小松さんと仕事をしようと目標を立てたんですよ」

清々しい表情で話す彼の横顔を見て、私も涙が溢れてきました。

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フラットな心は人の人生をも変える

私にも同じような経験があります。ライターになりたいと思い立ち、出版社を訪れた時のことです。「どんなささやかな仕事でも良いので働く機会をいただけないでしょうか。荷物運びでもアシスタントでもなんでもやります」と問い掛けた私に、編集の方々は、そのほとんどが笑ったり、露骨に迷惑そうな顔をしたり、しきりに腕時計に目をやったりしていました。

その頃会った読売新聞の女性記者の方が、執筆を生業にすることが不可能と思えて、すっかり気落ちしている私に、がこう言ってくれたのです。「今の小松さんは素人で、仕事も簡単には見つからないでしょう。でも、あきらめずに続けていけば、必ず作品が書けるようになりますよ。最初はみんな素人です。素人がプロになるのです。いつかあなたがプロになったら必ず、一緒に仕事をしましょう」

この新聞記者さんのフラットな心に、私は救われました。なんとか小さな仕事についた駆け出しの苦しい頃、この言葉を支えにしていました。自分が何者でもなかった時代、一人の人間として向き合ってくれたこの方の心が、勇気を与えてくれたのです。今も感謝の気持ちが薄れることがありません。

礼を尽くす心は、年齢、性別、環境、職業、人種といった相手の属性で変わるものではありません。変えてはならないのです。そう決意することが、対話を阻む高い壁を壊していきます。

鮮やかなグリーンの上で見せたたった一つの美しい礼は、人や物事にわけへだてなく接するフラットな心の大切さを改めて教えてくれました。その先に「聞く」「話す」というコミュニケーションの術が広がるのです。この先、私がノンフィクション作家として学んだコミュニケーション術の数々を、メルマガであなたにお届けできることを楽しみに思っています。

「礼節」と一言であらわすと難しく聞こえますが、その意味は「礼儀と節度」、つまり社会的ルールに適した行動や作法で敬意を表現すること。また、適度な度合いの表現のことです。根底にあるのは、他者に対するリスペクトと真摯に向き合う姿勢。いかなる立場においても感謝を感じられる謙虚な精神です。これらを意識するだけでも、日々の振る舞いは劇的に変化するでしょう。

先代からずっと大切だと受け継がれたものには、必ず理由があります。我が身を振り返り、心を整える。そんなきっかけになる1日にして欲しいです。

今日出会った人に、どんな小さなことでもいいから感謝を伝えてみる、そんな小さな一歩から始めてみるのはいかがでしょうか?

小事は大事。

皆さまの日々が幸せでありますように。(メルマガ『小松成美の伝え方の教科書-ノンフィクション作家に学ぶコミュニケーション術』5月11日号より一部抜粋)

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第一線で活躍するノンフィクション作家。生涯を賭けて情熱を注ぐ「使命ある仕事」と信じ、執筆活動を行うほか、テレビ番組でのコメンテーターや講演など多岐にわたり活躍中。

『アストリット・キルヒヘア ビートルズが愛した女』『中田語録』『中田英寿 鼓動』『中田英寿 誇り』『イチロー・オン・イチロー』『和を継ぐものたち』『トップアスリート』『勘三郎、荒ぶる』『YOSHIKI/佳樹』『なぜあの時あきらめなかったのか』『横綱白鵬 試練の山を越えてはるかなる頂へ』『全身女優 森光子』『仁左衛門恋し』『熱狂宣言』『五郎丸日記』『それってキセキ GReeeeNの物語』『虹色のチョーク』『M 愛すべき人がいて』など。

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